17
その場の空気は、重いものだった。
上座には国王、ならびに王妃が座っているが、どちらも表情は堅い。同じ卓にはパーサプル公爵夫妻と嫡男が着き、こちらも雰囲気は険しい。
場所は、王宮内ではあるが公式に使う場所ではなく、王族の私的な話し合いに使う会議室だ。
その部屋の扉が叩かれた。
「失礼いたします。シモン第二王子殿下、エルスパス侯爵代行、およびお連れの方がいらっしゃいました」
取り次ぎする者も室内の雰囲気を感じとってか、いつになく声が上ずっている。
が、その空気を全く頓着することなく、呼ばれた方は悪びれもせずやってくる。
「父上!」
入室してきたシモンは、輝かんばかりの笑顔だった。
元々顔立ちは整っている青年だ。些か線は細く、艶やかな金髪とぱっちりした碧眼は若干幼い印象を与えるが、人形のような美貌。実際、幼い頃からその可愛らしさが多くの人間に愛されて大事に育てられた。反面、ずいぶん甘やかされて我儘になっているが、本人その自覚はない。
現に今も、誇らかに宣言する。その言葉が、誰からも好意的に受け止められると信じ切って。
「父上、母上!私は、このデイジーと結婚します!」
「はじめまして、デイジーですぅ!」
言い切る彼の腕にまとわりついて笑顔を振り撒くのは、こちらもなかなか愛らしい娘だった。
ふんわりと軽やかな金髪、つぶらな明るい色の瞳。朗らかな満面の笑顔にも、輝くような明るさがある。愛されることを信じて疑わない、天真爛漫そのもの。
だがこの二人のまとう熱愛中の甘ったるい空気は、彼らを待っていた者たちにますます苦い顔をさせる。
「……ライアン」
苦い、というより冷えきった声音でパーサプル公爵が義弟を呼ぶ。若い恋人たちをその後ろで困惑したようにかつそれでも幾らかは微笑ましげに見守っていた彼は、慌てて出てきた。
「はい、閣下。お待たせいたしました、申し訳ございません」
「……あれは?」
謝罪は無視して端的に問う。だが端的過ぎてライアンには意味がわからなかったものらしい。硬直する彼に深々と溜め息吐いて、公爵は言い添えた。
「シモン殿下と、おまえの娘を結婚させるのは、おまえの判断か?」
「私というより、シモン殿下ご自身が。デイジーを是非妻にと望まれましたので」
普段、ライアン・エルスパスは無表情で知られている。髪や目の色が淡いこともあって人には無感動な冷たい人間と思われがちなのだが。実のところこの男は、そこまで冷酷ではない。むしろ気性は優しい方だが、物事の機微に疎く言葉の裏を読む能力に決定的に欠ける。それ故、貴族家を負うことは出来ない、というのが彼を知る者の総意だ。
今も、愛娘と王子様の幸福そうな様子を目を細めて見守っている。本当に裏も何もなく、慈愛を込めて。
それに深々とあからさまな溜め息を吐いた公爵夫人が問いかけた。
「それでは、殿下はそちらの娘と結婚なさるのね。……そうしますとエルスパス家はどうなりますの?」




