デビルフィッシュはタコ?それとも魚?
池の方を振り向くと、大きな水しぶきが上がっていた。
その中心には大きな丸いもの鎮座していた。そしてその周辺を細長いものがニョロニョロ動いている。
あのシルエットは・・・タコだな。
どうやらデビルフィッシュはタコだったようだ。
リブロス達は腰を抜かしている。
僕は慌てて巨大なタコに鑑定を使う。
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オクトパスキング
巨大なタコでこの湖の主。
ランクBのモンスター
この世界ではタコを食べる習慣がないが、食べることは可能。
かなりの珍味。
残念でしたー。デビルフィッシュじゃないでーす。
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・・・デビルフィッシュではなかった。
それにしても、ランクBのモンスターか。
このランクのモンスターを鑑定したのは初めてだ。
いくつか強いモンスターと戦ったが、ランクBはいなかったはずだ。
たしか、キラータイガーはランクCだったはず。
オークジェネラルは・・・鑑定していない気がする。
オークキングに至っては見てもいない。
ということで、この異世界に来て初のランクBのモンスター。しかも、相手は水系のモンスターだ。
水中に引き込まれたらソラでも厳しいのではないだろうか。
空を見ると巨大化して戦っていた。
迫りくるタコ足を前足で一閃するとタコ足が四散していた。
「「「・・・・・・」」」
僕たちは全員黙るしかなかった。
「何、あの強さ。反則じゃない?」といった声が聞こえてきそうなぐらいの強さだった。
◇
しばらくすると、オクトパスキングは撤退していった。
流石のソラも水中の敵を倒すのは無理なのか追撃はしなかった。
辺りには何本かタコ足が散乱している。
念のためにもう一度鑑定さんに確認したが、間違いなく珍味と書いてある。
よし、持って帰ろう。
「ソラ、そのタコ足食べといて。」
僕がそういうとソラはタコ足を胃袋にしまう。
これで食材がまた一つ手に入った。
満足げに後ろを振り向くと、「信じられない」といった顔のリブロスとセブンが立っていた。
「なあ、リーン。確認のために聞くけど、そのモンスターの足、食べたりはしないよな」
「えっ?食べるけど」
「いやいやいやいや、どう考えても食べれないだろ」
「それ、食べものじゃない」
二人は首がちぎれんばかりの勢いで首を横に振る。
そんなにタコはこの世界ではマイナーなのだろうか?
鑑定でも珍味と出てたのに?
あっ、食べる習慣がないとも言っていたが。
「鑑定さんによると珍味らしいよ」
「「非常識」」
またもや、二人に非常識というレッテルを張られる。
理不尽だ。
「なんでそんなに拒否するの?」
「当たり前だろ。お前の謎スキルが食べれるって言ってもそんな気色悪い物を食べたいと思うか?」
「気色悪いって、タコじゃん」
「タコ?そんな名前なのか?」
「うん、僕の生まれた場所では普通に食べてたよ」
「・・・マジか!?ありえねえだろ」
なんと失敬な。日本人の食文化を否定されてしまった気分だ。
そういえば、ヨーロッパではタコを忌み嫌っているからデビルフィッシュって呼ばれているんだった気もする。
そうなるとリブロス達がここまで拒否するのも頷ける気がしてきた。
まあいいか。エルルさん達もいやがるならこのタコ足は僕とソラで美味しくいただこう。
僕はタコは好きだし、ソラもきっと食べるよね。
◇
「ところで、あのモンスター。なんで襲ってきたんだ?」
「エルルさんは手を出さない限り襲ってこないと言っていた。」
二人が僕をジッと見つめる。
なにやら僕を疑っているようだ。
「別にタコにちょっかい何てかけてな・・・」
僕は言いかけて釣りをしていたことを思い出した。
釣りで気分を害したのかな?もしくは湖のほとりで騒いでいたのがうるさかったのかな?
「おい、リーン。何を急に黙ってるんだ?」
「いや、あの、暇だったから釣りをしていたみたいなー」
「「・・・・・・」」
二人が呆れた様子でこちらを見ている。
「あのなあ、見張り中に釣りなんてしてたのか?」
「いや、見張りはちゃんとソラのスキルでしてたよ」
僕がソラに助けを求めると、ソラは元気よく「ワン」と答える。
「あのなあ・・・。まあ、ソラがスキルを使ってたなら問題ないか。リーンに常識を教えるのは今度にしよう。」
リブロスは半ば呆れ顔であった。
セブンは「ドンマイ」と言わんがばかりの憐みの目で僕の肩を叩く。
なんで?僕、なにか悪いことをした?
そうこうしているうちに、日が昇り明るくなってきた。
「はあ、飯を喰ったらさっさとデビルフィッシュを捕まえて帰ろうぜ」
リブロスは疲れ気味にそういうと、僕の方をジトっと見る。
はい、わかってます。朝ごはんを作ればいいんでしょう?
