新宗教!?スコティッシュテリア教
「すぐにお呼びしろ」
リカルドさんの号令でエルルさんが駆けていく。
モーガンさんは部下を呼び寄せると何やら指示を出している。
そして、カミーラさんは「ウィーネ様がやって来た?」と繰り返し呟きながら下を向いたままだ。
しばらくすると、エルルさんがウィーネを連れてやって来た。
エルルさんはもの凄く緊張した面持ちだ。
「リーン、ゴメンネ。どうやら面倒事になったみたいね。」
入って来て早々、ウィーネは僕に謝ってきた。
その光景を他の人はただただ呆然と眺めていた。
「ううん。いいよ。悪気があったわけじゃないみたいだし。」
「それでもゴメンネ。・・・ところで他の人はどうしたの?」
ウィーネは呆然とするリカルドさん達を見ながら聞いてくる。
リカルドさんとモーガンさん、エルルさんは立ったまま固まっている。
カミーラさんに至ってはひれ伏している。
どんだけ恐れおののいているのだろうか。
ウィーネはそんな状況を全く気にも留めてないようだ。
慣れてるのかな?
部屋の隅で寝ていたソラを呼んで、抱っこして撫でている。
ん、ソラ?そう言えば、僕がリカルドさんとモーガンさんに尋問されている時もあそこで寝てたよね。
助けてくれても良かったんじゃないの?
僕のそんな気持ちを無視して、ソラはウィーネに甘えていた。
◇
「現在の状況は分かったわ。国王の許可は別にして、森に結界を張るのは許可するし、手伝うわよ。たぶん、陸じいも協力してくれると思うわ。時々、人間が来て煩わしいっていってたから。・・・あっ、リーンとソラの立ち入りは許可してよ。シカ退治をしてもらわないといけないから。それに遊びにも来てほしいし。」
ウィーネの出現によって南の山を結界で覆う計画は現実味を帯びてきた。残るは国王の許可なのだがそれについては
「今、部下にプッサンに向かわせております。すぐにプッサンの領主アリオン様がこちらに来られますので、おそらく許可は降りると思います。」
とモーガンさんが宣言した。
アリオン・・・。そうか、アリオンって第三王子だったよね。
こうして、この話はアリオンがこちらについてから、再度話し合う事となった。
モーガンさんとリカルドさん、エルルさんは外で待機している兵士と冒険者を解散させるために出て行った。
「ねえ、ウィーネはこれからどうするの?」
「そうね。森に帰ってまた来るのも面倒よね。リーンの家に泊めてもらえればうれしいんだけど?」
「えっ!?僕、宿屋に泊まってるから家はないよ。まあ、言えばもう一部屋をとることは可能と思うけど」
「そうなの?でも、宿屋だとちょっと面倒ね。カミーラは?」
「はい、私の家なら問題ありません。小さい家ですが、ウィーネ様お一人なら何とかなります。・・・ウィーネ様。良ければ調剤ギルドが管轄する小屋にお泊りしませんか?」
「どんなとこなの?」
「この街のはずれにある建物で横に薬草畑が設置されており、現在、私の弟子が二人、住み込みで管理しております。そこならかなりの大きさがあるのでリーン君も一緒に泊まることが可能です。」
「リーンも泊まれるの!うん、そこにしましょう。リーンもいいわよね。」
「え!?」
ウィーネは返事も聞かず僕の腕をとると、ぐいぐいと引っ張る。
そしてそのままギルド長室を出るとカミーラさんの先導でギルドの外に向かう。
僕はウィーネの腕を振りほどこうとするができなかった。
明らかにウィーネの方が力が強かったからだ。
可憐な少女に腕を引っ張られギルドから出ていく姿をギルドに集まていた冒険者、ギルド職員のほぼすべてに目撃されることになった。
その中には当然、リカルドさん、エルルさん、そして招集を受けていたリブロスとセブンもいた。
ちょっと恥ずかしかった。
◇
カミーラさんの案内で来た建物はカミーラさんの言った通り、テムジンの街のはずれにひっそりと建っていた。
カミーラさんは弟子を呼んでくるといい、そのまま建物の中に入っていった。
残された僕とウィーネは
建物の横には小さな畑が2つほどあり、見たこともない薬草が栽培されていた。
それを見たウィーネが微笑ましそうにその薬草を眺めていると畑の奥から少年と少女が歩いてきた。
二人は獣人だった。狼の耳にフサフサの尻尾、髪の色は金色だった。狼の獣人だ。
二人は男女の差こそあるが、顔立ちは非常に似通っており、兄妹と思われた。年はおそらく僕と一緒か少し下ぐらいだろうか?
