食事会
次の日の朝、目が覚めるとカミーラさんがウィーネと一緒に食堂でお茶を飲んでいた。
その横でブルとチワが嬉しそうに朝食を作っている。
カミーラさんの体調が回復して嬉しいようだ。
「おはようございます。カミーラさん、体調が戻ったみたいですね。」
「ああ」
僕の言葉にカミーラさんは短く答える。
その横でウィーネさんは厳しい顔をする。
何かあるのだろうか?
聞いてみようとも思ったのだが、空気が張り詰めていた。
とても、聞ける雰囲気ではない。
しかし、先日のことを考えるとこのカミーラさんの体調は不自然な感じもする。
無理をしているのではないだろうか?
「朝食の準備ができました。」
僕が悩んでいると、チワの陽気な声が響いた。
チワはカミーラさんが元気よさそうに起きてきたのが、単純にうれしいのだろう。
とても癒される声だ。
こうして僕は追及するタイミングを失い、皆で朝食をとることになった。
◇
「それじゃあ、そろそろ行こうか」
昼少し前になり、カミーラさんがやってきた。
先ほどと違い、上等な服に身を包んでいる。
そして、僕の姿を見て唖然としている。
「どうしたんですか?」
「リーン。あんた、今日の昼食会の主役だろう?なんでまだ用意していないんだい?」
「用意ですか?」
僕がそう聞き返すと、カミーラさんはあんぐり口を開ける。
何をそんなに驚いているのだろう?
「あんた、その格好でアリオン王子の食事会に行く気かい?」
その言葉で僕は改めて自分の服装を見てみる。
いつも着ている服だ。
街の服屋で買った安物の服だ。
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そうか。王族と会うのにこの服だとまずいのか。
でも、僕、この服しかもってないしどうしよう。
もちろん、カミーラさんは僕が着れるような子供用の服で上等なものは持ってなどいなかった。
ブルと背丈が近いのでもしかして、と思ったのだが、ダメだった。
誰か持ってないかな?
というか、アリオン王子と会うのにそこまで気にする必要があるのだろうか?
だって、あのアリオン王子だよね。
僕、一応友達宣言されてるし、大丈夫なんじゃないだろうか?
◇
僕たちの心配は馬車で迎えに来たセバスさんによって解消された。
「リーン様の服装でございますか?もちろん、当家でご用意してございます」とのことだった。
馬車に僕とソラとウィーネとカミーラさんが乗り込む。
「あれ、そういえば、カミーラさんも出席するんですか?」
「当たり前だろう。今回の直轄領の件でどれだけ私が働いたと思ってるんだい?それにあんたからお誘いもあってたはずだけどね?」
「えっ」
僕はカミーラさんを誘った記憶はない。
まず、誘ったのはエルルさん、タニアさん、ソフィアさん。
そして、ドランさん、タニア酒場の従業員と宿屋の女将のエレンさんとその従業員が増えた。
後はリブロスとセブンが食べたいって言って無理やり参加になったんだった。
そして、気が付いたらギルド長のリカルドさんや領主のモーガンさんとついでにアルベルトの参加が決定していたんだった。
カミーラさんと知り合ったのってギルドに監禁された後だが・・・、うん、やっぱり記憶にない。
「すみません。お誘いしましたっけ?」
「ギルドのエルルって受付嬢からお前にやった薬のお礼って聞いたんだがね?」
「薬・・・!?もしかして、薬をくれた調剤ギルドの方ってカミーラさんだったんですか?」
「そうだよ。知らなかったのかい?」
「はい、お偉いさんってことしか聞いていなかったです。」
「あんたには薬草採取を頑張ってもらわないといけないからね。早く良くなってもらおうと思って、私が調剤したんだよ。」
「そうだったんですか。その節はお世話になりました。」
「・・・別に礼なんていいよ。仕事だからね。」
そういうとカミーラさんは照れくさそうに横を向く。
