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僕、チート能力がないんですが  作者: 佐神大地
異世界でマイホーム
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取り調べではカツ丼はでてこない



「それじゃあ、もう帰るね。いろいろありがとう。」

「別に、これくらいいいわよ。また遊びに来なさいね」

「うん」

「それと駆除の件よろしくね。」

「駆除?」

「鹿の駆除よ。おねがいしたでしょう。」

「そっか、忘れてた。」

「もう、ギルドに依頼を出すから、見逃さないでね。えっと、調剤ギルドのカミーラって娘の名前でだすから。」

「大丈夫だよ。指名依頼なら受付のエルルさんが教えてくれるはずだから見逃すことはないよ。カミーラさんだね、わかったよ。」


僕はそういうと聖域を後にした。

ウィーネは僕の姿が見えなくなる間で見送ってくれた。

その姿は少し寂しそうであった。

そんなウィーネの姿を見ると、また遊びに来ようと思わずにはいられなかった。

・・・それにしても、この食材どうしよう。

間違いなく騒動になる気がする・・・。

颯爽と街道を駆け抜けるソラの上で僕は悶々と悩み続けていた。





僕は冒険者ギルドに連行され、ギルド長室に監禁されている。

タニアさんに頼まれていた食材を渡し、その後『万年苔』『魔境芋』『スターサファイア』を恐る恐る手渡したところ、タニアさんの表情が一気に真っ青になった。

そして、「どこで手に入れたのか?」と聞かれ、ついつい「南の山で」と答えてしまったところ、そのままギルドに連行、という流れとなった。

どうやら、タニアさんは万年苔の採取場所についてしっていたようだ。

ちなみに、連行中に鑑定さんがいらない仕事をしてくれた。


--------------------

陸王亀


最高ランクの硬さを誇る甲羅を持つ超巨大な亀

ランクS以上のモンスター

魔法耐性も非常に高く並みの冒険者ではダメージを与えることすら困難

その巨大さと相まって『生きている要塞』と呼ばれる。

陸王亀の中でも『(エルダー)』の称号を持つ陸王亀は強力な魔法を放つこともでき、ランクSS以上は確実である

ちなみに、リーン君があったのは古の陸王亀だよー

--------------------


いつの間に鑑定をしたのかは分からないが、陸王亀の鑑定結果を教えてくれた。

ウィーネさんが「鑑定スキルを使うと襲われる」と言っていたのを思い出し、めっちゃ冷や汗をかいてしまった。

良かった、襲われなくて。

ランクSS以上ってどう考えても襲われたら勝てないよね。





そして現在、僕はギルド長室の中央に置かれた椅子に座らされている。

そして僕の目の前にはギルドマスターのリカルドさんと受付のエルルさん、そして・・・領主のモーガンさんまでもが仁王立ちしている。

ギルド長室の外ではギルド職員たちが大慌てでなにやら準備を始めている。

僕の予想通り、騒動になってしまった。

さて、どうしよう。

ウィーネとの約束で彼女のことを喋りたくはない。

でも、彼女の説明抜きでこの食材の説明をするのは不可能ではないだろうか?


