リーンらしいとはどういう意味ですか?
「ふう、何とか勝てたな。・・・あれ?二人ともどうしたの。固まっちゃって?」
リブロスとセブンは何故か固まっている。
もしかして、僕がやられたと思ったのかな?
「二人とも終わったよ」
僕が声を掛けるが二人は帰って来ない。
どうしようかと途方に暮れていると、ソラが二人の後ろに行き、「ヴー、ワン」と少し怒気を伴って一喝すると二人は驚きのあまりその場にへ垂れ込んでしまうが、我に返る。
「リーン、怪我はないか?」
「リーン、大丈夫?」
二人は慌てて駆け寄ると、僕の身を案じてくれる。
確かにもう少しで一撃を喰らいそうになったが、所詮はランクEのモンスターだ。
僕の鎧の性能ならそんなにダメージを喰らうことはないだろう。
「二人とも心配し過ぎだよ。相手はエレメントフロッグ、ランクEのモンスターだよ。」
「お、お前、気づいていなかったのか!?今のエレメントフロッグ、白かっただろう」
「うん?」
「エレメントフロッグの色はレッド、ブルー、グリーン、ブラウンの四色だぞ。つまり、あいつは新種か変色種だぞ」
「変異種!?」
言われてみると、依頼書には白のエレメントフロッグについての記載はなかった。
あれ?変異種ってたしか・・・通常種よりも強いんじゃなかったか?
もしかして、僕、危なかったの!?
見る見るうちに顔が青くなっていくのが自分でもわかる。
「ねえ、リブロス、セブン。僕ちゃんと生きてる?」
僕はパニックを起こし、リブロスとセブンになだめられ、落ち着くのに10分の時間を要した。
◇
「リーン、落ち着いたか」
「うん、ゴメンネ。」
正気に戻った僕は地面に座り込むと、二人に平謝りしていた。
モンスターの出現する危険な場所で正気を失うのは自分だけでなく、仲間の命も危険にさらすからだ。
実際、この10分の間、モンスターの襲撃が4度もあったそうだ。
もっとも、そのたびにソラが無双をして難なく乗り切ったため、問題はなかったそうだ。
ソラは現在、僕の膝の上に頭をおいて気持ちよさそうに眠っている。
「それにしても、あの白いエレメントフロッグをよく倒せたな。」
「ああ、それは黒牙とソラのおかげだよ」
「「黒牙?」」
そういえば、二人には黒牙が成長する武器だとは言っていなかったな。
バラックさんにあまり他の人に言うなと注意をされていたが、この二人ならいいよね。
「実はこの成長する武器なんだ。」
僕が二人に黒牙のことを説明すると、二人に再び非常識と言われてしまう。
「はあ、リーンと一緒だと驚くことに事欠かないな。どこでそんな武器を手に入れたんだ?」
「えっと、ラックさんから直接売ってもらった。」
「ラックさん・・・?もしかして、エルブラント商会の会長か!?エルブラント商会はテムジン一の商会だぞ。お前、すごい人と知り合いだな」
リブロスはそういうが、僕の中でラックさんは「迷子の商人」だ。
それほどすごい人というイメージはない。
リブロスの顔を見ると「やっぱりリーンだよな」みたいな顔で納得している。
こちらとしてもなんとも納得いかないのだが。
「ねえ、戦う前に刀と話してなかった?」
セブンがボソリと聞いてきた。
「うん。なんだかこの刀、生きている気がしてついつい話しかけちゃうんだ。」
「なんだ、お前、そんなことしてんのか。まだまだお子様だな。武器に話しかけるってなんだよ」
「でも、さっき黒牙は答えてくれたぞ。」
「ないって。武器に自我なんかがあるわけないだろう」
リブロスに全否定されてしまうが、黒牙のスキルは僕が使っているわけではない。
僕のピンチの時に発動するのだ。
それなら、黒牙に自我があると思ってもいいんじゃないか?
