沼地にて食材採取
「ソラちゃん、今日は毛並みがとってもいいわね。良い手触りね。きれいに洗ってもらえたのかな?良かったわね。」
朝、タニアの酒場で食事をしていると、ソラのご飯を持ってきたタニアさんがソラの頭は撫でながら、毛並みを褒めてくれた。
ソラが褒められるととっても嬉しい。
自然と僕の顔がほころぶ。
ソラはそんなことを気にも留めず肉に貪りついている。
「昨日、トリミング用のブラシを買って毛を梳いてあげたんです。」
「そうなのかい。それで毛にツヤが出ているんだね。良かったね。ソラちゃん。」
ソラは呼ばれたため、一瞬顔を上げたが、すぐに関係ない呼ばれていないことを察して、お肉に向き直る。
とても美味しそうに食べている。
もちろん、僕が食べている料理もとっても美味しい。
なんでも『ワイルドダックのソテー』って料理だそうだ。
やっぱりお肉の素材はモンスターなのだが、前世の鶏なんかより、よっぽど美味しく感じた。
鳥肉系素材ではロックバードとかワイバーンとかが高級素材として市場に出回るそうだ。
ワイバーンは鳥ではない気がするが、絶品ということなのでぜひ食べてみた。
もっとも、ワイバーンと遭遇したいとは思わないのだが・・・。
僕は食事を終わるとタニアさんに挨拶をすると冒険者ギルドに向かうのだった。
◇
僕はギルドの依頼掲示板の前に立っていた。
ギルドで依頼を受けるには二つの方法がある。
一つは受付嬢に自分に合った依頼がないかを聞いて受け付ける方法だ。
僕は今までこの方法で依頼を受けてきた。
もう一つの方法がこの依頼掲示板で自分で依頼を選ぶ方法だ。
今回初めて掲示板を見た理由は、単純にどんな依頼がいるのかを知りたかったからだ。
納品依頼は僕がいつも受けている薬草の依頼の他に食材の納品依頼も多かった。
先ほど食べたワイルドダックの納品はランクEの依頼だった。
ちなみにロックバードはランクC、ワイバーンはランクAとなっていた。
他にも護衛依頼、配達依頼なども張り出されている。
冒険者になって1ヶ月ほど経つが知らなかった。
僕が何の依頼を受けるかだって?
もちろん、エルルさんに選んでもらいます。
僕にはどの依頼がどの程度危険かなんて全く分からないからです。
「エルルさん、おはようございます。」
「リーン君、おはよう。掲示板を覗いていたみたいだけど、何かしたい依頼でもあった?」
「いいえ、今朝食べたワイルドダックが美味しかったんで他にどんな依頼があるのかを見ていたんです。」
「ワイルドダック。確かに美味しいわよね。どうする、受けてみる?」
エルルさんはそういうとワイルドダックの依頼書を取り出す。
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納品依頼 ランクE
ワイルドダックの納品 30羽まで
報酬 1匹2500ゴールド~
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「いいんですか?ランクEの依頼ですよ。」
「ええ、本当はランクCの人がランクEの依頼を受けるのはあんまりよくないんだけど、リーン君は特別ってことでマスターの許可を取っているわ。だいたい、最近受けていた薬草採取の依頼も本当はランクEかFの依頼よ」
どうやら今更だったようだ。
「それじゃあ、遠慮なく受けてみようと思います。」
「わかったわ。ワイルドダックは南西の沼地地帯に生息しているわ。歩いて半日ぐらいだから、リーン君ならソラちゃんに乗って行ったらすぐ着くと思うわ。注意事項としては水辺の戦いになるから足元に気をつけてね。後、沼地の奥の方に行くと強いモンスターがでてくるから奥にはいかない方がいいわよ。」
「強いモンスターですか」
「ええ、ランクCとB帯のモンスターが生息しているわ。」
「わかりました。近づかないどきます。」
「後、沼地の一番奥にこの沼地エリアのボスモンスターもいるわ。」
「ボスモンスター!?」
この言葉を聞いた瞬間、背筋に何かゾクッと来る感じがした。
この手の悪い予感は非常によく当たるので気をつけないといけない。
「ヒュドラっていう巨大な毒蛇のモンスターよ。頭の数が多くなればなるほど、凶暴で狡猾になるらしいわ。強力な毒液を吐いてきて、再生能力があるから一人では絶対に戦わないでね。」
「わかりました。」
「まあ、奥地でしか目撃情報がないから大丈夫だと思うわ」
エルルさんが盛大にフラグを立ててくれた気がする。
沼地で毒蛇・・・。絶対に遭遇したくないな。
◇
僕はラックさんのお店で沼地用の装備を購入すると、南西の沼地に向かって出発した。
ラックさんに言われて沼地探索用の必須品『耐水ブーツ』なるものを購入した。
ぶっちゃけた話、長靴のことだ。この世界ではゴムは貴重品らしく1足30000ゴールドとかなりの金額だった。まあ、15匹も納品すれば、十分ペイできるので問題ないか。
そして当然のことながら、ソラ用の耐水ブーツなるものはなかった。
ラックさんによると、沼地の入り口付近はとても浅く、奥地まで行かない限り問題ないとのことだった。気がかりな点と言えば、ソラの足がとても短いということだ。
足の長さは20センチ弱だ。
ソラが沼地で戦えなかったらどうしよ。
まあ、その時はその時だ。
後は、念のためにと毒消し薬もいくつか購入しておいた。
・・・決して、ヒュドラと戦うつもりはないよ。
◇
沼地にはソラに乗って1時間ほどで到着した。
あまり人気のないスポットみたいで僕の他には3人組の冒険者のグループが1つ来ているだけだった。
彼らはワイルドダックではなく、沼エビを採取しに来ているそうだ。
沼エビは沼の入り口から少し入ったところに生息していて、特殊な殺し方をしないと生臭くて食べれたものではないらしい。さらに殺したらすぐに冷やさないとダメになるらしく輸送用の専用の魔道具が必要らしい。
後半に関してはソラの胃袋でどうにかなりそうだが、前半の技術は持っていない僕は、沼エビの採取は無理そうだった。
「ねえソラ。沼地で戦えそう?」
僕が尋ねると、ソラは首を傾げて沼に入っていく。そして、5メートルほど走っていくと、すぐに急旋回して帰ってきた。
そして、僕の元まで戻ってくると「ワン」と胸を張って吠えた。
うん、大丈夫なようだ。
僕は意を決してソラと一緒に沼の中に入っていく。
足がグニュッと沼の中にめり込む感じが何とも言えず不快だ。
耐水ブーツのお陰でなのか足を取られずに移動はできているが、間違いなく移動力は半減している。
一方、ソラは快調に沼の上を走っている。
本当に沼の上を走っているかのようだ。何しろ足が沈んでいない。
・・・・・・
前世に見たアニメで水面をの上を走るには「右足が沈む前に左足を前に出し、左足が沈む前に右足を前に出す・・・・・・」と説明しているシーンがあった気がするが、ソラはまさにそれをやっているかのようだ。それとも魔力的な何かで沼の上に立てるのだろうか?
