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36.明朗から暗転

「お話がしたいの。」


お茶会もお開きとなり、帰ろうとしていたところだった。


目の前に立っているのはクレア様である。

確かにここはトリードル伯爵家の邸宅であるし、クレア様がいるのはなんの不思議でもない。


「はい…」


クレア様の深刻そうな顔からきっと大事な話というものが読み取れ、私から視線をそっと逸らした。


「ありがとうございます。」


そのあとしばらく沈黙が続いたが、その沈黙を破いたのは他でもないクレア様だった。


「ここでは…話しづらいので違う機会でのお話でもよろしいでしょうか……そうですわね、明日なんてどうかしら……その、大事なお話ですので2人だけでのお話がいいのです…もちろん誰にも内緒で。」

「もちろん、構いません。」

「ありがとうございます。」


そう言い、指定してきた場所は、王都にある一件の店だった。

時間と場所を示し、クレア様は直ぐに邸宅へと踵を返した。


「リリアナ様?どうかなさいました?」

「アリアお姉様…大丈夫です。お気になさらないでください。」

「クレアは根はいい子ですの。リリアナ様もどうか仲良くしてあげてくださいませ。」


アリアお姉様は優しく微笑むと私がトリードル伯爵家に来る時に使った馬車の元へと案内をしてくれた。


____________________________________________


「本当に行くのか?」


私の私室をまるで自分の部屋のようにくつろぎながらノアは口を開いた。


「約束したから…」


約束は破れないと言うと、ノアは小さく溜息をつく。



だって…約束してしまったし、今更行けないなんて行けないし………



「なんかあまりあの女良い感じしないんだよなあ…まぁ、俺も着いて行って、何があっても守るし、大丈夫か。」


仮にも伯爵令嬢であるクレア様をあの女というノアは、本当に自由だなとは思うも、こういうときノアはとても頼れる。


何故か分からないけどホッとする……


ちゃんと守ってくれるって言ってくれて、本当に言葉通りに守ってくれるから。


アルだってきっとここにいたら私を守ると言ってくれたかもしれない。多分。絶対。



_____っ!!


え……まっ…て……まって、アルって……私、今、ノアの言葉を完全に頭の中でアルの声に言葉に、変換してた……うそ……な、んで…


アルに会えなくなってから数日間でアルに会えない寂しさをどこかで感じていた。

その寂しさは日に日に大きくなっていったけれど自分では考えないようにしていた。


うぅ……だって、あんなに毎日毎日会っていて、私が前世で何度欲しがっても手に入らなかった言葉を何度も伝えてくれて、包んでくれて……


それが急になくなったら寂しくなるのも、、、当たり前だと思う。


少し紅くなった頬を隠すように包み込み、顔の熱を冷ます。


少しずつ変わりゆく自分の変化に着いて行けなくて、だけどそんな思いを抱える自分を狡いと思ってしまっていて……

あんなにアルとの間に線を引いていたのは私なのにいつの間にかその線をなかったようにしてしまうのは、どうなんだろう________________。









「ここの路地…なのかな。」



本当にここの近くにあるのだろうか。

指定された店の名前の場所を近くに居た老人に聞き、この路地裏の中だという。


圧倒的な違和感に入りたくはないと心が拒否をするがそんなことも言ってられない。

この場所を探すのに時間がかかってしまっているし指定された時間からは5分ほど遅れてしまった。

きっとクレア様がここに1人いるのだろう。

想像してしまったら、やはり早くクレア様に会わなければと思う。


路地裏を進むと、ノアの顔色が悪くなっているのに気づいた。


「ノア、大丈夫?」

「姫さん悪いが、今日は無理だな。」

「どういうこと…?」


額に汗をかきながらノアはなにか切羽詰まったように話す。

お店はもうすぐ近くだと言うのに。


「ちっ。姫さんすまない。いいか。俺が3秒数えるから直ぐに路地裏を抜けて、大通りに出てくれ。すぐ近くに衛兵の派出所がある。衛兵に家まで送って貰ってくれ。絶対1人だけにはならないで欲しい……俺は一時離れる。」


ノアの慌て具合になにかがあったというのは分かる。けれど一体何があったのか…私には全くわからなかった。確かに変な感じはするけれど、至ってこの国の普通の路地裏だ。

ノアの額の汗はどんどんと増し、今がどれだけ異常事態なのかがひしひしと伝わる。

クレア様がどうしているかも気になるが、ノアの言葉を信じてわけも分からず頷いた。


「ありがとう。いくぞ。3……2、1、走れ。」


ノアの合図と共に一気に走り出す。

ノアはというと、私と逆の方向に走り出した。


走れと言われたが、今世では思いっきり走ったこともなければ、もうすぐ7歳になるとはいえ、まだ幼い私の足の全力疾走なんてたかがしれていて、なおかつ足が覚束無い。



何が起こっているのか、なんで私はこんなに走っているのか、誰かに聞きたくて、理由なんて分からないのにこの状況が恐ろしくて……………




「……きゃっ。」


そんな思いを抱きながら、ただ足を前に出すことに精一杯な状況で走ったら転ぶのだって当たり前だった。

転んだあとの膝からは皮が剥け、じわっと血が出始める。



___________痛い…痛い……


痛さを堪え起き上がりもうすぐ大通りに出られると顔が緩んだ瞬間だった。路地裏と大通りの明暗の差に目がチカチカとする。


明暗の境目をあと一歩と踏み出そうとした瞬間、意識は途絶えた。

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