パーティー結成
2日後、ソフィアさんの言うとおり、僕は全快していた。
この3日間、タニアさん、エルルさん、ソフィアさんには大変お世話になった。
特にエルルさんには感謝してもしきれない。
朝、晩にソラをご飯に連れて行ってくれ、その帰りに僕の食事を持ってきてくれた。
タニアさんは店が暇なときにヨーグルトのような物を何度か差し入れしてくれた。
この国では病気の子供には定番のデザートで、冷たくて少し酸味のある味だった。
失った汗の成分を補給してくれるそうだ。
ソフィアさんもよく見舞いに来てくれた。
その都度、回復魔法を掛けてくれたので、本来なら体力の消耗が激しかったのだろうが、それ程気にすることもなかった。
この三人にはお礼をしないといけないだろう。
何をしようか?
僕にできることと言ったら、美味しい食材を集めて、御馳走するぐらいだろうか。
うん、そうしよう。
まずは、どの食材を探すかを決めるためにギルドに行くか。
エルルさんならきっといい食材を教えてくれるはずだ。
・・・あれ?エルルさんへのお礼のはずなのに、結局エルルさんに頼ってないか?
しかも、僕は料理をできないから、タニアの酒場に頼むことになるのでは!
・・・まあ、仕方ないよね。
◇
「リーンくん、お帰りなさい。」
「おう、坊主。大変だったみたいだな」
「今日からまた頑張れよ」
「エルルさんがお前の部屋に通っていたって!?」
「なまってないだらうな。気をつけろよ。」
ギルドについた僕はエルルさんだけでなく、その場にいた冒険者からも祝福や激励受けた。
一部違う物もあったが。
今までほとんどしゃべったことのない冒険者がほとんどだったが、みな暖かく迎え入れてくれた。
しかも、受付から引っ張って行かれると冒険者らしい手荒い祝福も待っていた。
こんなことになるとは思ってもいなかった僕は戸惑いつつも、とても嬉しかった。
自分がギルドの一員であると実感することができたからだ。
冒険者というと、どうしたも粗野とか自分勝手といったイメージだった。
もちろん、前世の異世界もののラノベが原因だ。
そういえば、初めて冒険者ギルドにやって来た主人公が柄の悪い冒険者に絡まれる、といったテンプレもここでは起きなかった。
それどころか、幼い僕を暖かく見守ってくれていた節すらある。
どうやら、テムジンの冒険者ギルドは結構アットホームな組織のようだった。
◇
一番最後にやって来たのはリブロスとセブンだった。
どうやら、他の冒険者が話し終わるのを待っていたようだ。
二人とは初心者講習で知り合った。
冒険者の仲間の中では最も年が近く、気の合う仲間だ。
「おう、精霊の試練を無事に乗り越えようだな。おめでとう」
「おめでとう」
「二人ともありがとう」
「それにしても12で精霊の試練って初めて聞いたぞ。」
「そうなの?ソフィアさんの話だと時々いるらしいけど?」
「馬鹿だな。そんなのいたとしてもごくごく少数だろう。大体、俺の生まれた村にはそんな奴はいなかったぞ。」
「私も知らない。」
「そうなんだ」
「まあ、無事に試練を乗り越えたなら、これから病気になることはほとんどないだろうから、いいんじゃないか」
「そうだね。それはそうと、二人は昇格試験を受けてたんだよね。どうだった?」
僕がそう切り出した瞬間、二人はひどく落ち込んだ。
やばい、これは落ちたんだ。
えっと、なんと声を掛ければいいんだろう。
「あの、その・・・」
「気を使わなくてもいいぞ。俺たちは試験に落ちたんだ。実力不足でな。」
「実力不足?」
リブロスもセブンもそんなに弱くない。
前回、初心者講習での戦闘を見た限りでは、ランクFモンスターのウルフとホーンラビットには圧倒していた。
おそらく、ランクEレベルのモンスターにも問題ないはずだ。
おそらく協力すればランクDのオークとも渡り合えるはずだ。
「ああ、お前の思ってることは分かる。実力不足って言っても弱いっていう意味ではないそうだ。俺たちはランクDになるには経験が足りないって言われたんだ。」
「軽減が足りない?」
「ああ。運悪く帰り道に森の中でジャイアントバットの群れに襲われたんだ。」
「ジャイアントバット?」
「巨大なコウモリのモンスターだよ。俺とセブンはすぐに対応できなかったんだ。まさか昼間に襲ってくるとは思っていなくてな。」
「不覚」
「もちろんすぐに体制を整えて退治はしたんだが、試験官の印象は悪かったみたいだな。」
「そうなんだ。それでどうするの?」
「もちろん、リベンジするさ。いろんな依頼を受けて経験を積んで再トライだ。」
「考え中」
リブロスは凄くやる気に満ちていた。
彼なら間違いなく次は合格できるだろう。
セブンは「考え中」とは言っているが、おそらく再チャレンジすることだろう。
目が諦めていない。
きっと数日以内に心の整理を終えて再び動き出すことだろう。
・・・なんかいいな!
