僕は非常識なのだろうか?
しばらくすると、げっそりしたリブロスがやって来た。よっぽどキツイお説教だったのだろう。
目から生気が失われている。
「えっと、リブロス。大丈夫?」
「この・・・薄情者どもー」
リブロスが腹の底から絞り出したような声で批難してくる。
そんなこと言われても僕らにはどうしようもない。
「それで依頼、どうする?」
セブンはリブロスの批難を無視して淡々と聞く。
リブロスは面白くなさそうに一枚の紙を取り出す。
そこには3つの依頼が載っていた。
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討伐依頼 ランクD
西の平原でジャイアントレッドフロッグの討伐
報酬 6000ゴールド
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納品依頼 ランクE
各種エレメントフロッグの肝 各種30個まで
報酬 1つ600ゴールド
※狩り過ぎに注意
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捕獲依頼 ランクE
夜光虫の捕獲 10匹
報酬 5000ゴールド
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「リブロス。この依頼は?」
「エルルさんお勧めの依頼だ。ここからら西に1日ほど言ったところにあるケロッグ平原はエレメントフロッグの生息地なんだが、最近そこにレッドフロッグの巨大種が現れたらしいんだ。これの討伐依頼だな。ついでに通常の各種エレメントフロッグの肝も持ち帰れば二番目の依頼もクリアできる、と。更に、ケロッグ平原の中央にある湖周辺では夜に夜光虫って虫が捕獲できるそうなんだ。これの捕獲が3つ目の依頼だな。・・・『これが普通の冒険者の依頼の受け方よ』ってさんざん言われたよ。」
エルルさんの説教を思い出したのか、リブロスの表情が曇る。
それにしても、エレメントフロッグに夜光虫か。知らない名前ばかりだな。
「リブロス。エレメントフロッグって」
「ん?リーンは知らないのか。レッドは火属性、ブルーは水属性、グリーンは風邪属性、ブラウンは土属性のカエルなんだ。その肝は属性系の魔法道具や薬の材料として使われるらしいな。」
「へー、そうなんだ。それと夜光虫ってどんな虫なの?」
「ああ、エルルさんによると夜に光輝くのが特徴な小さな虫だって言ってたぞ。夜、光ってる虫は夜光虫しかいないそうだ。」
「そうなんだ。その虫って昼に捕まえられるのかな?」
「いや、偽夜光虫ってそっくりさんがいるみたいで夜に捕まえろってよ。」
「そっか、それじゃあ日帰りはできないね」
「・・・リーン。エルルさんからの伝言だ。『野営にもなれた方がいいわよ』だそうだ。あとセブン、俺達には『カエル系のモンスターは獣系とはまた違った動きをするからね』だそうだ。」
それを聞いたセブンが静かに頷いている。
・・・なるほど、確かによく考えられているようだ。
あれ、食材は?
「心配するな、リーン。その湖にはデビルフィッシュって魚系のモンスターがいて、結構旨いって有名なんだ。」
リブロスは僕の心を読んだのか、心配するなとばかりに親指を立てる。
『デビルフィッシュ』は英語ではタコって意味だったはずだけど、この世界ではどうなんだろう。
リブロスの反応だと魚のような気がするが。
どちらなのか、ちょっと楽しみだ。
こうして、僕、リブロス、セブンの三人での冒険が始まった。
◇
1時間後、出発の準備を終えた僕たち三人とソラは西門の外に立っていたのだが、全員がそれぞれ緊張した面持ちだった。
実はリブロスもセブンもモンスターの巨大種との戦いは初めてだったのだ。
巨大種など通常のモンスターが変異したものを総称して変異種と呼ぶ。
他には変色種や奇形種などがある。
これら変異種は総じて通常種と比べて強いのだ。
巨大種は力が強く、体力が多い傾向があるが、過去には普段持っていない状態異常の攻撃や通常種と全く違った攻撃をしてきた個体もいくつか存在する。
その時は多大な犠牲が出ての討伐となり、モンスターの危険度のランクが更に1ランク上がったりもしていた。
確かにいい経験になるかもしれないのだが、危険も伴う依頼だったのだ。
昇格試験に落ちて、捲土重来を目指す二人は始めは意気込んでいたが、冷静になるとちょっと危険性を意識しだしていたのだ。
「リーン。がんばろうな。」
リブロスはそれしか言葉が出なかった。
「うん。ケロッグ軽減はここから西に1日だよね。結構大変だよね。」
「へっ?」
リーンの的外れな回答にリブロスとセブンは呆気にとられる。
もちろんリーンはそんな二人の反応には全く気がついていなかった。
「そうだ!ねえ、ソラ。今日はリブロスとセブンも一緒に行くんだけど、三人で乗れる?」
「くーん」
僕の質問にソラはリブロスを見ると、首を横に振る。
リブロスが重すぎてダメということだろうか?
いや、僕もリブロスもそんなに重さは変わらないはずだ。
やっぱり3人だときついのかな。
・・・まてよ!?
