研究所の所長
僕は慌ててソラを鑑定する。鑑定さんよろしく。
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ソラ
種族 スコティッシュテリア(聖獣)
年齢2歳
職業 従魔
スキル
身体強化(神)
探知(極)
幸運
胃袋(大食い)
巨大化Lv2
ご主人様の剣
聖獣の咆哮(治)
聖獣の咆哮(圧)
称号・その他
転生犬
リーンの従魔
犬神の眷属
忠犬
御神体
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うん、いくつか知らないものが増えていた。
新スキル2つに新称1つか。
どれどれ、どんな感じかな?
鑑定さん、もう少しの間お願いします。
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聖獣の咆哮(治)
咆哮を聞いたもの威圧状態を解除し、ついでに体力回復(小)も追加
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先ほど使ったスキルってこれだよね。威圧状態を解除か。
何気についてる体力回復(小)って便利かも。
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聖獣の咆哮(圧)
咆哮を聞いたものを威圧する。自分よりも格の低いものには効果ない。
格ってレベルや強さのことじゃないよ。神格、とかそっちの意味ね。
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・・・ソラって種族に聖獣が追加されてたよね。
といいう事は、ほとんどの相手に効果があるってことだよね。
これも結構チートな能力だよね。
そして一番気になるのがこの称号だ。
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御神体
信仰の対象となったものに与えられる称号。
信者の前では全ステータスが加算される。
現在、信者はブルとチワの二人だね。
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これは・・・スコティッシュテリア教のことかな?
これ、金狼族の村とかにいって村人全員が信者になったら、大変なことになるんじゃ・・・。
見なかったことにするかな。
◇
さて、ソラの新スキルなどは分かったのだが、事態は芳しくない。
どう見ても、グレゴリさんの怒りは収まりそうにない。お付きの騎士も再び腰の剣に手をかけようとしている。しかも、今度はソラを睨んでいる。
また、威圧されて終わりの気がするんだが・・・。
このまま威圧→回復→威圧・・・といった無限サイクルに突入したりしないよね。
僕の不安はアリオン王子の一喝によって払しょくされた。
「グレゴリ、いい加減にするんだな。」
王子の声は大きいものではなかったが、とても力強いものだった。
ブツブツと罵声を吐いていたグレゴリを黙らせるには十分だった。
「大精霊様。どうかご無礼をお許しください。あなたの眷属である月光樹を持ち去るなどという愚行は私が絶対に行わせません。どうかお怒りをお沈めください。」
そういって土下座をしたのだった。
突然の行動に、その場にいたすべての者が驚きを禁じ得なかった。
仮にも一国の王子が土下座をしたのである。その意味はとても大きいのである。
「王子、何をなさっているのです。あなたはご自身のお身分をわかっておいでなのですか?」
グレゴリがアリオン王子を窘めようとするが、アリオン王子はそれを一喝した。
「グレゴリ。何もわかっていないのはお前なんだな。この方は326年前、王国に大飢饉が発生した際、王国の滅亡を防いでくだされた偉大な大精霊様なのだぞ。」
初め、アリオン王子の言葉が理解できていなかったグレゴリだったが、急に顔色が変わる。そして、ワナワナと震えだす。
「もしや、豊穣の大精霊様!?当時の王弟、ラインバッハ・メタファー様と王国全土を旅し、黒死龍により汚染されていた王国中の土壌を浄化されたという。」
グレゴリも土下座で誤ってくる。それを見たウィーネが困った顔でこちらを見ている。
「私、その二つ名、好きじゃないんだよね。」
口を尖らせてウィーネが言うと、周囲に小さな笑いが起こった。
◇
その後の交渉は問題なく進んだ。グレゴリの態度が180度変わったからだ。グレゴリから建設的な意見が出てくる。
「いえ、直轄領にするのは難しいと思います。直轄領なら王家に利益がないとやはり問題があります。それよりも、南の山を特別研究区域に指定して、この街に研究所を設立するのはどうでしょうか」
「特別研究区域とは何なんだな?」
「はい、オリオン王子、月光樹の研究は王国において重要なことです。南の山が研究な地域として、人の侵入を制限することは可能です。特別研究区域とはその侵入制限区域のことです。」
「なるほどなんだな。」
「あとは研究所の所長を決めないといけないのですが・・・。」
グレゴリはそういうとカミーラさんの方を向く。
それに対して、カミーラさんは首を横に振る。
「申し訳ないですが、私はご遠慮させていただきます。私は病気のため先の短い身の上です。代わりに、ここにいるリーンを推挙いたします。」
カミーラさんはそういって僕の方を向いてニヤリとする。カミーラさんの言葉を聞いてウィーネとアリオン王子は嬉しそうにしていた。
逆にモーガンさんやアルベルトなどは複雑そうな表情で僕を見ている。
この場にいる全員が注視しているようだ。
「僕!?僕なんかじゃ無理だよ。」
僕は慌てて手を振って否定する。それを見たカミーラさんが真面目な顔で反論する。
「お前以外に適任がいるわけないだろう。リーン、あんたは『奇跡の薬草採取人』と呼ばれているんだよ。テムジンの調剤ギルドの職員の多くがあんたには一目置いているんだよ。さらに、ウィーネ様の協力が得られるのはあんただけだよ。諦めな。」
「僕からも頼むんだな。できれば、知ってる人にやってもらいたいんだな。その点、リーンなら僕もうれしいんだな。」
アリオン王子からも援護射撃が飛んできた。
こうなると、僕には拒否することはできなかった。渋々、承諾することになる。
モーガンさんが慌てて反対しようとしていたが、王子が賛成したこともあり、その意見が通ることはなかった。
その光景を見ていたグレゴリは少し不服そうな顔をしていたが、王子の決定には盲目で従うのであった。
「それで研究所なのですが・・・」
「それならあの家を使えばいい。」
グレゴリが次の議案を提案した瞬間、カミーラさんが言い切った。
「いいんですか?」
「ああ、私にはもう必要ない。好きに使えばいい」
カミーラさんはぶっきらぼうに言う。
グレゴリは「それなら家の改築費をこちらから支払おう」と言ってきた。
これで研究所の件も片が付いた。
そして、最後に最大の問題が残った。南の山の結界をどうするかだ。
◇
「そうね。私の聖域とリクじいのいる辺りはすでに結界は張られているわ。だから、改めて結界を張る必要はないわよ。」
ウィーネの言葉に僕は首を傾げた。
それなら、こんなことをする必要はなかったんじゃないのかな?
「いえ、大精霊様。結界は新たに外側にもう一つ張ったほうが良いと思います。」
今まで黙って空気とかしていたリカルドさんが口を開いた。
その横でモーガンさんも頷いている。
ウィーネにはその理由がわからないのか首をひねっている。
「実は冒険者から森の結界については何度か報告が上がっているのです。強力な結界であったため、中の主を刺激しないようにとギルドで注意しておりました。今回の騒動でギルドの注意では制止できないものも出てくると思われます。ですので、王家が立ち入りを制限している、と示す意味でも外側に巨大な結界を張るべきだと思います。」
最初は必要ないと言っていたウィーネだったが、最後にはウィーネの方が折れ、森の外周部分に結界が張られることになった。
これで、今回、僕がスターサファイアと万年苔を持ち帰ったことにより起こった騒動を一応の解決をみることになった。その結果、僕は新たに設置される研究所の所長になることになった。
その結果に、ウィーネ、カミーラさん、アリオン王子は喜び、モーガンさん、リカルドさん、アルベルトなどは渋い顔をしていた。
そして、僕は困惑していた。僕に所長なんてつとまるのだろうか?




