狼と犬は親戚?
5つの低木が五芒星を描くように畑に生えている。
あれ、芽が出るんじゃなかったのか?
僕がカミーラさんの方を向くとカミーラさんも呆然とした顔で見ている。
「月光草の木??」
どうやらカミーラさんも訳がわからないようだ。
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月光樹
月光草が育ち、低木になったもの。
葉が薬の材料となり、通常の月光草より高い効果を発揮する。
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鑑定さんが正体を教えてくれた。
僕には理解できなかったのでそのままカミーラさんに伝える。
カミーラさんも不思議そうな顔をしている。
そして全員が一斉にウィーネの方を見る。
注目を集めたウィーネはちょっとたじろぐがすぐに説明をしてくれた。
「えっとね、月光草は2~3年成長すると茎が茎が木のように固くなり低木になるのよ」
「2~3年?月光草は1年草ではないのですか?」
「あー、それはね。周囲の魔力が少ないと月光草はすぐに枯れるの。だから大きく育つ株は殆どないの。」
「・・・ということはこの月光樹も」
「そうね。2~3か月に1回くらいは魔力を注がないと枯れるわね。」
「なるほど・・・。そういうことか。・・・それなら、・・・」
ウィーネの説明を受けていたカミーラさんはブツブツと何やら呟きだした。
いきなり横でブツブツ呟かれると、ちょっとちょっと怖いな。
そんなカミーラさんであったが、すぐに限界が来た。
いきなり「うっ」とうめくと倒れこんだ。
慌ててブルとチワが駆け寄ってくると心配そうにカミーラさんの顔を覗き込む。
「ブル、チワ。ぼーとしてないで寝室に運ぶわよ。用意しない。」
後ろからソフィアさんの指示が飛ぶ。
チワは慌てて家の中に駆けていく。
そして、ブルは僕たちの方を向くと運んでくれるようにお願いしだした。
◇
「いーい。カミーラは絶対安静よ。」
カミーラさんを寝室に運んだ後、ソフィアさんはカミーラさんの治療を行った。
いくつかの回復魔法をかけていたがその表情は暗いものだった。
おそらく気休めなのだろう。
そして心配しつつも先ほどの言葉を残して他の冒険者たちと一緒に帰っていった。
現在、カミーラさんはウィーネと二人きりで何かを話している。秘密の話だそうだ。
僕はブルとチワの二人といっしょにいる。
夜も遅いため寝ようかとも思ったのだが、二人が今にも死にそうな顔をしていたため、不安になってしばらく様子を見ることにしたのだ。
そしてソラは・・・僕の膝に頭をのせて爆睡している。
「・・・師匠」
「大丈夫、師匠は死なない」
今にも泣きだしそうなチワをブルが一生懸命あやしているのだが、そのブルも真っ青な顔のままだ。
このまま、カミーラさんが亡くなったら、二人はどうなるのだろうか?
・・・まさか後追い自殺!?
嫌な考えが脳裏をよぎった。
これは何とかしないといけない。
だが、赤の他人である僕に何かできることがあるのだろうか?
僕は寝ているソラの頭を撫でながら、頭を悩ますのだった。
しばらくすると、チワの声が聞こえなくなった。
二人の方を見るとチワは眠りについていた。
流石にもう夜は遅い。不安よりも睡魔が勝ったのだろう。
ブルがチワを抱えて部屋に入っていく。その表情は先ほどよりは落ち着いてきているが、それでも不安と疲れのためにひどい顔だ。
しばらくすると、ブルが一人部屋から出てくると僕の前までやってきた。
「えっと、リーン様。今日はありがとうございました。」
「えっと」
ブルが突然頭を下げてきたが、何のことを言っているのかわからず、呆然とする。
「カミーラ様の我儘を聞いてくれてありがとうございました。」
「ああ、そのことね」
「・・・リーン様はカミーラ様の病気のことはお聞きになっているのですか?」
「うん、ウィーネから少しだけ聞いてる。」
「カミーラ様の余命はすでに過ぎているんです。だから僕たちはできるなであの方の希望を叶えてあげたかったんです。」
ブルはそういうと再び頭を下げて部屋に戻っていった。
僕も眠くなったため部屋に入って休むことにした。
◇
次の日の朝、体調が回復していないカミーラさんはベッドから出てこなかった。
ブルとチワはカミーラさんの枕元まで行き、指示を受けると畑に行って作業を行っていた。
しばらくすると、畑の周りにどんどん柵ができていく。
畑の隅に作業小屋のようなものまで建っていく。
あの二人はとっても働き者だ。
ていうか、早すぎない?
