最強はエルルさん?
デビルフィッシュを捕獲することのできた僕たちは街に戻ることになった。もう、ここに用事はない。
そして、街に帰ったら・・・エルルさんに怒られるんだろう。
オクトパスキングとデビルフィッシュの件で。
そのことは二人も感じているみたいで、ちょっとブルーが入っているきがする。
そんなことをお構いないなしでソラはテムジンの街に向かって爆走している。
できれば、心の準備をする時間がほしいのだが、得意満面の笑みで走っているソラに注意をできる者はいない。もう間もなく街に辿り着くはずだ。
すれ違う旅人や冒険者が悲鳴を上げている気がするが、・・・気のせいだよね。
しばらくすると街が見えてきた。
ソラはスピードを落としていく。
なにやら、門の方が騒がしくなっている気がする。
こちらの方を指さして何か言っている?
どうしたんだろう?
門に到着すると門番の兵士の人が武器を持って慌てて駆け寄ってくる。
「何かあったんですか?」
僕がソラから降りて兵士の人に尋ねると、兵士はため息を付いてその場に座り込んだ。
「なんだ、お前か。でかい獣が近づいてきたからモンスターの襲撃かと思ったぞ。そいつ、ソラだよな?」
「はい、そうですよ。いつも見ているでしょう?」
「ああ、だがどう見てもいつもより大きい気がするんだが?」
兵士はそういうとソラをマジマジと見る。
あっ。巨大化したままだった。
僕は慌ててソラに巨大化を解除していつもの大きさに戻ってもらう。
その姿を見た門番の兵士は胸を撫でおろすと武器を下げた。
「武器を向けてすまなかったな。これが仕事なもんでな。リーン、ソラが巨大化できるのは分かったが、できれば街に近づく時は巨大化を解いてから近づいてくれ。知らない奴が見たらソラをモンスターと勘違いする可能性もあるからな。」
「わかりました」
こうして、騒動は合ったものの僕たちは無事にテムジンの街に戻ってくることができた。
◇
冒険者ギルドに行くと物々しい雰囲気だった。
慌てて何かの準備をしていた。
普段はギルド長室に引き籠っているリカルドさんが陣頭指揮をとっていた。
「リカルドさん、何かあったんですか?」
「おう、お前たち。帰って来たんだな。ちょうどよかった。」
「ちょうどよかった?」
「ああ。今、西門から連絡があって巨大なモンスターが・・・。もしかして、騒動の原因はお前たちか?」
どうやら巨大化したソラの騒動がここまで伝わっていたようだ。
僕が頷くと、頭に凄まじい衝撃が走った。
お仕置きのげんこつが飛んできたのだ。隣にいたリブロスとセブンも頭を押さえてうずくまっている。
リカルドさん、いつの間に全員にげんこつを!?
「おい、西門の騒動は誤報だ。警戒を解除しろ。後、誰か領主の館にも急いで知らせに行ってくれ。」
リカルドさんはそういうとギルド長室に戻って行った。
どうやら思っていた以上に騒動になっていたようだ。
「痛ってー。リーン、お前のせいだぞ。お詫びとして今日の晩飯はお前の奢りだからな」
リブロスは理不尽の要求を僕に突き付けると、受付の方に歩いていく。
セブンは「ご馳走様」と一言いうとリブロスに続く。
これは、・・・おごり確定だな。
はあ、エルルさんにさっさと報告するか。
◇
夜光虫を提出した後、僕たちはエルルさんと一緒に解体所に来ていた。
討伐したジャイアントレッドフロッグがあまりにも巨大なため、ギルドの受付で提出するのは困難だったからだ。
僕はソラに頼んで討伐したモンスターを出してもらう。
「えっと、レッドフロッグが30きっかり、ブルーが28、・・・・・・」
エルルさんがソラが吐き出していくモンスターを次々に確認していく。
レッド、ブルー、グリーン、ブラウンに続き、疑惑のホワイトを出した時にエルルさんが固まった。
「ね、ねえ、君たち。その白いカエルは何?」
エルルさんの震える声で聞いてくる。白いエレメントフロッグを差している指も震えている。
「ああ、そいつはリーンが討伐したんだ。そいつはエレメントフロッグの変色種か新種だと思うんだが」
「リーン君が!?・・・リーン君ってすごい運の持ち主なんですね。このカエルはホワイトフロッグといって光属性のエレメントフロッグなんだけど、個体数がほとんどいないため幻のエレメントフロッグって呼ばれているのよ。」
「ということは高値で売れるのか?」
「ええ、肝だけでなく他の部位もすべて買い取り可能よ。」
「おっしゃ。」
高値で売れると聞いたリブロスとセブンはすごく喜んでいる。
僕はそれほどお金に困っていないのでソラに次の獲物を出してもらう。
「ソラ、今度はジャイアントレッドフロッグだね。えっと、そこだとちょっと狭いかな?エルルさん、もっと広いところないですか?」
「ちょっと、リーン君。もっと広いところってどれだけ大きかったの?」
「えっと・・・」
「高さが3メートルぐらい」
具体的な大きさを覚えていなかった僕に代わって、セブンが答えてくれる。
その回答を聞いた解体専門の職員が真っ青になってきている。
すでにエレメントフロッグだけで100匹以上納品しているのにそこからさらに大型が出てきたからだ。
「わ、わかったわ。とりあえず見せてみて?出す場所は・・・あそこがいいわね。」
ソラはエルルさんの指示した場所にジャイアントレッドフロッグを吐き出す。
うーん。何度見ても大きいな。
「う、うそ。何、この大きさ。通常の巨大種よりかなり大きいわね。これだと、危険度のランクの見直しも必要ね。そうなると、報酬も変わってくるわね。それにしても、このカエルの素材は・・・」
エルルさんが何やらブツブツ呟いている。
しばらくトリップしていたエルルさんだが、咳ばらいをすると何事もなかったかのように作業を再開し始めた。
「こ、これでおしまいよね。」
とエルルさんが不安げに言ってきたが、ソラの胃袋の中にはまだまだしまっている在庫が存在する。
ソラが次に出したのはビックリマウス。僕が死闘を演じたモンスターだ。
これにはエルルさんは見向きもしなかった。
次に出した土トカゲも大して興味を示さなかった。
というか、土トカゲっていつ倒したの?