「ねえ、ソラ。もしかしてリブロスが鎧を脱いだら3人を運ぶことができる。」
「わん」
今度は肯定の返事が返ってきた。
ソラは「任せて」といった感じで僕を見ている。
リブロスは敵と真っ向勝負をするのが好きなため、結構重厚でゴツイ鎧を着込んでいる。
その鎧を着たまま上に乗られると痛いため、ソラは断ったのだった。
「ねえ、リブロス。その鎧を脱いだら、ソラに乗ってケロッグ平原まで行けるんだけど、いいかな?」
「へっ?」
二人には理解しづらかったのだろう。
説明をしてもなかなか理解してくれず、説明の時間に10分、更に鎧を脱ぐことに抵抗したリブロスを説得するために10分の時間を要した。
◇
「うわあああああー。」
鎧を脱いだリブロスはソラの上で絶叫を上げていた。
ソラは気に留める様子もなくどんどんスピードを上げていく。
ソラの能力のおかげか、これだけのスピードで走っているのに空気の抵抗はまったくない。
それでも目まぐるしく変わる景色を見ているとリブロスでなくても叫びたくなる気持ちは分かる。
僕の後ろに乗ったセブンも怖かったのか落ちないようにと必死に僕にしがみついていた。
ソラのスピードが増すたびにしがみつく力が少しづつ強くなっていくのがよくわかる。
なにしろ僕の背中にセブンの柔らかい膨らみが二つ押し付けられているからだ。
・・・決して狙ってやったわけじゃないよ。
ソラが前回よりも少し大きくなることで僕たちは全員乗ることができた。
ソラのスキル、『巨大化』がいつのまにかLv2になっていたから可能になったようだ。
僕たちはソラに言われるままにソラの背に乗った。
その結果、リブロス、僕、セブンの順にソラに跨っていたのだ。
◇
「ソラ、そろそろお昼だから休憩しようか。」
僕の言葉にソラがスピードを落とす。
そして、お昼をとるのに丁度良い一本の大きな樹の傍で止まる。
僕たちはソラから降りると昼食の準備を始めた。
用意したお弁当を広げ、ソラにもたっぷりのお水とお肉の塊を用意する。
ソラにはもうちょっと頑張ってもらわないといけない、などと考えていると、リブロスが突然叫んだ。
「おい、ここってももうケロッグ平原じゃないか。」
ケロッグ平原には来たことがないが、西には広大な平原が広がっている。
遠くの方を見ると、巨大なカエルが数匹跳ねているのが見える。
鑑定さん、よろしく。
僕は遠くに見える巨大な赤いカエルを鑑定する。
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レッドフロッグ
火属性のエレメントフロッグ。
肝は薬の材料、皮は防具の材料として使われる
ランクEのモンスター
っていうか、こんな遠くのモンスターに鑑定つかわないですださい。
働かせすぎです。
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「・・・レッドフロッグだ。鑑定のスキルで確認したから間違いないよ。」
僕の言葉に二人が絶句する。
そうだよね。
あの巨大なカエルがレッドフロッグならジャイアントレッドフロッグってどれだけ大きいんだろう。
「お前、この距離で鑑定ができるのか!?どう見ても、ここから500メートル以上は離れてるぞ。」
「非常識」
二人に鑑定の射程距離で非難される。
僕の鑑定って何かおかしいのかな。
・
・
・
!?
もしかして、この鑑定スキルってチートの能力!?
僕にもあったんだ。
それにしても、どうやらここがケロッグ平原であるのは間違いない様だ。
この辺でエレメントフロッグが生息しているのはケロッグ平原だけだからだ。
歩いて来れば、真夜中に着くはずだったから、半日早く着いた計算になる。
流石、ソラだ。
ソラの方を見ると、「どうだ」とばかりに胸を張って尻尾を振っている。
うん、かわいい。
僕が頭を撫でると嬉しそうに体を摺り寄せてくる。
◇
「リーン。やっぱお前は非常識だ。」
リブロスは昼飯を食べながらそう突っかかってきた。
隣でセブンもうんうんと頷いている。
「・・・失礼な。」
「何を言ってるんだ。さっきの鑑定にしても、この平原に来るまでに3~4時間とかどう考えてもおかしいだろ」
「移動に関してはソラに言ってよ」
僕はそう反論したが、どうやらこの世界では従魔の能力は従者の能力とみなされるようだ。
何だか理不尽な気もするが、これがこの世界の常識らしいのでしかたないのかな?
僕はリブロスと言いあうのを止めて、周囲を見渡す。
見渡す限り広大な平原が広がり、遠くの方でカエルがピョコピョコ跳ねている。
僕たちが通ってきた道はここから北に曲がり平原を避けるように走っていく。
「ねえ、リブロス。ケロッグ平原はエレメントフロッグ以外にどんなモンスターがいるの?」
「さあ、エルルさんが何か言ってた気がするが覚えてない。」
「えっ?」
「だってよ。出てくるモンスターが分かったら面白くないじゃん。やっぱり何も知らず戦うから面白いんじゃないか。弱点なんか調べてきたらやる気が萎えるだろ。」
「・・・・・・」
リブロス、お前はどこの戦闘民族だ?
そんなことを言って死んだら元も子もないぞ。
僕は途端に不安になっていくのだった。




