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僕、チート能力がないんですが  作者: 佐神大地
異世界でマイホーム
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カミーラさんの謝罪



家の一番大きな部屋に行くと、ウィーネの作った料理が机の上に所狭しと並んでいた。

とっても良い匂いが部屋中に立ち込めている。

以前、南の森の聖域で作ってもらった美味しかった料理が思い出される。

そして、床にはソラのゴハンと思われる焼かれた肉が大量に置かれている。

ソラはその肉の前にいくと涎を垂らしながら、肉と僕の顔を交互に見ている。

「食べていいよ」と許可がでるのを待っているのだろう。


「ソラ、どうぞ召し上がれ。」


ウィーネがそう言うとソラは僕に確認を取ることなく肉をがっつき始める。

ソラ、僕は「よし」って言ってないよ。

そんな僕の気持ちを無視して、ソラは美味しそうにお肉を食べている。

・・・まあいっか。


「リーンも食べていいわよ。」


ウィーネがソラを眺めている僕に食事を勧めてくる。

僕は「うん。いただきます。」と言ってウィーネが作った食事の方に顔を向ける。

美味しそうな匂いが僕の食欲を刺激する。

外で働いている三人には悪いが先に食べることにした。





僕とウィーネとソラが晩御飯を食べ終わっても、カミーラさんたちは食事には来なかった。

三人とも忙しそうに作業を続けている。

時折、チワが何か物を取りにやってきて、美味しそうな食事を見ては食べたそうにしていた。

僕が「食べていく?」と聞いたが、チワは首を横に振ると振り返りつつも外に戻って行った。


「なんでそんなに急いでるのかな?」

「・・・・・・」


僕の問いにウィーネは何も答えなかった。

ただ、ウィーネの表情が僅かにゆがんだ気がする。

おそらく何か事情をしっているのだろう。

無理に聞くのはマナー違反かな?と思ったため、この話題には触れないようにした。

僕は食後の片づけをした後、三人の様子を見るために家の外に出た。

三人はフラフラになりながらも作業を続けていた。

辺りはすでに暗くなっている。

魔法で灯りを作り出し、暗い中、黙々と作業を続けている。


「カミーラさん。二人が可哀そうです。そろそろ切り上げて休憩させてあげてください。」


耐えかねた僕がカミーラさんにブルとチワを休ませるように訴える。

カミーラさんは驚いたように周りを見渡すとブルとチワに休むように伝える。


「二人ともすまなかったね。作業に熱中し過ぎてうっかりしてたよ。もう休みな」


カミーラさんはそういうと作業を続ける。

ブルとチワは二人で顔を見合わせた後、何も言わずに作業を再開した。

どうやら、休む気はないようだ。

それほど三人には重要な作業の用だった。

専門的な作業の為、手伝うことのできない僕は三人には悪いと思いながらも先に休ませてもらうことにした。





朝、起きると、作業は終わっていた。

三人は自分の部屋ではなく、僕とウィーネが昨日食事を食べた部屋で泥のように眠っていた。

三人とも机に突っ伏して眠っている。その顔の横には食べかけの料理が残されていた。

へとへとになるまで作業して、料理を食べようとしたところで力尽きたのだろう。

僕はブルとチワを抱えると、彼らの部屋のベッドまで運んであげる。

カミーラさんは・・・流石に無理だったので毛布を後ろからそっと掛けておいた。


外に出るとウィーネが畑の横で目を瞑り、何やらブツブツと呟いているのを目撃してしまった。

何をしているのだろうかと不思議に思いながら近づいていく。

ウィーネは僕の接近に気付き、慌ててこちらに近寄ってくる。


「ウィーネ。何をしていたの?」

「・・・ちょっとね。」


ウィーネは何とも言いづらそうな表情をする。

何かいけないことでもしていたのだろうか?

畑の方を見ると土が僅かに光っている気がする。

あれ、どう見ても普通の状態じゃないよね。

僕が畑の土を見ていると、観念したかのようにウィーネがしゃべり始めた。


「はあ、教えるわ。畑で月光草が育ちやすいようにちょっと調整していたのよ。カミーラには黙っておいてね」

「へえ、そんなことができるの?」

「リーン。私はドライアド、樹の上位精霊よ。忘れたの?私にとって植物の育成を助けるのは簡単なことなのよ。」


・・・すっかり忘れていた。

ウィーネは偉大な精霊というよりは、どちらかというと、近所の優しいお姉さんという感覚で付き合っていた。

もっと恭しく接したほうがいいだろうか?


