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僕、チート能力がないんですが  作者: 佐神大地
異世界でマイホーム
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万年苔は採取制限の掛った食材でした



「それで、師匠。どんな御用でしょうか。」


ブルがカミーラに尋ねる。ブルの後ろでチワがおどおどとしながらこちらを見ている。


「ああ、そうだったね。しばらくの間、私たち3人がここに泊まることになったからよろしく頼むよ」

「・・・カミーラさま。部屋の方はすぐにご用意できますが、食料はギリギリしか置いていませんので補充が必要です。」

「それならすぐに買ってきな。」

「・・・代金の方をよろしいでしょうか」

「・・・・・・ないのかい。」

「はい、ギリギリしか頂いておりません。」

「・・・困ったね。後で領主から貰うことはできるが、今、私は手持ちが心細いだよね。」


カミーラさんはそう言って、僕の方をちらりと見る。

お金の催促ですか。わかりました。

僕は魔法の鞄(マジックバック)からお金を取り出した後、ソラに頼んでお肉や果物など食べれそうなものをいくつか出してもらう。

それを見た瞬間、ブルとチワの二人はソラを拝み始めた。


「・・・噂には聞いてたけど、すごい従魔だね。」


カミーラさんも目を白黒させていた。

ソラのことを知っているウィーネは「何をこの程度で」っといった目で見ているが、普通の反応はこうなのだろう。

いや、ブルとチワの反応は普通じゃないよ。





次の日、カミーラさんは用事があると言って出かけて行った。

僕とウィーネはいつモーガンさんから連絡があってもいいように、ということで街にいるよように言われた。

ウィーネは街の観光などはあまりしたくないらしく、必然的に僕もこの家で過ごすことになった。

ブルとチワに妄信されているソラは街に出かけたそうにしていたのだが、2対1ということで却下した。


・・・ソラ、ゴメン。



とはいっても、家の中に引き籠っていてもすることがない。ということで、外の畑でウィーネによる薬草学講座が開講することになった。

参加者はブル、チワそして僕。

ソラは・・・不参加みたいだ。今はせっせとこの敷地を自分の領域にすべくマーキングに勤しんでいる。


「うん、この畑のラインナップは中々の物ね。まずはこの草はね・・・。」


ウィーネは得意満面な表情で説明をしていく。

ブルとチワは一語一句を漏らすまいと真剣な眼差しで聞き入っている。

それに機嫌を良くしたのかウィーネがさらに専門的なことを喋っていく。

もはや僕にはチンプンカンプンだ。

それを理解して聞いている二人はきっとすごいのだろう。

カミーラさんの弟子と言っていたが、僕と同じか少し下ぐらいの年齢でこの知識量ならきっと天才に違いない。


「と、以上がこの畑で育てられている薬草の基礎知識のおさらいだけど、全員ついてきてる?」


えっ、基礎知識!?

僕は聞き間違いではないかと疑う。

そんな僕を無視してウィーネは僕たちの顔を一人ずつ見て、確認していく。

ブル、チワ、と続いて僕の顔を見た時、ウィーネの顔色が変わった。

めっちゃジト目でこちら見ている。


「リーン。あなた絶対についてきてないわね。」

「・・・はい」

「はあ、まあ初心者だし仕方ないか。私はせっかくだからこの二人に中級講座をするからあなたはソラを散歩にでも連れて行ってあげたら?」


ウィーネが二人に気づかれないようにウィンクする。

僕はウィーネの計らいに感謝するとソラを連れてそそくさと外出するのだった。





ソラは尻尾をブンブン振りながら喜びを体中で表現しながら歩き回っている。

この街に来てしばらく経つため、顔なじみの人も少しずつできてきている。

もう少し行くと、ホーンラビットの串焼きの屋台がある。あそこのおっちゃんとソラは仲良しだ。

そこからさらに行くと美味しいパンを売っている店がある。僕が良く買いに行く店だ。

・・・なんだか食べ物屋が多いが、きっと気のせいだよね。


いつもの散歩コースを一周するとソラはとてもご機嫌になっていた。

今は口の周りに付いたソースを未練がましくなめまわしているいる。

相変わらず食い意地が張っている。

僕はソラの口をきれいに拭くと、ソラが不機嫌そうにしたので、近くの屋台でもう一本串焼きを買ってやる。

機嫌を直したソラが美味しそうに頬張っているのを眺めていると、向こうの方からタニヤさんが血相を変えて走って来た。


「あれ、タニアさん。どうしたんですか?」

「どうしたのよ、じゃないわよ。リーン君どういうこと?」

「何がですか?」


僕には全く心当たりがなかった。何があったのだろうか?


