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僕、チート能力がないんですが  作者: 佐神大地
異世界でマイホーム
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月光に包まれて怪しい儀式を行いました



辺りを青白い月光が照らしている。青白い月光、・・・うん、異世界だ。

この世界に転生してしばらく経つが青白い月光は初めて見た。

カミーラさんによると、1月に一度、満月の時のみ月光は青白くなるそうだ。

原因はわかっていないらしいが、この青白い月光は通常の月光と比べて、光に含まれる魔力の量が倍近くになるそうだ。

そして、月光草の種の発芽にはこの魔力が必要なのらしい。


「カミーラ。本当にできるの?確かに満月の光の魔力は高いけど、月光草を発芽させるほどの魔力量ではないわよ」


ウィーネが心配そうに聞いているが、カミーラさんは「ウィーネ様、大丈夫です」と言って、自信満々の表情で最終作業を行っている。

もちろん、僕は手伝うことができないので庭の隅でソラを抱きながら見学をしている。





「師匠、ただいま帰りました。」


カミーラさんに命じられ、外に出ていたチワが帰ってきた。

カミーラさんはその声を聴くとやっていた作業を中断して、チワの元に駆け寄った。


「首尾はどうだい」

「4名の冒険者が協力してくれました」


チワはそういうと後ろを指さす。

そこには4名の冒険者が立っていた。

4人の内、3人は魔術師風の装備でいかにも魔術師、といった杖を手に持っている。

そしてもう一人は・・・見覚えがある。

白いローブを身にまとった軽装の女性、ソフィアさんだ。

4人の冒険者を見たカミーラさんは満足そうに頷くと、4人に待機するように指示を出し、再び作業に戻る。

ソフィアさんは僕を見つけるといつもののほほんとした表情で近づいてきた。


「あれ、リーン君とソラちゃん。二人も呼ばれたの?」

「いえ、僕たちは・・・」


僕はソフィアさんに事の経緯を説明する。

説明を聞いたソフィアさんはビックリした表情をする。


「へえー。月光草の栽培かー。そんなすごいことをする手伝いに呼ばれたのねー」

「えっ?何をするか知らなくて依頼を受けたんですか?」

「ええ、カミーラさんには恩があるから、内容も聞かずに二つ返事で受けちゃった。」

「そんなんで、いいんですか?」

「いいの、いいの。それにしてもこれがうまくいけばリーン君が出世するのね。お姉さん、頑張るからねー」


ソフィアさんはそういうと他の冒険者の元に帰っていく。

そして、ソフィアさんは他の三人の冒険者と何か話し、「えい、えい、おー」という掛け声が聞こえてくる。

ちょっと気の抜けた掛け声だったが、ソフィアさんがドヤ顔でこちらを見ていた。





「それじゃあ、そろそろ始めるよ。」


4人の冒険者たちはカミーラさんに指示に従って、畑の四隅にスタンバっている。

ブルとチワ、そしてカミーラさんはそのさらに外側に控える、何やら魔力を注ぎ始める。

その瞬間、畑に魔法陣のようなものが浮かび上がった。


「あんたたちはその魔方陣に魔力を注いでおくれ」


カミーラさんが4人の冒険者に向かってそう叫ぶが、あまりの怪しさに3人の冒険者たちはたじろぐ。

ソフィアさんだけが疑いもせずに魔力を注ぎ始める。


「お、おお」


ソフィアさんの口から驚きの声が漏れているが、何事もないかのように魔力を注ぎ続ける。

それを見たほかの冒険者が恐る恐る魔力を注ぎ始める。

魔力を注がれた結果か、畑周辺が濃いブルーの光に包まれる。

怪しい。果てしなく怪しい。

青白く光る畑に向かって魔力を注ぎ続ける魔術師たち。

傍から見ると怪しい儀式をしているようにしか見えない。

などと考えていると、その隣でウィーネは感心した表情で見守っていた。


「・・・やっぱり人間って面白い考えをするわよね。私たち精霊では自分の魔力を月の魔力と同じ波長にして注ぐなんて考えもつかないわ」


・・・・・・

カミーラさん。怪しい儀式なんて思ってごめんなさい。

僕は心の中で誤っておく。


「それじゃあ、成功するの?」

「うーん。どうだろう?実際にやるのは初めてだから、何とも言えないわ。私が手伝ってあげれたらいいんだけど・・・。」


ウィーネの声は何とも悔しそうなものだった。





「もう、限界だ。」


10分ほどして、冒険者の一人の魔力が切れて、その場にうずくまる。

