ウィーネ無双
食事会も終わり、エルルさんたちは領主の屋敷から帰っていったが、リーンたちは今からが本番であった。
そう、南の山を直轄領にするかどうかの審議があるのである。
ゴホン、と咳払いをすると大臣のグレゴリは席から立ちあがり話し合いが始まった。
「事前の報告によると、スターサファイアを年1つ納める代わりに南の山を直轄領に認定して貰いたいということだったが、間違いないか?」
グレゴリはギロリとモーガンさんを一睨みする。
そんなことできるはずもない、といった風な顔だ。
どうやら、今回の案に否定的なのだろう。
「そ、それがさすがにスターサファイアを年1つというのは無理ということでして・・・。」
モーガンさんが申し訳なさそうに言う。額からは汗が大量に噴き出している。
それを聞いたグレゴリはニヤリと笑うと手をたたいて言い放った。
「そうかそうか。それではこの話はこれで終わりだな。」
慌てるモーガンさんを他所にグレゴリは帰ろうとする。
それを止めたのはアリオン王子だった。
「グレゴリ、待つんだな。」
王子に呼び止められたグレゴリは驚いた表情で王子を見る。
「王子、何ですか?この件でこれ以上話すことはないと思いますが?」
「グレゴリ。お前は優秀だが結論を急ぎ過ぎる毛があるんだな。スターサファイアについては僕の早とちりなんだな。精霊様にお伺いもたてずに父上に報告してしまったんだな。精霊様、申し訳なかったんだな」
アリオン王子はそういうとウィーネの方を向いて頭を下げる。
それを見たモーガンさんたちも慌てて頭を下げる。
ウィーネは「もう気にしてないわ」といって許したところで全員頭をあげる。
それを見ていたグレゴリは面白くなさそうに顔をしかめる。
「王子、だからと言ってそれで直轄領が認められるわけではありませんよ。」
「うん、それは分かっているんだな。昨日、モーガンから新たな報告を受けたんだが、南の山から月光草が見つかったんだな。」
「月光草!?それは素晴らしい。もしや、それが陛下に献上されるのですか?」
「いいや、それは無理みたいなんだな。月光草はやっぱり数が少ないみたいなんだな。ただ、月光草の栽培に成功したみたいなんだな。」
「えっ!?」
グレゴリの目が点になっていた。
どうやら月光草の栽培はそれほど難しいようだった。
カミーラさんがあれほど頑張っていたのもうなずける。
我に返ったグレゴリは恐る恐る聞いてきた。
「王子、それは月光草が定期的に収穫できるということなのでしょうか?」
「その辺は僕もわからないんだな。ここに栽培に成功した者がいるから、本人に聞いてみるといいんだな」
アリオン王子はそういってカミーラさんの方を見る。
カミーラさんは神妙な面持ちで立ち上がり、深く一礼する。
「僭越ながら、テムジン調剤ギルドのギルドマスターのカミーラが説明させていただきます。今回、こちらにおられる大精霊様に月光草の種を5つ頂き、栽培してみました。その結果、月光樹が5本生えました。」
カミーラさんはそこまで言うと一息ついてグレゴリの方を見る。
グレゴリは月光樹という聞きなれない単語が出てきたため、首を傾げている。
「おい、カミーラとやら。どういうことだ?なぜ、月光草の種を植えて月光樹が生えてくるんだ。というか、そもそも月光樹というのはなんだ?」
もっともな質問であった。
草の種を植えて樹が生えるのは普通に考えるとおかしな話だ。
実際に見ていた僕たちでも理解不能なことだったのだ。
話だけ聞くと冗談を言われているようにしか聞こえない。
「はい、大精霊様の話によると月光樹というものは月光草が成長した姿だそうです。月光草が2~3年経つと低木状態になるそうです。」
「な、なんだと。初耳なのだが。いや、そもそも月光草がそんな長い期間、大地に根を下ろし続けることが可能なのか?」
