街で買い物をしよう(前編)
僕は冒険者ギルドに戻るとちょっと仕返しをした。
昨日、お留守番だったリカルドさんに愚痴ったのだ。
「リカルドさん。みんなひどいんですよ。僕が倒れた後、一斉に高級酒を飲み漁って、すごい金額を請求されたんですよ。だいたい、契約ではキラーパンサーの運搬の対価に奢るはずだったんですよ。しかも、上限の金額も超えていたんですよ。僕、もう二度と冒険者には奢りたくないです。」
これで僕は二度と奢らなくていいという、免罪符を得ることができた。
更に他のみんなが美味しい思いをしたのに自分だけができなかったリカルドさんが僕の代わりにしっかり仕返しをしてくれることだろう。
予想通り、リカルドさんの顔色が悪人面になっていく。
「ほお、昨日はそんなことがあったのか。心配するな。しっかり俺がかたをつけておいてやる。」
リカルドさんはニタニタ笑いながら歩いていく。
その顔は山賊のようだった。
「リーン君。今日はどうするの?」
エルルさんが今日の予定を聞いてきた。
依頼を受けるのか?ということだろう。
「・・・・・・今日はやめておきます。まだ、宿屋も決まってないし、少し買いたいものもありますんで。そうだ、ソラと一緒に泊まれるいい宿ってあります?」
「そうね、従魔OKの宿だと少し割高になるけど大丈夫って、リーン君なら問題ないか。昨日の酒場のお向かいにある宿屋がお勧めよ。」
「わかりました。どうもありがとうございます。」
僕はエルルさんにお礼を言うとギルドを後にした。
◇
ギルドを出た瞬間、ソラが一声「ワン」と吠えた。
めずらしいこともあるもんだ。
ソラの方を向くとソラの目は串肉をロックオンしていた。
そうだった。
買ってあげるって約束してたんだ。
「おじさん、2本ください。」
「おう、一本10ゴールドだから、2本で20ゴールドだな」
「はい」
僕が20ゴールド手渡すと、美味しそうな串肉を渡してくれる。
「熱いから気をつけろよ」
「はーい」
僕はそういうと、串肉を頬張った。
お、美味しい。
前世の屋台のジャンボ焼き鳥みたいのを創造していたが、それよりも遥かにジューシーで濃厚な味の肉だ。
大きさもこちらの方がちょっと大きい。
ソラが必死に串肉を見て、足元で騒いでいる。
「ごめん、ごめん。熱いから気をつけるんだよ」
そういって、ソラに串肉を与える。
もちろん串は外してあげたよ。
ソラもおいしそうに食べていた。
それにしても、この串肉が一本たったの10ゴールドとはこの世界の食べ物の価値はとっても安いのだろうか?
◇
昨日の酒場の前にたどり着くと、確かにお向かいは宿屋だった。
『銀狼の寝床』という看板がでかでかと出ている。
ちょっとかっこいい名前だ。
お店に入ると優しそうな若い女性が応対してくれた。
「あら、可愛いお客さんね。いらっしゃい」
「あの、冒険者ギルドのエルルさんに紹介されてきたんですけど、この宿って従魔も一緒に泊まれるんですか?」
「ええ、大丈夫よ。って、ボク、冒険者なの?」
「はい、リーンと言います」
「リーン君ね。私はエレンよ。よろしくね。それで従魔ってもしかしてそのワンちゃん?」
「はい、ソラといいます。」
「へー。ソラ君か。かわいい子ね。このぐらい小さい子だったら一緒に部屋に泊まっても大丈夫よ。ただし、宿に入る前にちゃんときれいにしてあげてね。」
「はい、わかりました。」
「それでソラ君。エルルから言われたと思うんだけど、ここの宿はちょっと高いけど大丈夫?」
「いくらですか?」
「1泊400ゴールド。食事はなしね。お向かいに酒場があるから食事はそこでしてね。」
思ったほど高くなかった。
僕はとりあえず、10日分の料金を払うと部屋に案内してもらった。
部屋にはベッドと小さな椅子と机が一つずつあるだけの簡素な部屋だった。
ソラはキョロキョロ辺りを見渡した後、ヒョイっとベッドの上に飛び乗ると丸まって寝てしまう。
どうやら気に入ったようだ。
「ソラ。僕はこれから街に買い物に行くけどどうする?」
ソラは首を上げて一瞬考えると再びベッドの上で眠り始めた。
いかないそうだ。
「それじゃあ、一人で行ってくるね。晩御飯までには戻るから。」
僕はそう言うと街に繰りだした。
◇
まずは武器屋に行くことにした。
昨日はソラがモンスターを倒してくれたので必要なかったが、考えたら自分の身を守る武器と防具がないのは致命的だった。
確か冒険者ギルドの周辺にあったはずだ。
エルルさんによるとラックさんの傘下のお店らしいのでちょうどよい。
「いらっしゃい。何にする?」
「えっと、どんな武器があるんですか?」
「何でもあるぞ。なければ、取り寄せるか、作ることもできるぞ。」
僕はお店の商品を見まわしてみる。
凄い量の武器が展示されている。
展示している武器で一番種類が多いの剣で、次が槍だろうか。
隅の方に弓や斧も飾っている。
他にも僕の知らない武器がいくつか置いてあった。
・・・・・・
あれ?僕、どの武器も使い方を知らないな。
「あの、今まで武器を使ったことがないんですけど、どの武器が使いやすいですか?」
「・・・?武器を買いに来たってことは冒険者だよな。今まで、どうしていたんだ?」
「えっと、従魔にやっつけてもらってました。」
「なんだテイマーか。それなら、パートナーの従魔の戦いの邪魔にならない武器だな。人によっては魔法メインって奴もいるぞ。どんな従魔と契約してるんだ?」
「えっと、スコティッシュテリアっていう犬です」
「すこてぃっしゅてりあ?初めて聞くな。だが、犬なら狼系のモンスターだろ。あいつらは素早いが一撃の威力は低いから高火力の武器を持つ奴が多いな。後は魔法だ。」
実際、ソラはチートのため、高火力、高スピードの殲滅型だ。
おそらく僕がどの武器を装備してもあまり関係ないだろう。
・・・・・・
どうしよう。どの武器にしていいのか分からない。
「悩んでいるようだな。一度ギルドで相談してみたらどうだ?」
「ギルドでですか」
「ああ、ギルドの職員の中には引退した冒険者もいるからいいアドバイスが貰えると思うぞ。」
なるほど、そういうことか。
良いことを聞いた。
明日にでもギルドに相談してみよう。
僕は店員にお礼を言うと店を後にした。