「リーン。お願いだから、今まで通りに接してね。間違ってもカミーラみたいに接しないでね。」


僕の心を読み取ったのか、ウィーネが頬を膨らませて注意してくる。

よっぽど嫌なのだろう。


「わかってるよ、ウィーネ。それでなんで誤魔化そうとしたの?」

「精霊はね、あまり特定の人物のために力を使用してはいけないの。世界のバランスを崩す恐れもあるから力を使う際は注意する必要があるの。あまり限度を超えると精霊王に罰せられるの。だから、人に力を使っている姿を見せるのを極力隠そうとする習慣があるの。」

「えっ。ウィーネ、罰せられるの?」

「今のはギリギリ大丈夫よ。流石に私も精霊王に罰せられたくはないわ」

「でもなんで、カミーラさんに手を貸したの?」

「・・・カミーラの寿命が尽きようとしているの。」

「えっ!?」

「彼女はライニンガ病っていう難病に罹っているの。治療法はエリクサーって薬だけだけど、人間にとってはとても珍しい薬でね。」

「どうにもならないの?」

「以前、私が罰則覚悟で上げようとしたけど断られたの。『ウィーネ様には迷惑をかけられない』って言われてね。」


ウィーネはとても寂しそうな顔をする。彼女にとっては罰則を受けてでも助けたかったのだろう。


「カミーラは最後に月光草の栽培を成し遂げたいって思っているんだと思うの。それなら手助けしてあげたくなるでしょう。」


ウィーネはそう言うと静かに微笑んだ。





お昼ごろになると三人が目を覚ました。

一番最後に目を覚ましたのはやっぱり一番幼いチワだった。

眠い目をこすりながら部屋から出てくると開口一番「お腹空いた」と言って、皆に笑われた。

笑われたことで少し拗ねたが、先に起きていたブルと僕で作っていた料理がすぐに机の上に用意されると、彼女の顔はすぐに笑顔になった。

ちなみに、ウィーネも一緒に料理を作ろうとしたのだが、カミーラさんが慌てて止めに入り、作らせてもらえなかった。ウィーネはもの凄く不機嫌そうな顔をしていたのだが、どうやらカミーラさんは気がついていないようだった。


「ウィーネ様、昨夜はご心配をおかけしたようで申し訳ありませんでした。」


食事が終わると、カミーラさんが謝罪をしてきた。

それと同時にブルが頭を下げる。それを見たチワが慌てて頭を下げる。

二人の行動があまりに可愛かったのか、ウィーネの顔から笑みがこぼれる。

しかしそれは一瞬で、すぐさまカミーラさんに向き直ったウィーネの表情は真剣なものであった。


「カミーラ。もっと体を労わりなさい。それと、あなたの影響を強く受ける存在が近くに二人もいるのだがら、あなたは自分の行動にもっと責任を持ちなさい。」


カミーラさんははっとしてブルとチワの方を向くと、二人に疲れ果てた姿が目に飛び込んでくる。

カミーラさんが二人に謝罪すると二人は困惑した顔になる。

二人にとって、尊敬するカミーラさんのために何かできるのが嬉しくてしかたのないのだ。

カミーラさんはそんな二人を抱きしめて頭を撫でながら、しきりに謝り続けた。


十分後、カミーラさんの謝罪(?)は終了した。

頭を撫でられていた二人はとても満足な表情だったのだが、僕とウィーネとソラはひたすら退屈だった。

ソラは向こうの方で寝ている。

僕とウィーネは何もすることがなく、只々呆然と眺め続けるしかなかった。

状況に気づいたカミーラさんが二人を離すと、何事もなかったかのように話を再開した。


「おほん、ご心配をおかけしましたが、月光草の栽培の準備は終わりました。今夜にも種を植えようと思います。」


カミーラさんの言葉に僕は驚き、ブルとチワは歓声をあげる。

ウィーネは呆れた顔で見ていた。






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