二人は僕たちを見ると初めのうちはオドオドとしていたが、兄と思われる方がウィーネに近づくと挨拶をしてきた。
「もしや、ウィーネ様でしょうか?」
「ええ、そうだけどあなたは?」
「私はカミーラ様の弟子でブルといいます。こっちは妹でチワといいます。カミーラ様からお噂は聞いております。そしてあなたは・・・」
ブルは僕の方を振り向くと固まった。ブルブルと震えている。
そして震える指で僕の足元を必死に指さしていた。
僕は足元を見るとソラが僕を見上げていた。
「ねえ、お兄ちゃん。もしかして・・・」
「うん。間違いないよ。神犬様だ。」
そういうと二人はソラに向かって跪くと拝み始めた。
ウィーネは横でウンウンと頷いているが、僕には状況が全く掴めていなかった。
◇
「なんだい。二人とも外にいたのかい。・・・って何してるんだい?」
家の中でブルとチワを探していたカミーラさんが戻ってくると、ソラに向かって跪いて拝み続けるブルとチワを見て呆然とする。
カミーラさんの言葉で我に返った二人はそそくさと立ち上がると、冷静さを装うように膝に付いた土埃を払っているがその表情は明らかに興奮している。
ブルは深く2度ほど深呼吸をすると
「し、師匠。こちらは誰なんですか?」
「前に言ったろ。ドライアドのウィーネ様だ。」
「いえ、違います。こちらのお方です。」
と言ってソラを指さす。
「リーンのことかい。以前、薬草を指名依頼した冒険者だよ。」
「いえ、人ではなくそちらの犬の神獣様のことです。」
ブルは目を輝かせながら尋ねている。
カミーラさんも状況が理解できずに口をあんぐりと開けて突っ立ていた。
「この子はソラっていうんだ。僕の従魔だよ。仲良くしてやってね。」
僕がそういうと、ブルは僕をじっと見つめた後、きっぱりと言い放った。
「ソラ様ですね。わかりました。・・・リーン様もよろしくお願いします。ただ、神獣様と仲良くするなどとんでもないことです。誠心誠意、ご奉仕させていただきます。」
ブルは真顔でそういうと深く頭を下げる。それを見たチワが慌てて兄に習って頭を下げる。
僕もカミーラさんも只々立ち尽くすことしかできなかった。
そんな光景をウィーネは笑いながら見ていた。
「つまり、ソラは犬の神獣でお前たち金狼族にとって信仰の対象なんだな。」
「はい、スコティッシュテリアという犬種は初めて聞きましたが、特殊な犬種であるのは間違いないです。この全身からにじみ出るオーラを見れば一目瞭然です。」
カミーラさんは僕の方を向くと首を横に振る。
「これはどうしようもない」というジェスチャーの様だ。
このままではスコティッシュテリア教なんてものができそうだ。
ソラは何とも困ったような表情でこちらを見ている。
何しろソラが何かをしようとするたびに兄妹が声を掛けてくるからだ。
いい加減うんざりしているようだ。
「ねえ、二人とも。ソラは元々普通の犬だったんだ。だから、あんまり世話を焼かれたりするのは苦手なんだ。できれば、普通の犬として接してあげてほしいんだけど。」
僕が提案すると二人は渋い顔をしていたが、ソラが僕の意見に賛成しているのに気づいた二人は「善処します」といい、すぐには無理だが態度を改善していくと約束してくれた。