ふと、セブンの方を見ると、愕然とした表情で黒牙を見つめていた。
「セブン、どうしたんだ?」
「それ、成長する武器じゃない。生きている武器。」
「生きている武器?」
「そう、成長する武器の上位の存在。成長する武器はドワーフの鍛冶職人の誰かが数十年に1本ぐらいで作り出すいことがある。でも生きている武器は神々以外で作り出すことが出来たのは伝説のドワーフ王だけ。しかも、王も1本しか作り出すことが出来なかった。・・・もし本物ならすごい発見だ。」
セブンの中ではすでに黒牙は生きている武器となっているようだ。
宝物を手にした少年のような目で黒牙を惚れ惚れしながら見ている。
「セブン、生きている武器ってそんなにすごいの?」
「凄い!今、現存する生きている武器は3本。竜喰らいの剣ドラゴンイーター、叡智の杖ユグドラシル。そして、我らがドワーフ王が生みだした創造する槌ブラフマーだ。」
「おいセブン、ドラゴンイーターとユグドラシルは有名だけど、ブラフマーってなんだ?」
「ブラフマーはドワーフ族の至宝だ。数々の生産職のスキルを覚えていて、鍛冶師、細工師、木工職人など数々の生産職のギルドでランクSをとっておられるんだ。」
セブンは胸を張って答えているが、リブロスは首を傾げている。
まあ当然だよね。
生きている武器で生産職ギルドでランクSってどうなの?
「それで、セブンは黒牙が生きている武器だっていうの?」
僕の質問にセブンはコクリと頷く。
「実は生きている武器と成長する武器の関係については未だ解明されてない。成長する武器が成長すると生きている武器という人もいるが、全く関係ないと断言する人もいる。でも、刀がリーンの問いに答えたのなら、その刀が生きている武器である可能性が高い。」
「そっか、それならいつか黒牙とお話できるようになるのかもしれないのか。」
「・・・リーン。流石に生きている武器でもしゃべるのは無理。口がない」
セブンは呆れ顔で僕を見るのだった。
◇
白いエレメントフロッグについては保留ということになった。
結局、変異種か新種かの結論は出なかった。
「まあ、ギルドに提出すればなんかわかるだろう」
という、リブロスの発言で論争は終わった。に
その後、僕たちは本来の目的であるジャイアントレッドフロッグに向かって歩を進めた。
途中出てくるエレメントフロッグについては3人で協力して戦うことにした。
僕はやっぱり危ないのは怖いので「新種が紛れては危険だ」と言い張り、二人を説得した。
戦闘民族のリブロスだけでなく、セブンも渋っていたのは意外だった。
最もセブンはすぐに了承してくれたが、リブロスはかなりの時間渋っていた。
どれだけ一人で戦いたいんだよ。
だからといって、リブロスが集団戦を苦手かというとそうでもなかった。
ちゃんと連携をとってくれるし、僕のカバーもちゃんとしてくれる。
一人でモンスターに突っ込んでいくという悪癖さえなければ優秀な戦士なのだ。
一方、セブンの戦い方は対ソロで集団戦とはあまりかみ合わないが、それでも無難に役割を果たしてくれた。
発見したモンスターへの先制攻撃や仲間のサポートなどそつなくこなしていた。
問題なのはやっぱり僕だ。
黒牙とソラのスキルサポートでなんとか戦えてはいるが僕自身の技術不足のせいもあり、二人に迷惑を掛けていた。
「リーン。お前、もうちょっと戦闘技術を」
「仕方ないだろ。」
「これでランクCなんだよな。まあ、ソラやその武器の能力で何とかなってるけど、高ランクの依頼だと危険だぞ。」
「わかってるよ。だから、戦い方を教えてくれる人を探しているんだよ」
「探してる?」
「うん、前にバラックさんにも言われたからギルドに依頼をだしてるんだ」
「ギルドに依頼!?・・・お前、冒険者だろう。本来、依頼を受ける立場のほうだぞ。」
「だって、僕まだ死にたくないもん。」
僕の返答にリブロスとセブンはお腹を抱えて笑い出した。
そんなにおかしいことか?
死にたくないって欲求はふつうだろ?
「うん、リーンらしい。」
「そうだな。流石リーンだ。」
二人は納得してくれたが、その納得のしかたに僕は納得はいかなかった。
・・・リーンらしいってどういうこと?
こうして、僕たちは何事もなくジャイアントレッドフロッグと対峙することになる。




