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「殿下のご様子を聞いていると、今一つ考え及んでらっしゃらないようでね」
キースはそう言って溜め息を吐いた。
「私も、話をさせていただきたいのですが……」
シモンがブリジッタと結婚してエルスパス侯爵家に入れば、パーサプル家との付き合いも深くなる。何かしでかせば、キース達にも影響が出るだろう。彼が危惧するのも当然だが、ブリジッタはもっと影響は大きいだろうし、他にもいろいろと不安材料はあって悩ましい。
何より意固地になったシモンは全くブリジッタの話を聞かないのだ。ここ最近、国王夫妻やパーサプル公爵夫妻がいないせいもあってその傾向は更に強まっている。
「私も、話をさせていただこうと思ったのだが……レイフォードがね」
「?レイフォード様がどうかなさいましたの?」
レイフォードはキースの下の弟だ。公爵家の末っ子として可愛がられて育ったせいか、些か我が儘でブリジッタとは従兄弟ながらあまり仲が好くない。というより、そもそも接点がなく、付き合いがあまりない。
なので彼女も彼の動向は知らなかったのだが、兄のキースとしてはいろいろ思うところがあるらしい。
「どこで知り合ったのやら、シモン殿下と親しくなったようで。伝えることがあれば自分が、と言って聞かないのだよ。……どちらもどちらなんだけど……」
ある意味で似た者同士ではある。だがどちらもそれなりの立場であるが故に、保護監督者としては扱いが難しいようだ。
「キースお兄様、王妃殿下に何かお伝えすることがございましたら、私からご伝言いたしますか?」
「ありがとう、ブリジッタ。ひょっとしたら頼むかもしれないね」
おっとり笑う従兄もなかなかに苦労が絶えない。苦笑してブリジッタは茶器を手にした。
王宮の喫茶室だけあって、品は良い。お茶や菓子も、下手な貴族の家で出すより上質な品が殆どだ。そして給仕や料理人も、同等に良く教育されている。時折それなりの貴族家から引き抜きがあるという。
「まあ一番いいのは、殿下ご自身が状況を理解していただくことなのだが……」
「……なかなか力になれませんで、申し訳ございません」
「いや、ブリジッタはよくやっていると思うよ。……ところでブリジッタは、王弟殿下を知っているかな」
「……『王弟殿下』、ですか……?お名前を伺ったことはございますが……面識はありませんわ」
「王弟のカレル殿下は、以前私にも声をかけてくださった気さくな方だ。殿下とも同じ立場なのだし、話をしていただけないか伺ってみようと思う」
前国王には3人、王子がいた。長男は現在の国王で一人は他国の王家に婿入りし、もう一人はかなり後になって寵妃が産んだ子で、これがカレル王弟だ。
国王とも歳が離れて母も地位が低かったため、辺境の荒地を賜って滅多に中央には出てこない。ブリジッタも面識は無いが、噂では武術の達人ながら気性の穏やかな好人物だという。この従兄より少し歳上だが、彼の言う通り気さくな人柄で人脈も広いという。しかし異母兄の戴冠にあたってはもめ事の種になることをおそれ、辺境の王家直轄地を領地にもらってそちらに引っ込んでしまった。
その行いだけでも、機を見る目と振る舞いを弁えた人物であることは伺える。
「お願いできますでしょうか。多分、私からでない方が聞いていただけると思うのです」
「ああ、カレル殿下はその辺りご理解なさってくださるから。それも含めて、お願いしておこう。……良い報せが出来ると思うよ」
そう気遣ってくれる人がいるというだけでも、ブリジッタには有難く感じられる。