ソフィアさんはまだまだ余裕がありそうだが、他の二人の魔術師風の冒険者は結構辛そうだ。


「リーン。悪いけど、そこの机の上にあるポーションをそこのヘタレやつに持って行ってくれ。」


カミーラさんに言われ机に行くと、数本のポーションが置いてあった。


--------------------

マジックポーション


飲んだものの魔力を回復させるポーション

カミーラ作

味を犠牲にしているが、効能はピカイチ

--------------------


鑑定さんが僕にポーションの中身を教えてくれる。

僕は急いでポーションをうずくまっている冒険者の元に持っていく。

受け取った冒険者は僕にお礼を言うとポーションに口をつけた瞬間吐き出した。


「ウエッ、なんだこのポーションは!?」


そういって僕を睨みつける。

そんなことを言われても困る。このポーションを用意したのはカミーラさんだ。


「何、勿体ないことをしてるんだい。そのポーションは私お手製のマジックポーションだよ。さっさと飲んで魔力を注ぎな」


向こうの方から怒声が飛んでくると冒険者はビクッとした後、残っていたポーションを一気に飲み干す。

物凄い苦悶の表情だ。

・・・どれだけまずいのだろう?

冒険者は顔をパンパンと叩きながら畑に近づくと再び魔力を注ぎ始めた。

その光景を見ていた他の冒険者の背筋に戦慄が走る。

一人の冒険者の顔が引きつっている。

明らかに注ぎ込む魔力量が減っている。


「どんどん魔力を注ぎな。魔力が枯渇しても直ぐに回復できるよ。どんどん注ぎな。」


間髪入れず、カミーラさんの指示が飛ぶ。

冒険者は慌てて注ぎ込む魔力量を元に戻す。その表情は複雑そうだ。


しばらくすると、先ほどの冒険者の魔力が枯渇してうずくまる。

僕はポーションーをもって近づく。

冒険者はとても迷惑そうな表情で僕からポーションを受け取ると目をつぶって一気に飲み干す。


「#%$#%」


何とも言えないうめき声を発した後、ふらふらしながら立ち上がると再び魔力を注ぎ始めた。

味を犠牲にしているだけあって、物凄い回復力だ。

普通なら一本では完全回復は難しいであろうマジックポーションなのだが、二人とも一本で完全に回復している。

その後すぐにもう一人の冒険者もカミーラさん作のマジックポーションの犠牲となった。

あと、飲んでいないのはソフィアさんだけなのだが、ソフィアさんは涼しい顔で魔力を注ぎ続けている。

注いでいる魔力の量は決して少ないものではない。

どちらかといえば、他の3人の冒険者よりも多いぐらいだ。

それでも尽きないソフィアさんの魔力量ってどんだけなんだろう?





しばらくして、さらに一人が倒れこんだ。

倒れたのはソフィアさんではなく、カミーラさんだった。

僕は慌ててマジックポーションを持っていくが、カミーラさんの顔を見た瞬間、このポーションでは効果がないことが分かった。

明らかに魔力欠乏の表情ではない。おそらく、ウィーネが言っていたライニンガ病のせいだと思われた。


「・・・あんたには病気のことは言ってなかったはずだが、誰かに聞いたのかい?」


僕は黙ったまま首を縦に振る。


「はあ、おしゃべりな奴がいたんだね。」


カミーラさんはそう呟くとウィーネの方を見る。

ウィーネは心配そうにカミーラさんを見ている。

どうやらカミーラさんはウィーネがしゃべったことに気付いているようだ。


「リーン。すまないが私の体を支えておいてくれないか。私の計算だともうすぐ種から芽が出るはずだ。」


カミーラさんを休ませようと家の中に運ぼうとしていた僕にカミーラさんはお願いをしてきた。


「え、でも」

「いいんだよ。聞いたんだろう?私の寿命はもうあと僅かなんだ。月光草の栽培は私たち調剤師にとって悲願だったんだ。歴史的瞬間を私にも見させておくれ。」


僕はブルとチワの方を向くと、二人は必死に魔法陣を起動させるために魔力を注ぎながらカミーラさんを心配そうに見ていた。

そして僕の視線に気づいたブルが口を開く。


「リーン様。お願いします。師匠をの我儘を聞いてあげてください。」


僕は無言で頷くとカミーラさんを支えて体を起こした。

カミーラさんは必死に目を見開いて畑を見ていると、畑に変化が現れた。

種を植えたであろうところの土の中から青白い光が漏れだしたのだ。

その光は急激に増すと辺り一面を青一色に染め上げた。

そして光が落ち着くと・・・そこには5つの低木が生い茂っていた。






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