僕はテキパキと朝ごはんを作り始める。
持ってきたパンをお皿に乗せると後は大量にソラが保管しているオーク肉を豪快に焼いていく。
「そうだ、ついでにタコ足の味見もしよう」
僕はソラから出してもらったタコ足をぶつ切りにして、魔法鞄から塩とニンニクで一緒に炒める。
あっという間にタコ足のガーリックソテーが完成する。
・・・・・・これ、リブロスとセブンは食べないよね。
しかたない、二人用にもう一品だ。
森で採取していた茸を取り出して茸のガーリックソテーを作る。
「よし、食べよっか。」
僕が二人に声を掛けると、二人は黙って頷くのだった。
「なあ、リーン。それ、美味しいのか?」
タコ足のガーリックソテーを美味しそうに食べている僕を見たリブロスが恐る恐る聞いてきた。
「タコ?おいしいよ。リブロスも食べてみる?」
僕がお皿を差し出すとリブロスは顔を横にブルブルッと振ると後ずさった。
そんなに拒否らなくてもいいのに。
僕は不機嫌そうにお皿を引っ込め、食事を再開しようとすると、反対側から小さい声が聞こえた。
「食べる」
声の方を向くとセブンが小さく手を挙げていた。
「セブン、やめとけ。お腹壊すぞ」
リブロスがセブンを説得しようと体を詰め寄る。
おい、お腹を壊すって僕は食べてるのに。
「それは大丈夫。リーンは美味しそうに食べてる。必要なのは勇気。」
セブンはそういうとお皿を突き出す。お皿を持つ手はカタカタと震えている。
僕はしっかり焼けて、一番おいしそうな部位をセブンのお皿に乗せる。
セブンはそれを確認すると、お皿を自分の前に戻す。
お皿の中央にタコ足が鎮座している。
セブンはゴクリと唾を飲み込むと一気にそれを口の中に突っ込んだ。
一噛み、二噛みとセブンは恐る恐る食べていく。
だんだん咀嚼のスピードが速くなっていく。
セブンは食べ終わると呆然としていた。
「おい、セブン。大丈夫か?」
リブロスは心配そうに尋ねるが、セブンは呆けたままだった。
なにやら頭の中でいろいろ考えを整理しているようだ。
「あー、うー、うん。・・・ちょっと変な食感だったけど、美味しかった。」
セブンはタコ足の感想を僕に伝えると朝食を再開した。
僕はリブロスにもう一度勧めてみたのだが、リブロスは首を縦に振ることはなかった。
◇
「後はデビルフィッシュだけだな。さっさと捕まえて帰ろうぜ。」
「それでどうやって捕まえるの?」
「釣るんだよ。」
「でも、それだと今朝のオクトパスキングが出ちゃうよ。」
「・・・お前、餌は何にしたんだ?」
「えっと、夜光虫」
「・・・そんなもんを餌にしているからオクトパスキングが怒ったんじゃないか?ちなみにデビルフィッシュの餌はでかい肉だ」
そんなものなのだろうか?
どちらかというと、でかい肉のほうがオクトパスキングを呼び寄せるのではないだろうか。
などと考えていると、肉という言葉に反応したのかソラが涎を垂らしながらやってくる。
さっきご飯を食べたのにもうお腹空いたの?
「ソラ、悪いな。お前のご飯の話じゃないんだ。デビルフィッシュは悪魔の魚って呼ばれるだけあった肉食の魚なんだ。だから昨日取ったエレメントフロッグを一匹まるごと餌にすればすぐに釣れるぜ。昔、釣り好きの冒険者に聞いたから間違いないと思うぜ。」
リブロスの知識は人から聞いたものだったが、他に情報がないので試してみることにした。
とりあえず、レッドフロッグでいってみようか。
僕は釣り竿にレッドフロッグを丸まる一匹つけると釣りを開始した。
当然、忍耐力のない僕では釣り上げることはできなかった。選手交代だ。
リブロスはおもむろに釣り竿を手に持つと釣り糸を垂らす。
めっちゃ適当だ。
こんなので釣れるのか?と思ったら、あっという間にヒットした。
「えっ?」
「おい、リーン。手伝え。大物だ。」
リブロスが慌てて叫んでくる。
僕は慌てて駆け寄ると釣り竿に手を掛ける。
息を合わせて竿を引くが相手の抵抗が激しい。
リブロスの顔に焦りの色が見える。
「リーン、やばいぞ。思った以上に大物だ。どうする?」
「どうするって?」
「このまま釣り上げるか、釣り竿ごと諦めるかだ。」
「えっと。」
僕が悩んでいるとソラがむくっと立ち上がり湖に飛び込んだ。
「「「!!!?」」」
しばらくすると、釣り竿から抵抗がなくなり、巨大な魚が宙を舞った。
同時に僕とリブロスは勢い余って尻もちをつく。
一瞬何が起こったのか分からなかったが、水面に顔を出したソラを見てすべてが判明した。
ソラの口元には何か赤いものが付いていた。
血だ。
釣り上げた魚を見ると胴体の一部に穴が空いている。
ソラが水中で倒したのだろう。さすがソラだ。
僕はピクピクと今にも息絶えそうな魚を鑑定する。
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デビルフィッシュ
肉食の魚系モンスターでランクはC
味は淡白で非常に美味しく、市場にあまり出回らないため、高級食材に分類される。
うん、大きなピラニアだね。毒はないから安心して食べていいよ
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間違いなくデビルフィッシュのようだ。
それにしてもランクCのモンスターか。
ソラは水中でも無双だったようだ。