「おい、リーン。これはどこで手に入れたんだ。」


リカルドさんが鬼の形相で聞いてくる。

重い。空気が重い。果てしなく重い。

最初は冷静にしようとしていたが、僕が渋っていると態度が豹変した。

焦りからかすぐにでも情報を聞き出そうと、強い態度になったのだ。

ただですら強面のリカルドさんだが、今のリカルドさんは3割増しの迫力になっている。


「リーン君。正直に答えて。とても重要なことなの。」

「・・・南の山です。」


僕は耐え切れず、ポツリと言葉を溢す。

僕はチートキャラではない。当然、精神苦痛耐性なんてスキルはもっていない。

それを聞いたエルルさんはリカルドさんとアイコンタクトをとると席を立って、ギルド長室から出ていく。

目的地が南の森であることを伝えにいったのだろう。

僕が情報を漏らしたことで、さらにリカルドさんたちのプレッシャーが強まる。

このまま一気に喋らせようという腹だろう。

このままではウィーネや聖域のことを喋らされてしまいそうだ。

僕の精神は限界に来ていた。

まるで警察に尋問されている容疑者のようだ。

もちろん、ライトを顔に当てられたり、カツ丼を食べさせてもらったりはない。無言の圧力だけだ。

それでも、その圧力は半端ない。

そういえば、容疑者にカツ丼を食べさせるのはテレビの中だけで、実際には食べさせるということはないらしい。

もちろんこの世界でもカツ丼は出てこない。

などと、違うことを考えて気をまぎらわせていたのだが、遂に限界が来た。



もう無理です。



白状します。


「実は・・・」


まさにウィーネのことをしゃべろうとした時、扉が開いて一人の老女が入ってきた。





「そこまでじゃ。」


老女はそういうとリカルドさんとモーガンさんをキッと睨みつける。

その瞬間、重圧が弱まり、僕は椅子から崩れ落ち、地面に座り込む。


老女は俺の元まで近寄ってくると、懐から一本のポーションを取り出し僕に手渡す。

黄色いポーション。今までにみたことのないものだ。

自白剤じゃないよね。

疑いつつも僕はそのポーションを一気に飲み干す。

「おそらく、この老女は敵ではない」という直感が働いたからだ。

飲み干した瞬間、すり減っていた精神が回復していくのを感じた。

どうやら、精神の消耗を回復してくれるポーションだったようだ


「おい、カミーラ。何をするんだ。」

「それはこっちのセリフだよ。大の大人が寄ってたかってこんな小さな子を尋問するってどうゆうことだい。ああ、元S級冒険者がスキルまで使って何をしてるんだい。恥ずかしくないのかい、モーガン。」

「部外者が口出しするな。こいつは街の危機に関する重大な情報を隠しているんだ。俺はどんな手を使ってでも吐かせる」

「はん、どうせ、陸王亀のことだろう。いまさら何を言ってんだい。」

「カミーラ。なぜ、そのことを知ってるんだ。このことはまだ、外部には漏らしてない情報だぞ。」

「あんたこそ私が誰だか忘れたのかい?」


その瞬間、モーガンさんの顔色が変わった。

明らかに老女の言葉に動揺していた。

老女はそんなモーガンさんを無視すると僕の方に向き直ると優しく微笑んで近づいてきた。

そして、しゃがみこんで僕と目線を合わせると、僕の頭を優しく撫でた。


「あんたがリーンだね。さっきウィーネ様から連絡があって飛んできたんだよ。秘密を守ろうと頑張ったみたいだね。」


モーガンさん達には聞こえないくらいの小声でそう呟く。

僕は状況が理解できずに呆然としていると、老女はモーガンさんたちの方に再び向き直るとキッとにらみつけた。


「そこの二人。ちょっと出ていきな。この子と二人だけで話がある。」

「いや、カミーラさん。そんなことを言われても」

「お黙り。この件は私の管轄のはずだよ。さっさと出ていきな。」


老女はそういって、強引に二人を追い出してしまった。

それにしてもこの老所何者だろうか?

カミーラさん。

・・・どこかで聞いたような。


「ふう。これであんたとゆっくり話ができるね。まずは自己紹介をしようか。私はカミーラ。この街の調剤ギルドのギルド長で南の山の精霊、ウィーネ様の契約者の一人だよ」

「ウィーネの契約者?」


・・・そう言えば、ウィーネが依頼はカミーラって名前で出すって言ってたな。彼女のことだったんだ。

それにしても契約者ってなんだろう?


「あっ。助けていただいてありがとうございます。リーンです。」

「ははは、知ってるよ。ウィーネ様から話は聞いてるよ。気にしなくていいよ。それにしても上位精霊様を呼び捨てか・・・。本当に気に入られたんだね。あんたのことを友達だって紹介してきたんだよ。」

「はい、友達になりました。」

「本来、上位精霊は神に等しい存在なんだよ。友達なんか恐れ多いことなんだよ。」


カミーラさんが真剣な顔で注意してくる。

彼女にとって、どうやらウィーネは絶対的な存在なのかもしれない。

でも確か・・・


「あの、カミーラさん。この街にウィーネの知り合いっ、僕たち以外にいますか?」

「なんだい、急に。いないはずだよ。少なくとも私は聞いていないよ。」

「それならたぶん、ウィーネはカミーラさんのことも友達だと思ってますよ。」

「そ、そんなはずはないよ。私が友達だなんて。」

「でも、ウィーネは悲しそうな顔で言ってたよ。『私は彼女のことを友人とおもってるんだけどね・・・。』って」


それを聞いたカミーラさんは信じられない、といった顔をしていた。






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