高級素材を求めて
「それで、何の食材を集めるの?」
「えっと、頼まれているのは香草とイモ類、あとは果物かな。香草は・・・。」
僕はタニアさんに頼まれていたリストをウィーネに伝えていく。
リストの品目を聞いたウィーネの表情がだんだん曇っていく。
どうしたんだろうか?
そんなに珍しい食材が含まれているのだろうか?
食材リストを伝える前はとてもやる気に満ちていたウィーネだったが、今ではこれっぽちもやる気が見て取れない。
余程面倒な食材でも含まれているのだろうか、ウィーネはブツブツ言いながら不貞腐れたように小石をけっている。
「ウィーネ、どうしたの?」
「リーン。『どうしなの?』じゃないわよ。何、そのリスト、全く面白くもない。もっと高難易度の食材かと思ったら、その辺にあるのばかりじゃない。ほとんどがその辺で手に入るわ。」
ウィーネはそう言って庭?の方を指さす。
どうやら、せっかくやる気を出したのにあまりにも楽すぎた内容だったので落胆していたのだった。
しばらく、ブツブツ言っていたウィーネだったが、何かいい考えでも思い浮かんだのかどや顔で僕の方を見ながら言ってきた。
「リーン、いい考えが浮かんだわ。もっといい食材があるから、それを探しに行くわよ。」
「えっ?」
「まずは香草よ。山の南側に生息する陸王亀を探すわよ。」
「陸王亀?」
「ええ、陸王亀の甲羅に生える苔は究極の香草よ。」
こうして僕はウィーネさんに引っ張られ陸王亀を探すようになった。
◇
「ソラ、どう?見つかった?」
ソラは首を横に振る。
かれこれ1時間ほど探しているが見つからない。
代わりに、鹿やら熊やらのモンスターは何度か目撃している。
もちろん、ソラによって瞬殺されている。
「ウィーネ、本当にこの辺にいるの?」
「ええ、絶滅危惧種だけど確かに以前目撃したわよ。」
「・・・ねえ、それっていつの話?」
「つい最近の話よ。えっと、30年ぐらいまえかしら?」
「・・・」
ウィーネの感覚は僕らとは違うようだ。
更にしばらく探し回ったが、なかなか亀のモンスターを見つけることはできなかった。
「ねえ、ウィーネ。そろそろ諦め・・・」
陸王亀の探索を中断を提案しようとした時、突然、地面が動いた。
この世界にも地震があったようだ。元日本人の僕は地震には耐性がある。
しかし、久しぶりの地震ということもあって、ちょっとびっくりしてしまった。
・・・ちょっとだけだよ。
「結構、揺れたね。この辺は地震が多いの?」
「地震?リーン。何言ってんの?それよりも、遂に見つかったわね。」
僕とウィーネでそれぞれ異なった感想がこぼれ出る。
遂に見つかった?
・・・もしかして。
そう、僕たちは陸王亀の上に立っていたのだ。
周囲は変わらず、木々が生い茂っている400トラックぐらいの大きさの小高い丘のような地形だが、・・・これがすべて陸王亀の甲羅の上なのではないだろうか?
だとしたら、ものすごい大きさだ。
ウィーネの方を振り向くとニッコリと頷く。
間違いないそうだ。
ソラは・・・というと、地面に向かって警戒をしている。
どうやら、陸王亀が動いたことにより、ソラの探査スキルに引っかかったようだ。
逆に言うと、動かなければ、気づかなかったということだろう。
「さあ、探すわよ。」
ウィーネはそういうと周囲の探索を始めた。
◇
現在、陸王亀の甲羅の上を移動している。
甲羅と言ってもその上に土が覆いかぶさり、木まで生えている。
言われなければ、気づくことはない。
ウィーネには絶対に刺激しないようにと言われた。
陸王亀は比較的おとなしいモンスターで刺激さえしなければ襲ってくることはないそうだ。
刺激と言っても、少々の衝撃などは大丈夫だそうで、攻撃系の魔法か、陸王亀を対象としたスキルを使うと襲ってくる可能性があるそうだ。
ソラの探索スキルはぎりぎりOKだが、僕の鑑定スキルもダメだそうだ。
しばらくすると、僕たちは陸王亀の顔の前にいた。
とはいっても、顔は甲羅の中に引っ込んでいる。
僕たちの目の前には巨大な岩?があるだけだ。
ウィーネがそう言ったから顔の前だと分かるだけなのだが・・・。
「はーい、リクじい。久しぶり。」
ウィーネは岩に向かって元気よく挨拶をする。
・
・
・
何も起きない?
