僕の金銭感覚はおかしい?
今日は久しぶりにオフの日として、買い物に出かけている。
欲しいものがあったからだ。
街中の雑貨屋を探したのだが、目的の物は見つからなかった。
一応、いくつかあるにはあったのだが、質の良いものは見当たらなかった。
「やっぱりないのかな。」
朝から探し始めて、すでに昼過ぎにまでなっている。
僕は諦めかけていた。
「はあ、仕方ないかな。次のお店で見つからなかったら、さっきのお店の物を買うか。本当はもっといいものが欲しかったんだけどなあ。」
僕は諦め半分で街のはずれの雑貨屋に入っていった。
「やっぱりないか。」
僕は諦めてお店を出ようとした時に、突然後ろから声を掛けられた。
「少年、久しぶりやな。元気にしてたか?」
この特徴的なしゃべり方の人を僕は一人しかしらない。
案の定、後ろを振り向くとそこにいたのはエルブラント商会会長のラックさんだった。
「お久しぶりです。」
「今日はソラ君は一緒じゃないんやな。どうしたんや?」
「買い物に来たんです。お店によっては従魔は入店できないのでソラには宿で待ってもらっています」
「そうか。で、何を探してるや?」
僕は目的の物をラックさんに伝える。
考えてみれば、ラックさんはこの街一番の商会の会長だった。これは期待できる。
「はっはっはっはっ。少年、それを探すのは骨が折れたやろ。」
「はい、なかなかいいものが見つからなかったんで。」
「当然や。この街にはテイマーがおらんから需要がないんや。そんなもん必要とするのはテイマーぐらいやからな。」
「そうなんですか?」
「ああ、後は貴族や大富豪ぐらいやな。」
言われてみればそうか。この世界ではこのようなものを欲しがる一般市民はあまりいないだろう。
僕が落胆していると、ラックさんは豪快に笑う。
「心配せんでも、数は少ないが、うちの商店でも取り扱ってるで。時々流れのテイマーがやってくるんでな。魔道具屋に置いているんやが、探してないやろ。」
確かに魔道具屋は探していなかった。
前世の記憶をもとに探したので雑貨屋を探していた。まさか魔道具屋にあるとは夢にも思わなかった。
こうして僕はラックさんに連れられて、魔道具屋に行くことになった。
◇
ラックさんに案内された店は街の中心部から少し離れ場所にあった。
かなり個性的な外見のお店だ。
魔道具屋「スカルナイト」と書かれた看板が掛かっており、その横には髑髏だのコウモリだの怪しさ満点の装飾が施されている。
まるで黒魔術の店のような雰囲気で初見で入るには勇気のいるお店だった。
「ラックさん。この店ですか?」
「そうや、ちょっと・・・いや、かなり変わった外見な店やけどな」
どうやらラックさんにも自覚はあるようだ。
僕が入るのにしり込みしていると、ラックさんはまるで気にも留めていない感じで僕を手招きすると中に入っていく。
「いらっしゃいま・・・オーナー?今日はどうされたんですか?」
店員は入ってくるなり目を丸くする。
いきなりラックさんが訪れたため何事かと思ったのだろう。
「そんな緊張せんでいいって。今日は客を連れてきただけや。」
「お客様ですか?」
「そうや」
「その方はどこにいるんですか?」
「どこにって・・・。少年、何で後ろに隠れとるんや?」
そう、僕はラックさんに重なるようにしてお店に入っていた。そのため、店員は僕の存在に気づかなかったのだ。
決して、ビビって隠れていたわけではない。
それにしても、中は普通だった。外装からは想像もできないほど普通だ。
話を聞くと、この店の装飾はオープンするときに任命した店長の趣味がかなり入っているらしい。
かなり個性的な人だったらしいが、魔道具に関する知識はかなりのもので瞬く間に繁盛店にのし上げたそうだ。
現在、その店長は新商品を探しに行くと行って1年ほど店を留守にしているそうだ。
そして現在、2代目店長が店をやりくりしているそうだ。
この人は普通の感性の人の為、店の内飾をやり替えたそうだ。外装に関しては呪われているのかリフォースすることが出来なかったそうだ。
それにしても、1年帰って来ないって・・・死んでいませんか?