どちらにしても、ソラは楽しそうに沼の上を走っている。
ただ、せっかく昨日綺麗にした毛並みが泥で悲惨なことになっていた。
これは、ワイルドダックの捕獲より、帰ってからのクリーニングの方が大変そうだ。
僕はとっても暇だった。
5~6分置きぐらいにソラがワイルドダックを捕まえてくる。
僕がすることはソラが持ってきたワイルドダックにとどめを刺して、血抜きをするぐらいだ。
始めは自分でも探そうとしたのだが、僕には無理だと判断して諦めてしまった。
開始5分でこけてしまい、盛大に沼にダイブしてしまったため、心が折れてしまい、これ以上沼地を歩き続ける気力がわかなかった。
◇
3時間後、僕の目の前には血抜き中のワイルドダックが35羽も並んでいた。
先ほど、最後の1羽の血抜きを始めたので、終わるにはもう少しかかりそうだ。
そうそう、血抜きをしている時、血の匂いに惹きつけられて、2匹のウルフがやって来た。
近くにソラがいなかったため、僕が対処しないといけなかったのだが、何とかやっつけることが出来た。
武器補正が高いためもあるだろうが、いつの間にか僕もこのレベル帯のモンスターなら問題ないレベルにはなっていたようだ。
ソラを魔法の水筒から出した水できれいに洗ってやると魔法のブラシで丁寧に梳いていく。
先ほどまでドロドロだったソラはどんどんきれいになっていく。
それに比べて僕は、沼に盛大にダイブしたため、体中泥だらけだ。
一応、水できれいに洗い流した後、きれいなタオルで拭いているのでそれなりに綺麗だが、限界があった。
「よし。終わったよ」
僕がそういうと、ソラは焚火の前に行って丸まって寝る。
僕の体を乾かすために焚火を起こしていたのだ。
薪は以前初心者講習の時に集めたものが魔法の鞄の中にいっぱいあったので使用した。
そういえば、沼地の奥にヒュドラがいるって言っていたが、会わなかったな。
ソラに確認するが遭遇していないようだ。
うん、良かった。どうやらフラグは立っていなかったようだ。
◇
さて、そろそろ夕方になる。
そろそろ戻らないと辺りが暗くなってしまう。
僕は出発の準備をしようかと思った時、沼エビを取っていた冒険者たちが沼から帰ってきた。
「おう、坊主。成果はどうだった。」
「ぼちぼちです。そちらはどうでした?」
「こっちもまあまあだ。しばらく休憩したら帰る予定だがお前はどうするんだ?」
「僕は休憩が終わったんで今から帰ろうかと思っていたところです」
「それなら、その焚火、使わせてもらっていいか?」
「ええ、どうぞ」
彼らも沼でエビを探していたので、びしょ濡れになっている。
寒かったのだろう。
僕が許可を出すと急いで日の近くまでやってきて、血抜きされたワイルドダックに気がつく。
「坊主、すごくたくさん狩れたみたいだな。・・・というか、多すぎないか?」
「そうですか?」
「ギルドの依頼だろう?それだったら、上限は30ぐらいじゃないか?」
僕は余った分はソラの胃袋に入れておいて、後で自分で食べる予定だったので、数は気にしていなかったが、確かに上限は30だったはずだ。
「ええ、余ったものは自分で食べようかと思って多めに狩ってきたんです。」
僕の返答に冒険者たち3人が相談を始める。
すぐに答えが出たようで、リーダー格の冒険者が提案してきた。
「どうだ。もしよかったら、沼エビとそのワイルドダックを交換しないか?」
彼は氷漬けになった沼エビを取り出すと僕が血抜きしていたワイルドダックの1羽を指さす。
・・・エビか。食べたいな。
僕はその提案に喜んで乗ることにした。
僕は一番大きいワイルドダックを彼らに手渡すと、その氷漬けのエビを受け取った。
小ぶりの氷塊で中には20匹ぐらいのエビが入っていた。
タニアさんに渡したら、ドランさんが美味しい料理に仕上げてくれるはずだ。
僕は急いで、帰る準備をするとソラに飛び乗り急いで街に帰っていくのだった。
その光景を3人組の冒険者たちはただただ呆然と眺めていた。