往年のスポ根漫画をみているようだ。
「で、お前はどうするんだ?」
「えっ、僕?」
「お前もランクCにはなったけど、実力不足なのは一緒だろ。」
確かに、僕も実力不足なのは一緒だ。エルルさんにも注意されている。
リブロスは一緒に修業をしたくてウズウズしているようだ。
「僕はしばらく食材を探す予定なんだ。」
「はあ、食材?」
「うん、実は・・・」
僕は食事会を開こうと思ったことを説明した。
最初はあきれ顔で聞いていたリブロスだったが何か思いついたのか途中からは熱心に聞き出した。
「お礼の食事会か。お前、変なことを思いつくな。なあ、俺も手伝わせてくれよ。いい経験になると思うんだ。」
「私も手伝いたい。高級食材の食事、食べてみたい!」
リブロスだけでなく、セブンまでも目を輝かせながら食いついてきた。
・・・お礼の食事会なんだけど。
僕は二人の熱意に押し切られて、三人で臨時パーティーを組むことになるのだった。
◇
「あら、三人でどうしたの?」
受付に戻ると、エルルさんが笑顔で迎えてくれた。
「僕たち・・・」
「俺たち三人でパーティーを組むことにしたんだ。いろいろな状況下での戦闘を経験したいんだけど、いい依頼ないかな?」
僕を押しのけるようにして、リブロスがエルルさんとの間に割って入った。
「そうね。三人でだったら、いくつか面白いのがあるわよ」
エルルさんはそういうといくつかのクエストを紹介してくれた。
リブロスはそれらを賢明に見比べていく。
そして後ろを振り返ると
「お前達、1~2週間ぐらい大丈夫だろ。」
「問題ない」
僕が呆気にとられていると、セブンはさっさと答える。
「リーン。お前は何か用事があるのか?」
「えっと、用事はないけど、2週間も掛かりそうな依頼があるの?」
「・・・?お前、何言ってんだ?こんなの普通だろう?」
「ごめん、今まで日帰りの仕事がほとんどだったから」
僕の返答にリブロスだけでなく、セブンも唖然としていた。
「二人とも、勘違いしないでね。リーン君は普通の冒険者が何日も掛かる依頼を一日で終わらせているだけよ。」
エルルさんが呆れた顔で説明してくれる。
「なんだ。お前のいつもの非常識か」
リブロスとセブンがうんうんと頷いているが、何だか納得いかない。
「でもリブロス君。君の依頼の受け方もちょっとおかしいからね」
「えっ?」
驚いているリブロスの横で、セブンがうんうんと頷いている。
それを見てエルルさんが呆れ果てている。
「当然でしょう。討伐系の依頼を一気に5~6個受けようとするのは君だけよ。」
「でも、以前ベテランの冒険者に一度に2~3個受けるのは当たり前って」
「それは討伐系依頼を一つと採取系依頼を1~2って意味よ。」
「でも、俺採取系は嫌いだし」
「あのね。好き嫌いの話じゃないの。君が無謀な依頼を受けて失敗すると私たちも困るの。だいたい、前回、パーティーメンバー全員がそれぞれ別の討伐系依頼を受けて問題になったとき、さんざん説教したはずだけど、どうやら懲りていないようね。」
エルルさんは相変わらず笑顔のままだが、その笑顔が変質していく。
あの笑顔は見ているだけで怖いな。
リブロスの顔色が青ざめていく。
まるで大型肉食獣と相対している小動物のようにぷるぷる震えてこちらを見ている。
「リブロスはもう少し反省した方が良い。リーン、むこうで待っていよう。」
セブンは助けを求めるリブロスを無視して、俺を引っ張り、待合所まで行くのだった。




