表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
政略結婚のため努力してきましたが、追い出されてしまいました  作者: あきづきみなと


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

12/42

12

とても珍しいことに、その日ブリジッタの元に届いたのはシモンからの呼び出しだった。

「殿下から、なんて……何かあったのかしら」

「ひょっとしたら陛下や公爵閣下から、何かお話でもあったのでは?」

ブリジッタ本人はもちろん彼女付きの侍女達も、誰一人としてシモン自身が連絡を寄越したとは考えなかった。

国王と公爵夫妻はまだ外遊中だが、もう二・三日で戻るらしいと聞く。その辺りは安全管理とか国家機密とか諸々あるそうで、そうそうはっきりしないのだ。

なので、今の王宮にはシモンより上位の人間が兄の王子と王妃しかいない。王妃も今日は外国大使夫人のお茶会で外出と聞いた。兄王子とは面識があるが殆ど親しくもなく、予定はわからない。

そのせいなのかどうか、訪れた王宮は常になく静かで人の気配が薄かった。

ブリジッタは婚約者だが、シモンの私室を訪ねたことはない。なので案内の侍従が彼女を王宮の中でも外れの、普段使われていない方へ連れていくのにも、疑問は抱いてもそれほど気にしなかった。おそらくシモンが、自分の部屋の近くには彼女を招きたがらなかったのだろうと素直に納得する。

「ブリジッタ・エルスパス嬢をお連れしました」

侍従が声をかけ、扉を開けて彼女と侍女を通す。

「失礼いたします」

「遅い」

ぶっきらぼうに応じたのは、ソファに陣取ったシモンだった。腕組みして彼女を睨む様子には尊大さが漂っているが、線の細い彼にはあまりその偉そうな態度が似合わない。顎をしゃくって着席を促すのも、単に態度が悪いだけの印象だ。

彼はどうもブリジッタに対しては偽悪的に振る舞いたがる癖がある。子どもじみた態度だしブリジッタも何度か苦言を呈したことがあるが、そうでなくとも彼女の言葉に耳を傾けたりはしないので効き目はなかった。

「お待たせいたしました、シモン殿下。殿下におかれましては、本日もご機嫌麗しく」

丁寧に礼をとるブリジッタにシモンは雑に手を振った。

「そういうのはいい、さっさと座れ」

どうやら今日は、儀礼をわずらわしく感じる日らしい。

シモンは気紛れで、丁重にもてなされないと激昂する日もあれば、儀礼に則った振る舞いに苛立つ時もある。規則性がある訳でもない気分屋なので、扱いが難しい。

「失礼いたします」

大人しくその向かいに座ったブリジッタの前にお茶が置かれた。会釈しながらちらりとそちらを見た彼女は目をしばたたく。

「……レイフォード様?」

「は、」

お茶を出してきたのは、先日従兄から名を聞いた彼の末の弟だった。シモンと親しくなったとは聞いたが、仮にも公爵家の令息が一体何をしているのか。

思わず漏らしたブリジッタの呼びかけに当人は動きを止めたが、彼が何か言うより先にシモンが割って入る。

「おまえは、レイフォードを知っているのか」

「え、ええ……従兄弟ですもの」

「ああ、そうだったな。……今レイフォードは俺に仕えてくれている。とても助かっているのだ」

「……さようですか」

公爵家の末っ子として甘ったれて育ったレイフォードに、同じく甘えた暴君のシモンに仕えることが出来るのかは正直疑問ではあるが。どうやら(少なくとも今のところは)彼を気に入っている様子のシモンに、下手な口出しは無意味だろう。

「……彼が、殿下のお側近く仕えるのでしたら、伯父上達も喜ばれることでしょう」

飽きっぽく何をやらせても続かないと、公爵夫妻を嘆かせていた末っ子だ。正直長続きするとも思えないが、伯父夫婦には一時でも安心させられるかもしれない。少しでも物事の良い点を拾っていかねば、ブリジッタ自身も精神衛生上良くない。

茶菓子と共に茶器がブリジッタの前に置かれる。作法に則ってはいるが、本来なら主人であるシモンにも出されるはずの茶が何故かなかった。

「……あの、殿下のお茶は……?」

「あ、いや……」

「私はさっき飲んだばかりでな!」

急に声量を上げるシモンに首を捻ったものの、そう言われては追及するのも失礼だろう。

大人しく取り上げたカップの茶は、水色からしてかなり濃かった。まあまだ修行中なのだろうな、と半ば諦めと共にそれを喫する。

「……」

やはり、普通より渋みも苦みも強い。王宮で出される茶葉はもちろん極めて上質のもので、とてももったいないと思う。

「それで、シモン殿下。本日はどのようなご用件でございますの?」

「う、うむ。……少し、今後についての、話がしたい」

「……はあ……」

ブリジッタの問いかけに落ち着きなく座り直してシモンは答えるが。目はそわそわと泳ぎさまよい、足を組み替えしきりと肩を揺する。どこからどう見ても不審極まりない。

「……でん、か」

問い質そうとしたブリジッタの舌がもつれる。視界が、ぐにゃりと歪んだ。

「……お嬢様!?」

侍女の悲鳴が聞こえるが、そちらを振り返ることもできない。歪み霞む視界に、シモンとレイフォードの安堵と嘲笑が入り交じる表情を見た。

「安心しろ、おまえに相応しい嫁ぎ先を斡旋してやる」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