ウィーネ、もしかして場所を間違えた?
などと思っていると、カタカタと目の前の岩が動き出した。
岩は動き出すと僕たちの横を転がっていき、目の前に小さな洞窟が出来た。
そして、洞窟の奥から何か巨大な物がスーっとやって来た。
巨大な亀の頭だ。
「誰かと思ったら、ウィーネか。久しぶりじゃな。今日はどうした?」
「ええ、珍しい人間とあったから紹介したくて連れてきたの。あと、ちょっとだけ苔も分けてもらいたくて。」
そういうと、ウィーネは僕を陸王亀の前に突き出した。
その瞬間、ものすごい殺気を感じた。
慌ててソラが僕と陸王亀の間に立ちふさがり、僕を守ろうとするが、明らかに怯えていた。
腰は引けており、尻尾はお尻を隠すように股の間にしまわれている。
ソラは基本的に結構勝気なところがある。日本にいた時もゴールデンレトリバーなどの大型の犬種に立ち向かっていっていた。
ましてや、この世界に転生してからはチート能力を数多く手に入れ無双状態だった。
そのソラが本能的に目の前の相手を敵わない相手と認識しているのだ。
「ちょっと、ストップ。リクじいやめて。よく見て。彼はリーン、転生者よ。」
慌ててウィーネが止めに入る。
とりあえず、殺気は止まったが、陸王亀はもの凄い形相で僕をジッと観察している。
何かに納得したのか、表情が少し和らぐ。とわ言ってもまだ厳つい。
「ふん、なるほどな。リーンとやら災難じゃったな。」
それだけ言うと、プイっと僕の方から視線を外す。
まるで、見るのもいやみたいな感じだ。
何だか嫌われているようだが、僕、何か気に障るようなことでもしただろうか?
「それはそうと、そこの従魔、主人を守ろうとする心意気、なかなかのもんじゃな。若いのに大した男気じゃ。」
打って変わってソラの方を向くと優しそうな表情で褒めまくる。
僕に対する態度と全く正反対である。
まるで孫に対するおじいちゃん、といった感じだ。
話しかけられたソラがビクっとして僕の後ろに後ずさる。
「そんなにおびえんでもいいじゃろうに。そうだ、いいもんを上げよう。儂の加護じゃ。」
そういうと、ソラの体が光り輝いた。ソラが新たなチート能力を手に入れた瞬間だった。
その後、陸王亀から苔を譲り受けると、僕はそそくさとこの地をあとにした。
陸王亀は別れ際に「ふん、もしどうしても困ったことがあったら訪ねてこい。ソラに免じて、一度だけなら助けてやる」と言っていたが、絶対、歓迎はしてくれなさそうだった。
◇
その後、ウィーネの案内でいろいろな食材と果物を手に入れることができた。
タニアさんに頼まれていたのはタイム草、オレガノ草、バジル草といった、前世でも見かけた香草、タロイモ、キクイモといった普通のイモ、そして、この時期に最もポピュラーだという柑橘系の果物、オレンである。
そして僕が追加で手に入れた食材はこんな感じだ。
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万年苔
陸王亀、海王亀といった最上位の亀の甲羅にのみ生える苔。
肉、魚を問わずに旨味を増加させる究極のスパイス。
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鑑定結果を見た時、目を疑った。最高級のスパイス!?
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魔境芋
非常に栄養価の高いイモ。
味も濃厚でとっても美味しい。
モンスターの魔力が充満した山でしか育たない。
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これは陸王亀のすぐ近くに自生していた。
当然か。陸王亀って強力なモンスターだものね。
でも、モンスターがいっぱいいるところで芋を採取する人って、・・・いないよね。
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スターサファイア
精霊の恩恵のある森でしか実を付けない精霊樹の果物。
星形の果物で、サファイアのように透き通った青い果肉の為、そう呼ばれる。
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これはウィーネが育てていたため、ポイッと渡されたため、貰った時は高級食材だとは思わなかったが、何気にすごい物だった。
「ねえ、ウィーネ。この三つの食材ってものすごく高価な物じゃないの?」
「さあ、私、ヒトの世界のことにはそれほど詳しくないから分からないけど、確かにヒトが手に入れるには難しいものかもしれないわね。」
これは間違いなく超高級品のパターンだ。
これを持って帰ると・・・また非常識って言われそうだ。