そうこうしているうちに、馬車はモーガン邸に到着するのだった。
◇
モーガンさんの屋敷に到着した僕はセバスさんに連れられて控室に連れていかれた。
そのには数名のメイドさんが待機しており、僕はあれよあれよという間に高級そうな服に着替えさせられた。
貴族的には問題ないのだろうが、女性の人に着替えを手伝われるのは少し恥ずかしかった。
着替えが終わると、僕はセバスさんに連れられて、大広間に案内された。
そこにはすでに他の参加者はすでに到着していた。
大きなテーブルが用意され、アリオン王子、モーガンさん、アルベルト、カミーラさんウィーネなどと見知った顔の他に数名知らない人も席についていた。
僕の案内された席はかなり上座と思われる席だった。
何しろアリオン王子の隣なのだ。
というか、なぜ、この席なのだろう。
アリオン王子がニコニコとしながら手招きしている。
反対側にはウィーネが座っている。
彼女も「早く来なさい」といった感じでこちらを見ている。
カミーラさんはかなり離れた席に仏頂面で座っている。
おそらくウィーネの隣を願ったが、聞き入れられなかったのだろう。
大精霊であるウィーネも知らない人の隣は嫌がったため、彼女の席は一番端となり、その横にリーンが座ることになったのだ。
そのリーンの隣に座りたがったアリオン王子その隣に座ることになった。
そのため、アリオン王子はウィーネとリーンよりも下座に座ることになった。
王子自身はそのようなことをまったく気にしていなかったのだが、直轄領の件で王都からやって来ていた大臣のグレゴリは複雑な心境だった。
百歩譲って大精霊であるウィーネに上座を譲るのはなんとか我慢できた。
しかし、いっかいの冒険者、しかもたった12のガキがアリオン王子の上座に座るのは我慢できなかった。
王子が決めたことなので文句を言うことはできないが、この食事会の間、彼はリーンのお向かいに座り、ずっと睨みつけるることになる。
王子が楽しそうにリーンに話しかけるとさらにグレゴリの心証が悪くなっていくのだったのだが、リーンがそれを知る由もなかった。
◇
「いやー、美味しかったんだな。リーン、ありがとうなんだな。」
「旨かった。リーン、ありがとうな。」
「美味しかったが、オクトパスキングはちょっと遠慮したいな。」
食事会後、様々な意見が出たが、おおむね好評だったようだ。
最も、この中にリーンが食べてもらいたかったエルルさん、タニアさん、ソフィアさんの姿はこの中にはなかった。
彼女たちの食事会は別室で開催されていた。
流石にアリオン王子が参加する食事会への参加は許可されなかった。
アリオン王子はそこのところはそれほど気にしないのだが、大臣のグレゴリは決して許可することはなかった。
もっとも、許可が下りたとしても、エルルさんたちの方から断っただろう。
彼女たちからすると王族といっしょに食事をするなど御免こうむる。
ほぼ全員が食事に満足していたが、一人とても残念がっている者がいた。
タニアさんの旦那のドランさんだ。
本来、彼が料理を担当するはずだったのだが、アリオン王子に食材を献上されることになったため、モーガン家の料理人に役目を取られたからだ。
「なんだい、ふくれっ面をして。食事がまずかったのかい?」
「そんなわけねえだろ。一流の食材を一流の料理人が作ったんだ。まずい訳ないだろう」
「じゃあ、何でふくれっているんだい?」
「決まってるだろう。自分で料理できなかったからだよ」
ドランはそういうと「あの食材はああした方がよいはずだ」などとブツブツ言い始めた。
その姿をタニアさんは半ば呆れながら見ていた。
そのことに気づいたセバスがリーンに確認を取り、余った食材をドランさんに渡すことを提案した。
もちろんリーンは快諾したため、ドランは珍しい食材をいくつも手に入れることができた。
流石に万年苔とスターサファイアをドランが手に入れることはできなかったが、ドランは泣いて喜んだ。