「おほん、それでお客様はどのようなものをお探しでしょうか?」
「あのですね・・・」
僕は欲しいものの詳細を店員に説明する。
店員は「少々お待ちください」といって、店の奥から一つの商品を持ってくる。
見た目的にはどうということはないものだったが、流石は魔道具と言ったところだろうか、付与されている能力は目を見張るものだった。
「買います。」
僕は商品の説明を受けた瞬間、これは良いものだと確信した。
すぐさま購入の意思を伝えていた。
ラックさんは「毎度ありがとうございます」と言って頭を下げるが、店員の方は目を白黒させている。
「あ、あの、本当にご購入されるんですか?」
「はい」
「その商品、テイマー専用の魔道具なのでかなり値が張るんですが・・・」
そういえば、値段を聞いていなかった。
店員がそこまで言うのだ。かなりの価格なのだろう。
ドキドキしながら待っていると、店員は指をスッと3本出す。
「3000000ゴールドですか!?」
驚きのあまり僕はついつい叫んでいた。
これが3000000ゴールドもするのか。流石、魔道具だ。
などと考えていると、店員が慌てて訂正してくる。
「ち、違います」
「えっ、30000000ゴールド!?」
「逆です。300000ゴールドです。なんでそんなに高いと思うんですか。」
僕らのやり取りを横で見ていたラックさんが爆笑をする。
なにか可笑しかったかな?
「少年、刀を即決で買った時も思ったんやが、金銭感覚がかなりずれてるな。」
「そ、そうですか?」
「普通、12の少年が200000ゴールドの武器を即決で買うことはまずないで。まして、ホーリーカウの皮鎧は1300000ゴールドやたんやろ。そんなのをポンと買えるのは貴族くらいだけや。」」
・・・言われてみるとそうかもしれない。
前世では月のお小遣いは2000円だった。1000000円とか夢の金額だったはずだ。
どこでこうなった?
そっか。キラータイガーが2500000ゴールドで売れたからだ。あそこから僕の金銭感覚が狂ったんだ。
って、それってこの世界に来てすぐじゃん。
・・・まあいっか。ソラのお陰でお金には困ることはなさそうだし、今回の買い物はソラのためだ。
金銭感覚についてはそのうち治していこう。
「それで、どうするんや?当然買うんやろ。」
「はい、いただきます。」
「毎度ー。ソラ君を可愛がってやりーな」
「はい」
目的の物を手に入れた僕はラックさんにお礼を言うと宿に向かって駆けだした。
ソラの喜ぶ姿が目に浮かぶようだ。
◇
宿に帰りつくと、ソラは部屋の隅でぐっすり眠っていた。
僕の顔を見ると、慌てて起き上がると嬉しそうに駆け寄ってきて、僕に甘える。
結構時間が掛かったので、ソラも寂しかったのかもしれない。
お店によっては従魔禁止の場所もあるため、宿に残して買い物に行ったのだが悪いことをした。
「ソラ、待たせてごめんね。ソラの為にいいものを買ってきたんだ。」
そういうと、「何々?」と言った顔で僕の方をじっと見てくる。
僕はスカルナイトで買った魔道具を取り出す。
ソラのために購入したのは一本のトリミング用ブラシだった。
最近、ソラのお手入れがしっかりできていないことに気がついたため、今朝から急遽さがしていたのだった。
時々、外で水洗いはしていたのだが、限界がきていたのだ。
少しずつ毛が縺れてきて、臭いも立ち始めていたのだ。
僕はブラシで丁寧にソラの縺れた毛を梳いていく。
始めは痛がって、少し嫌がる素振りを見せていたのだが、しばらくすると、気持ちよさそうに目を細めるともっとしてくれとばかりに体を摺り寄せてきた。
ちなみに、鑑定さんで詳しく調べたブラシの性能はこうだ。
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魔法のトリミングブラシ
トリミング用に作られたブラシ。
ブラシのピンはミスリル製、持ち手の部分は宝樹の枝が使われている。
癒し効果(中)
消臭効果(大)
毛のツヤ出し(中)
ソラにはお世話になってんだから、毎日ブラッシングするように
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うん、凄い効果だ。
そして鑑定さんに言われるまでもなく、毎日ブラッシングはするつもりだ。
何しろ、ソラはこの世界でただ一人の家族なのだから。