僕がビックリマウスと戦っている間に倒したのだろうか?
そして最後にデザートイーグルを1匹。
これにはエルルさんも脱帽していた。
「デザートイーグルも!?・・・す、すごい。傷がほとんどない。」
デザートイーグルは上空から急降下して襲ってくるため、討伐は広範囲の殲滅魔法ですることが多いそうだ。
そのため、傷が多く、傷の少ないものは高額で取引されるらしい。
ちなみに、ソラは急降下してきたデザートイーグルの首筋を見事にロックオンして噛みついていた。
普通のモンスターにはこんな芸当はほとんど不可能らしい。
「はあ、リーン君の納品は心臓に悪いわね。さ、これで終わり・・・!?」
ソラは最後にオクトパスキングの足とデビルフィッシュを吐き出していた。
その瞬間、エルルさんの顔色が変わった。
「えっと、リブロス君、セブンちゃん。私、言ったわよね。湖の魔物は危険だから手を出さないように、って。聞いていなかったのかな?」
凄まじいオーラがエルルさんから立ち上る。
ソラは役目を終えたと、部屋の隅の方で丸くなっている。
圧倒的な威圧感を放つエルルさんが僕たち三人の前に仁王立ちしている。
周りから他の職員がどんどん離れていく。
「ん?何でこんなことになったのかな?二人は死にたいのかな?」
「あの、エルルさん」
「なにかなあ、リーン君」
「あの僕がデビルフィッシュが欲しくて無理に戦ったんです。」
「ふーん、どういうことかな?」
エルルさんの圧力がどんどん高まっていく。
僕は素直にすべてのことを話した。
「リブロス君。情報は重要なのよ。知らずに命を落とす人もいるのに聞きたくないから聞かなかったってどういうこと。セブンちゃん。情報の重要性を知っているから聞きに来たんでしょう?なんで無視するのかな。そしてリーン君。お礼にご馳走してくれるっていうのは嬉しいけど、なんで危険なモンスターに挑むのかな?別にデビルフィッシュでなくてもよかったでしょう?他の人を危険にさらしちゃダメでしょう。」
エルルさんのお説教は小一時間ほど続いた。
それが終わった時には僕たちは身も心も疲れ果てていた。
◇
「これだけたくさんだと、報酬の計算には時間が掛かるからちょっと待ってね。特にジャイアントレッドフロッグとホワイトフロッグの査定に時間が掛かるわ」
「はい、わかりました。」
「後、オクトパスキングとデビルフィッシュの一部は売らずにリーン君の報酬に先払いでいいのね。」
「おう、問題ない」
「うん」
「これでやっとお終いね。三人ともお疲れさまでした。」
時刻はすでに夕方になっていた。
お腹が空いた。
ソラも僕の足元にやってきて、「ゴハン、ゴハン」と僕の足をつついている。
「ソラ、わかってるよ。ゴハンだろ。すぐにタニアの酒場に行こうね。リブロスとセブンもそこでいいでしょう?」
「何がだ?」
「なんだよ、自分で奢れって言っておいて忘れたの?」
「えっ、ほんとにいいのか?」
「・・・聞き返すぐらいなら言わないでよ。」
「そっか、言ってみるもんだ。タニアの酒場だな。俺はどこでもいいぜ。」
セブンも横で首を縦に振る。
僕たちが移動を開始しようとした時、エルルさんに呼び止められた。
「ちょっとリーン君、待って」
「なんですか?」
「私たちへのお礼の食事会っていつするの?」
エルルさんが興味深々で聞いてきた。
「まだ、タニアさんにも言っていないので具体的には決まっていませんが?」
「でも、早くしないとデビルフィッシュが腐っちゃうでしょう?」
「あっ、それは大丈夫です。ソラの胃袋収納はどうも時間経過がないみたい何で中の物が腐らないんですよ。」
「・・・へっ?」
エルルさんが呆然としている。
あれ、この世界には魔法鞄とかあるからこの程度の能力はありふれていると思っていたけど、違ったのかな?
「でたよ。リーンの非常識」
横から聞こえたリブロスの一言で僕は悟った。
時間経過がないのはチートなんだと。
「そ、そうなの。それじゃあ、タニアさんと相談しておいて。それとソフィアには私から伝えておくわ。」
「ありがとうございます」
「それと一つ確認だけど、・・・本当にオクトパスキングを食べるの?」
「美味しいですよ?」
「そ、そう」
エルルさんの顔が引きつっていた気もするが、きっと気のせいだよね。
こうして、僕とリブロス、セブンの三人での初めての冒険は幕を閉じた。