「は、グレゴリ様の言っていることはごもっともです。今までの通説では月光草の栽培は不可能で、月光草は生えてもすぐに枯れるとされておりました。しかし、実際に栽培は成功し、月光樹が5本生えております。このことは鑑定持ちにより確認れております。」
「・・・信じられんことだが、実物があるのなら信じざるを得んだろうな。それにしても月光樹か・・・。よし、その樹ついてはこれより国の研究者で調査させる。王都に移すので、学者をよこす。引き渡す準備をしておれ。」
「いえ、それは・・・」
カミーラさんは必死に断ろうとしたが、グレゴリは聞く耳を持たなかった。
最後には「王国に対する反逆で処刑するぞ」とまで言っていた。
グレゴリは蔑むような目でカミーラさんを見て、お付きの騎士もせせら笑っていた。
突然、僕の背筋を悪寒が走った。
何か嫌な感じが部屋中に広がっていくのを感じる。
周りを見渡すと、ウィーネの表情が変化していた。
いつも穏やかに微笑んでいる彼女だが、今は明らかに怒っていた。
そして、彼女から凄まじい魔力があふれ出ているのを魔力に疎い僕ですらひしひしと感じることができたのであった。
「そこの人間。黙って聞いていれば何様のつもり。なぜあなたは私の可愛い眷属を無理やり連れ去ろうとしているの?」
ウィーネの圧力にグレゴリは「ヒイッ」と悲鳴を上げて尻もちをつきながら後ずさりをする。
グレゴリの顔は恐怖で引きつっていた。そして、だんだん呼吸が早くなり、顔色が青くなっていく。
グレゴリを助けようとお付きの騎士が剣を手にしようとした瞬間、騎士も悶絶の表情となり倒れこむ。
この大広間はあっという間にウィーネにより制圧された。
周りを見ると、アリオン王子もモーガンさんもアルベルトもグレゴリや騎士ほどではないが全員苦しそうだ。
部屋の入れ口付近に控えていたセバスさんやメイドさんたちも倒れている。
無事なのは僕とソラとカミーラさんだけだろうか。
いや、カミーラさんも少しだが、息苦しそうにしている。
グレゴリと彼を助けようとした騎士にはかなりのプレッシャーが掛かっているのだろう。
二人とも目が白くなり、泡を吹いている。
これは、ちょっとやばいかな。このままだと死人がでるかもしれない。
「ウィーネ。やめてあげて」
僕がそう叫ぶと、ウィーネは僕の方を見る。ウィーネは不思議そうに僕を見つめる。
精霊にとって、人間を罰することは当然なのだろうか?
「はあ、わかったわ。リーンの顔に免じて、許してあげる。」
ウィーネはそういうと周囲の威圧を解いていく。
後に残ったのは累々の屍だけだった。
いや、死んでないから、屍ではないか。
◇
「す、すぐに回復魔法の使えるものをここに呼べ。」
入口付近で倒れているセバスさんが苦悶の表情のまま、必死に声を張り上げる。
その声を聴いた部屋の外の者が慌てて駆けていくのが分かる。
屍はないが、大広間は悲惨な状況だった。
泡を吹いているものが2人、疲労困憊で倒れているものが5人、倒れてはいないが疲労感が滲み出ているものがものが7人であった。
特に泡の吹いている2人、グレゴリとお付きの騎士はかなりまずそうだった。
特に貴族のグレゴリは早々に何とかしないと問題が起こるかもしれない。
そんなことを考えていると、部屋の隅でお肉を食べて満足していたソラが一声大きな声で吠えた。
その声に僕だけでなく、大広間の全員がビクっとした。
「なんだ、その獣は。すぐにつまみ出せ。」
突然、ソラを叱責する声が聞こえた。
もちろん、この中にその命令を実行するものは誰もいない。
全員が命令をしたものを注視する。
命令をしたのはグレゴリだった。
先ほど泡を吹いて倒れていたのだが、そんなことを微塵も感じなかった。
いや、涎をハンカチでふき取っている。
泡を吹いていたのは間違いないのだ。
ソラを庇うかのようにウィーネがソラの元に行き、抱き上げると頭を撫でだした。
「すごい、ソラちゃん。ついに回復スキルも手に入れたんだね。」
ウィーネの言葉に僕は唖然とするのだった。