「知らないのかい。さっき領主様が来てあんたが企画していた食事会にアリオン王子も参加させてくれって言ってきたんだよ。」

「へっ?」

「なんだい、知らなかったのかい。てっきりあんたが決めたんだと思ってたんだけど・・・」

「何で僕が?」

「あんたとアリオン王子は親友なんだろう?」

「・・・!?誰に聞いたんですか?」

「誰って、プッサンから来た旅人の話だと王子が事あるごとに言ってるらしいよ。違うのかい?」

「いえ、確かに前回お会いした時に『友達になってくれ』って言われたんですけど、それから一度もあってないんですよ。」

「じゃあなんで、王子様が来るんだい?」

「さあ、それは領主様にきいてくださいよ」

「聞いたけど教えてくれなかったんだよ。しかも、料理を作るのも家の旦那から領主のお抱え料理人に変わったんだよ。」

「えっ?」

「家の人、いろいろな食材が扱えるって楽しみにしていたんだよ。」

「・・・わかりました。領主様に文句を行ってきます」

「えっ、ちょっと・・・」


僕は領主の館に向かって走り出していた。

後ろでタニアさんが何か言っている気がする。きっと「よろしく頼むよ」と言っているのだろう。

頑張らないと。





僕は領主の館の前に立つ兵士を見て我に返った。

・・・このまま突撃して、モーガンさんに会うことができるのだろうか?

下手をしたら、不敬罪か何かで捕まるんじゃないだろうか?


どうしよう


どうしよう


どうしよう


・・・


・・



「おい、貴様。ここで何をしている」


僕は兵士の怒号で我に返り辺りを見渡す。

考え込んでいたら、いつのまにか兵士に囲まれていた。

兵士は腰に付けた剣に手を掛け、いつでも切りかかれるような状態だ。

「ソラは?」と辺りを見渡すと、・・・向こうの方で常連の屋台のおじさんに何か貰っている。

これは絶体絶命という状況だろうか?

いや、死ぬことはないか。


「リーン様、どうかなされたのですか?」


いきなり後ろから声を掛けられ振り向くと、そこには執事のセバスさんが立っていた。

相変わらず背筋を伸ばし、身なりを整えた美しい姿勢だ。

というか、さっきまでいなかったよね。

いつの間に近づいてきたのだろうか。

兵士たちも突然現れたセバスさんに驚き、慌てて剣から手を離すと敬礼する。


「セバス様、お知り合いでしょうか?」

「こちらはリーン様です。これから度々お見えになることもありますので、覚えておいてください。」

「は、はい。わかりました。」


兵士たちは直立不動の状態で答える。

セバスさんは僕の方に向き直ると笑顔で一礼する。


「当家に何か御用でしょうか?まあ、立ち話もなんですので、どうぞ。」


と言って僕を屋敷内に案内してくれた。





おそらく応接室と思われる場所に通された。とても豪華な調度品で飾られた部屋は嫌みのない程度にきらびやかであった。

部屋の印象としてはとりあえず、何か飾って面目を保っている、といった感じだ。

それにしても、勢いで来てしまったが良かったのだろうか。

セバスさんは僕を部屋に通すと「少しお待ちください」と言ってどこかに行ってしまった。

一人残されるとさらに緊張感が増してくる。

しばらくすると、セバスさんは紅茶とケーキそして小さな肉を持って帰って来た。

肉?

セバスさんは紅茶とケーキを僕の前に、小さな肉をソラの前に置く。

ソラは嬉しそうに肉を食べている。

流石セバスさんだ。ソラの分も持ってきてくれたんだ。

・・・それにしても、ソラ、ちょっと食べ過ぎでないだろうか?


「それでどうなされたのですか?」


セバスさんが僕に聞いてくる。

緊張していたせいか、口の中がえらく乾いている。

僕は紅茶を一口含み、口の中を潤す。


「実は・・・」


僕は先ほどのタニアさんとのやり取りをサバスさんに伝えてた。




「状況はわかりました。申し訳ありませんが、おそらくこの決定は覆らないでしょう。」

「なんで?」

「実はリーン様が持って帰られた万年苔は陸王亀などの高ランクのモンスターからしか採取できないことから採取制限がかけられています。」

「採取制限?」

「はい、陸王亀の中にはランクSSの個体もいることから怒らせると国が亡びる可能性もあることから、ランクA以上のパーティーでギルドから認可を受けたもの以外は採取依頼を受けれないことになっています。」

「そ、そうなんですか。それなら、僕、どうなっちゃうんですか?」

「はい、今回は偶然手に入れた、ということでお咎めはないようですが、物がモノだけに勝手に消費されるのは問題が残るということになり、わざわざアリオン王子をお呼びすることになったようです。」

「???」

「つまり、アリオン王子の晩餐会に使用するために、リーン様に特別依頼を出し、大精霊のウィーネ様から譲り受けた、という形を取るようです。」


どうやら、いろいろな人に迷惑をかけたようだ。

今度、モーガンさん達に謝らないといけない。






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