表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
僕、チート能力がないんですが  作者: 佐神大地
異世界でマイホーム
67/67

マイホーム



研究所については後日、詳細が話し合うこととなった。

そのため、僕たちはテムジンの街外れにある家に帰ってきた。

庭ではブルとチワが月光樹のお世話に精を出していた。

二人はカミーラさんの顔を見ると安心した顔で寄ってきた。


「「師匠、おかえりなさい」」

「ああ、帰ったよ。二人とも、話したいことがある。すぐに家に入りな。」


カミーラさんはそう告げると、さっさと家の中に入っていく。ブルとチワは慌ててそのあとに続く。

二人がカミーラさんに懐いているのが見て取れる。

僕はウィーネと話しながらゆっくり中に入っていく。





カミーラさんはいつも通り広間の椅子に座ってくつろいでいた。そして、ブルとチワが大急ぎでお茶を用意している。

僕とウィーネは二人それを横目に席に着く。これは二人の仕事なので手伝ったら怒られるのだ。

二人はお茶の用意が終わると、すごすごと席に着いた。

カミーラさんは全員が席に着いたのを確認すると口を開いた。


「二人とも、この街と南の山で月光草と月光樹の研究が開始されることになった。しかも、王国の援助でだ」

「ほ、本当ですか。師匠、がんばりましょう」

「師匠、お手伝いがんばります」


カミーラの言葉にブルとチワは興奮していたのだが、次にカミーラさんの口から出た言葉に二人は真っ青になった。


「悪いけど、私は研究には参加しないよ」


てっきり研究はカミーラ主導で行われると思っていたブルとチワは驚きの表情でカミーラを見つめていた。

今までのカミーラは目の前に研究対象があれば、他人を押しのけてでも手に入れようとする人間だった。


「師匠、なぜなんですか?・・・もしかして、王国の連中に排除されたんですか。」


ブルは戸惑いと怒りの入り混じった表情で聞いてくる。チワに至っては何が何だかわからない、といった表情だ。


「いいや、研究に参加しないのは私の意志だよ。二人とも今まで私を助けてくれて助かったよ。ありがとね。」

「ど、どうしたんですか、師匠らしくもない。そんなことを言わず、もっと僕たちをこき使ってくださいよ。捨てないでください。」


ブルが涙目になりながらカミーラに訴える。とても悲しそうな表情だった。

それを見たカミーラはやれやれといった表情になる。


「はあ、あんたは賢い子だね、ブル。あんたの思っている通りだよ」

「そ、そんな」


カミーラの言葉を聞いたブルが泣き始める。

状況が理解していないチワだったが、何か感じ取ったのか悲しそうな表情で二人の交互に見つめている。


「二人とも、よくお聞き。この家と庭は今度設立される研究所に提供することにした。」


カミーラさんはそういうと僕の方を向いていきなり頭を下げた。


「リーン。悪いけど、二人の面倒を見てやってくれないか?二人を所員として雇ってほしい。二人は私の知識と技術のすべてを仕込んでいる。いずれは私を超える調剤師と植物学者になるはずだ。」


あまりの展開に僕は理解できずにいた。

先ほどまで泣いていたブルは師匠であるカミーラさんが頭を下げると、慌てて「よろしくお願いします」といって頭を下げた。そして、それにチワが続く。


「ちょっと、カミーラさん。一体どういうことですか?」

「なんだい、気づいてないのかい?」


カミーラさんは呆れた表情で僕を見る。僕は助けを求めるようにウィーネの方を向くとウィーネも悲しげな表情でカミーラさんを見ていた。

そこで僕は気がついた。

カミーラさんの命が残りあと僅かなのだと。


「・・・わかりました。二人のことをお預かりします。」


僕がカミーラさんにそう誓うと、カミーラさんは肩の荷が下りたかのようにほっとすると、微笑んだ。

そして、糸が切れたかのようにそのまま横に倒れこんだのだった。

慌ててブルとチワがカミーラさんの元に駆け寄っていく。

二人がどんなに揺すったり、声を掛けたりしても、カミーラさんは目を覚ますことはなかった











次の日、カミーラさんの葬儀がひっそりと行われた。

ブルとチワはずっと泣きっぱなしだった。二人は現在、泣き疲れて家のベッドで眠っている。

そして、僕の目の前にはモーガンさんの姿があった。

葬式後、モーガンンさんが僕を訪ねてきたのだ。


「リーン。ちょっといいか?カミーラからの伝言がある。」

「はい、大丈夫です。」


僕はそういうと広間の椅子に座る。モーガンさんも椅子に座ると神妙な面持ちで話し始めた。


「カミーラから遺言を言付かっている。」

「遺言ですか。」

「ああ、この家と庭についてだ。この権利をお前に譲るとのことだ。」

「えっ?研究所が立つんじゃなかったんですか?」

「・・・研究所は建前だ。研究所所長であるお前が家と畑を貸す、という形をとることになるんだ。」

「そうだったんですね。」

「そして、ここからが本題だ。この家には付属品がある。」

「付属品ですか?」

「ああ、」


モーガンさんはそういうとブルとチワが寝ている部屋を指さす。


「えっと・・・。」

「あの二人は借金奴隷なんだ。元々、この家はあの二人の親のものだった。5年ほど前、二人の親が借金を残して流行り病で亡くなった時、二人を援助したのがカミーラだったんだ。親の借金を肩代わりし、この家に住み続けることを許可したんだ。」

「・・・・・・」

「だが、カミーラが助け出したときは二人は奴隷になった後だったんだ。」

「そうだったんですね」


二人がカミーラさんに懐いていた理由が分かった。カミーラさんは命の恩人で二人の親代わりだったのだ。

僕が二人の境遇を憐れんでいると、モーガンさんが僕にある重大な事実を突きつけてきた。


「リーン。わかっているのか。この家と畑をお前が受け取るってことは二人はお前の奴隷になるってことなんだぞ」

「・・・・・・ええええー!?僕、奴隷なんていらないですよ。」

「悪いが拒否はできんぞ。これは決定事項だ。お前は研究所の所長となるんだから、この畑をちゃんと受け取ってもらわんといかん。そんなると、もれなくこの家と二人がついてくるんだ。」

「僕が解放するって言ったら、二人は奴隷から解放できないんですか?」

「無理だ。奴隷契約は神々が仲介した契約魔法だ。ズルは一切できない。」


こうして、僕はマイホームと畑、そして二人の奴隷を手に入れることになった。




これで2章は終了です。

3章ですが、最近執筆時間があまりとれなくなったため、ちょっと難しい状況になってきました。

そのため、申し訳ありませんが、このお話はここで無期中断とさせていただきたいと思います。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