職業はテイマー?
周囲を見てみると石造りの家が整然と並んでいる。
この街はかなり大きな街だ。
ラックさんによると、テムジンという名の街で、このあたりを治める領主の館もこの街にあるそうだ。
文明レベルでいうと中世ヨーロッパといったところだろうか。
人間だけでなく獣人、エルフ、ドワーフなどファンタジー世界定番の種族が行き交っている。
冒険者ギルドは街中心部にあり、周囲には冒険者狙いのお店が乱立していた。
武器屋、防具屋、道具屋、あれは魔法屋だろうか、杖のマークのついた看板の店まである。
とっても気になる。
だが、一番心を動かされたのがギルド横にあった串肉の屋台だ。
とてもおいしそうな匂いが辺り一面に広がっていた。
飯テロだ。
僕だけでなくソラも串肉をロックオンしていた。
◇
ギルドの中は思ったほど人はいなかった。
昼時なのできっと他の冒険者は仕事に行っているのだろう。
僕はソラを抱くとギルドの中に入る。
「あら坊や、どうしたの?」
僕がギルドに入ると、受付のお姉さんが僕に声を掛けてきた。
「すみません。ここで身分証が作れるって聞いてきたんですけど?」
「えっ、僕が冒険者になるの?君、何歳?」
「12です」
「そう、一応成人はしているのね。確かにギルドカードは身分証代わりにはなるけど、冒険者は危険な職だけどいいの?」
「はい、ある程度は聞いています」
「そう、わかったわ。一応、説明をするわね。」
お姉さんから聞いた内容はラックさんから聞いたないようと一致していた。
冒険者はランクFからはじまり、A、S、SS、SSSの9つのランクに分かれているそうだ。
冒険者は自分のランクより一つ上のランクの仕事まで受けることができ、達成すると依頼量を受け取れる。
依頼をこなしていくと、ランクアップのための試験を受けることができ、それに合格するとランクアップするそうだ。
基本的なことはラノベによくでてくる冒険者ギルドとほとんどいっしょだった。
ただ、商人のラックさんがなぜ冒険者ギルドについてこんなに詳しいのかは疑問だった。
そういえば、ギルドでは従魔登録ができるので、ソラはちゃんと登録しておくように、とも言われた。
「すみません。一緒にこの子の従魔登録もしたいんですが」
「えっ?犬には登録は必要ないわよ?」
「でも、ステータスでは従魔になっているんですよね」
「そ、そうなの?それで種族は?」
「種族ですか。えっと、スコティッシュテリアですね。」
「すこてぃっしゅてりあ?初めて聞くモンスターね?」
「いえ、モンスターじゃなくて犬ですけど」
「????犬なら従魔登録は必要ないわよ?」
「でも、その辺のモンスターより断然強いですよ。」
「そ、そうなの!それじゃあ、犬じゃなくてモンスターじゃないの?」
しばらくの間、問答が続いたが、お姉さんが折れて、従魔登録をしてもらえることになった。
登録をしていなくて、何かあったらたまったもじゃない。
していて損にはならないはずだ。
・・・登録料以外は。
「それじゃあ、この紙に必要なことを記入してもらっていい?」
気を取り直したお姉さんは登録書類を持ってきた。
あれ?職業欄がテイマーになっている?
「お姉さん。僕、テイマーじゃないんですけど」
「えっ?」
またまた問答が始まった。
ラックさんの時といっしょだ。
テイマーでないと従魔は持てないとか、何とかだ。
ステータスボードを相手に見せれればいいのだが、どうやら他人のステータスボードを見るすべはないそうだ。
「おう、エルル。こいつか。テイマーじゃないのに従魔がいるって言ってるガキは。しかも、従魔は犬だって?」
筋骨隆々でいかにも近接戦闘を得意としてそうなおっさんが奥の部屋からやってきた。
見た目は完全にマッチョな剣士である。
ギルドの職員なのだろうか?
「ギルドマスターのリカルドだ」
「リーンです。よろしくお願いします」
ギルドマスターだった。
リカルドさんは僕とソラを交互に見ては頷いている。
「ふーん。確かに犬みたいななりだが、犬じゃねえな。・・・・・・見た感じランクAぐらいのモンスターと同程度の実力ってかんじだな。」
リカルドさんがそう言うと、お姉さんはビクッと体を震わせる。
ランクA並みの実力か。
そりゃそうだよね。
神様からいっぱいチート能力を貰ってるもんね。
僕は貰ってないけど・・・。
「それに比べて、こいつは弱そうだな。まあ、テイマーなら従魔が強けりゃ問題ないんだが、本人はテイマーじゃないと・・・」
ギルドマスターは僕をずっと見つめている。
「で、坊主。職業は何なんだ?」
「ステータスボードにはなしって書いてます」
「無職か。じゃあ、テイマーでいいんじゃないか。面倒くせー」
ギルドマスターの言葉にお姉さんが反論する。
「マスター。それはダメです。資格がないのに勝手に名乗ったらテイマー協会の方から文句が来ます。」
「そ、そうか。それじゃあ、エルル。職は適当に決めて、登録しといてくれ。」
「い、いいんですか?」
「ああ、テイマーじゃなくても従魔を従えてるって例はないわけじゃない。非常にめずらしいがな。」
「わかりました。それでは登録しときますけど、何か問題が起きたら、マスターの責任にしますからね」
お姉さんはそういって登録手続きを再開してくれた。
◇
その後、無事に登録が完了した。
登録料はラックさんから受け取った魔石と素材を換金してもらい支払った。
「それじゃあ、リーン君、これで君の冒険者よ。そうだ、私はエルルっていうの。よろしくね。」
「はい、よろしくお願いします」
「これがリーン君の冒険者カードよ。確認してね。」
僕は渡されたカードを確認する。
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名前 リーン
ランク F
職業 犬使い
従魔 ソラ(スコティッシュテリア)
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職業は犬使いになっていた。
テイマーとできないから苦肉の策でこうなったのだろう。
「それとこれがソラ君の従魔登録の証明書と従魔用の首輪よ。首は必ずつけておいてね。」
そういって渡された首輪をソラに見せると、ソラは喜んで首を差し出した。
ソラに首輪を付けてあげると、とても喜んで僕に体を擦り付けてきた。
うん、喜んでるね。
「かわいいわねー。この子がランクAの実力なんて信じられないわ。」
エルルさんはソラを見ながらつぶやいていた。