僕も手伝おうとしたのだが、「お客様に手伝わせることはできない」と言って断られた。
ウィーネは「好きにさせたら」と言って微笑ましそうに見ていた。
昼過ぎにはモーガンさんがやってきて月光樹を視察していた。
流石にモーガンさんの相手はカミーラさんが行った。
ブルとチワでは荷が重すぎる。
モーガンさんはいろいろカミーラさんに質問していたが、全く納得しているような感じではなかった。
まあ当然だろう。
なにしろカミーラさん自身もよくわかっていないのだ。
しかし月光樹が世紀の大発見であることは理解できたようだ。
「うーん。アリオン王子と話し合ってみるが、おそらく例の件はこれで何とかなると思う」
「例の件?」
「お前、何を呆けているんだ?南の森の直轄領の話だ。」
「えっ。でも毎年献上できるかはわかりませんよ」
「それは問題ない。この月光樹の価値はおそらく月光草の何十倍にもなるだろう。この月光樹の生態の調査のために南の森が必要ってことで何とかなるはずだ。」
「そ、そうなんですか」
「まあ、詳しいことは今夜にでもアリオン王子と話し合って決める。」
「今夜?えらく早くですね」
「明日のことをもあるからもうすぐ到着されるんだ。」
「明日?」
「リーン、お前な。明日は食事会だぞ。まさか忘れていないよな」
「あっ」
そうだった。すっかり忘れていた。
カミーラさんが倒れたことですっかり忘れ去っていた。
「リーン、明日の食事会は昼にやる予定だ。遅れるなよ。なにしろ、お前が主役だからな。」
モーガンさんは念を押しつつ帰っていった。
◇
その日の夕方、僕はブルとチワと一緒に外食に出かけた。
ウィーネは用事があるので森に帰る、と言って帰っていった。
カミーラさんは「私は食欲もないから寝る。うるさいのは嫌だから、今日は外で食べてきな。」と言われたのだった。
何だか家から無理やり追い出された気もするが、おとなしく指示に従うことにした
チワは「カミーラ様と一緒に家に残る」と騒いだが、ブルが無理やり連れだした。
おそらくブルも命令の意図を察したのだろう。
ブルに「私たちは外で食べたことがありませんので」と言われたため、タニアさんの酒場に行くことにした。久しぶりにのタニアさんの酒場だ。
二人は本当に外食したことがないのか、そのメニューの多さにあたふたして、どれを頼んでよいのか悩んでいた。
僕が日替わりを頼むと、二人も日替わりを慌てて頼んだ。
うん、選ぶのを拒否したのだろう。
今日の日替わりはオークのステーキと定番だった。
二人は黙々と食べている。
表情を読みづらいが、一心不乱に食べているので、たぶん満足しているのだろう。
いや、間違いなく満足しているな。
なにしろ尻尾をブンブン振りながら食べている。
横でソラが対抗するかのように焼いた肉を美味しそうに食べている。
そっくりだ。
確かブルとチワは金狼族の獣人と言っていた。
狼と犬は親戚みたいなものだから似ているのか。
僕は一人納得しながら三人(?)の喰いっぷりを眺めていた。




