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僕、チート能力がないんですが  作者: 佐神大地
異世界でマイホーム
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気がついたら奇跡の薬草採取人と呼ばれるようになった



次の日の朝、僕は気持ちよい朝日に照らされて目を覚ました。少しヒンヤリした空気が僕の意識をしっかり覚醒させる。

ウィーネにご馳走になった後、泊まることになったのだが、精霊であるウィーネは家に住んでいなかった。

そのため、草の布団の上に、毛布に包まって寝ることになった。

草の布団は思った以上にフカフカだった。そのため、僕はぐっすり眠る事ができた。


「おはよう、ソラ」


僕は起き上がるとソラに朝の挨拶をする。

ソラも僕の横までやってくると元気よく一声「ワン」と鳴く。朝の挨拶だ。


「リーン、起きたの?」


ソラの声が聞こえたのかウィーネがやって来た。


「おはよう、ウィーネ」

「おはよう。よく眠れたみたいね。」

「うん、草の布団は気持ちよかったよ」

「そう、良かったわ。」

「それじゃあ、僕、そろそろ帰るね。」


僕がそういうとウィーネの表情が曇る。とても寂しそうだ。

ここにいる間、ウィーネ以外誰とも会っていない。

おそらくここでずっと一人で暮らしているんだろう。

僕と一晩過ごしたことで、人と触れ合う楽しみを思い出したのかもしれない。

気持ち的にはもう少しここにいてあげたいのだが、宿屋の女将さんには昨日帰ると伝えていたので、流石に今日帰らない訳にはいかない。心配しているはずだ。


「ウィーネ、また遊びに来ても良い?」


僕の言葉にウィーネの表情がパッと明るくなる。

やっぱり寂しかったようだ。


「もちろん歓迎よ。・・・でも、他の人は連れて来ないでね。後、ここのことは秘密にしておいてね」

「わかった。それじゃあ、またね。」


こうして僕は聖域を後にした。





冒険者ギルドについたのは昼過ぎになっていた。

僕の顔を見たエルルさんが手を振ってくる。


「リーン君、無事だったのね。エレンが心配していたわよ。」

「ちょっと頑張って薬草を採取していたら、遅くなったんで、仕方なく山で一晩過ごしたんです。」


ウィーネのことを喋れないので、僕は仕方なく嘘をつくことにした。

ちょっと心苦しいが仕方がない。


「へえ、そんなに頑張ったんだ。どれぐらい集まったの?10分の1ぐらい?」

「10分の1?」


なんだかエルルさんが不思議なことを言う。

10分の1ってどういう意味?


とりあえず、僕はソラが食べていた薬草を少しずつ出していく。

最初、涼しい顔で受け取っていたエルルさんだったが、だんだんと慌てふためいてくる。

ちょうど、半分ぐらいを出し終えたところで、遂には我慢できなかったのかエルルさんが声を上げる。


「ちょっと、リーン君。一日でどれだけ採取してきたの!?」

「えっ?どれだけって依頼の本数ちょうどですよ。」

「えっ!?」

「だから、アセロラ草1000本、万能茸500本、霊草200本です。」

「ええーーー!?」


僕の言葉にエルルさんは驚きのあまり絶叫していた。





「失礼しました」


エルルさんは顔を真っ赤にして謝っていた。

ギルド中に絶叫が木霊したため、非常事態だと勘違いしたギルドマスターのリカルドさんが大慌てで駆けつけるという騒動にまで発展していた。

誤解はすぐに解け、騒動はすぐに沈静化したのだが、僕に新たな称号が加わることになった。


『奇跡の薬草採取人』


昨日受けたこの依頼、2ヶ月ほどかけて遂行する依頼だったようだ。確かに期限が来月末とある。

しかも、依頼数は目安で律儀にこの数を治める必要もなかったらしい。

・・・・・・いくら思い返しても、そのような説明を受けた記憶はないのだが、エルルさんは説明したと言い張っている。

まあ、そういう訳で、そのような依頼をたった1日で達成した僕は新たな称号を付与されることになったわけだ。

奇跡の薬草採取人、何とも中二病まるだしの称号だが、神様が実際にいるこの世界では普通にありなのかもしれない。

実際、教えられた薬草の群生地を全て周ってもこの数を採取するのは不可能らしく、例年は良くて半数を確保できれば御の字だったそうだ。

最も実際に僕のステータス画面には奇跡の薬草採取人という称号はない。

どうやらステータスには人が付けた称号は載らないようだ。

代わりに一つ新しい称号が一つ追加されていた。


--------------------

名前 リーン

種族 人間

年齢 12

職業 なし


スキル 

異世界言語翻訳

鑑定


称号・その他

転生者

ドライアドの友


ランク C

職業 犬使い

従魔 ソラ(スコティッシュテリア)

--------------------


ドライアドの友。

何とも普通の名前の称号だった。

さて、お待ちかねのその効果は


--------------------

ドライアドの友


樹の上位精霊ドライアドからの信頼を得られた者に与えられる称号


残念でしたー。この称号に能力アップの効果などは一切ありませーん。

--------------------


・・・なんだか、鑑定さんの憎まれ口は久しぶりの気がする。


「それにしてもリーン君。どうやってこんなにたくさんの薬草を採取できたんですか?もしかして、新しい群生地を発見したんですか?」


エルルさんが目をキラキラさせて聞いてくる。

ウィーネとの約束もあるので話すことはできない。仕方なしに僕は嘘をつく。


「えっと、努力?」

「何で疑問符なんですか。それにどう考えても努力じゃ無理でしょう。今発見されている群生地を3巡しても無理な量を1日で取って来たんですよ。」

「えーと。ソラに乗って延々と彷徨いながら採取していたんで・・・、ソラの脚力が流石というしか・・・。」


言っている自分でも無理なことを言っているのが分かるが、ウィーネとの約束を守るためにはしかたない。ここはソラのチート能力を前面に押し出して乗り切ろう。

・・・どうか『詐欺師』とかの称号が付きませんように。


「・・・そっか。ソラ君の能力か。すごいわね。たぶん、一日で山中を巡ったのよ。もしかしたら、山の裏側にも行ったのかもしれないわね。」

「山の裏側?」

「リーン君。私、言ったわよね。山の裏側は未踏破地域だから、行かないように、って」


うーん、言われてみるとそのようなことを言っていた気がする。

あの時は教えられた群生地を周ろうとしか思っていなかったのでスルーしていたが、確かにそんなことを言っていた気がする。


「あの、未踏破地域ってのはなんですか?」

「ああ、それはね、人によって確認されていない区域のことよ。」

「確認されていない?」

「ええ、世界には人が踏み入っていない地域が多数存在するの。人里離れた辺鄙な場所であったり、強力なモンスターのテリトリーだったりする場合がほとんどなんだけど、知らないで入っちゃうと危ないから一般人は立ち入り禁止なの。行くには資格がいるわ。」


・・・あれ?それだと、僕は犯罪者になっちゃうのかな。


「ちなみに、南の山の裏側は危険度が低いと考えられているから冒険者ならランクC以上でないと立ち入り禁止になっているわ。だから、リーン君はぎりぎりOKだから安心して。もっとも、今までに山の南側に侵入できた人はいないんだけどね。」

「入った人がいない?」

「そうよ。結界か何が張られているみたいで、誰も山の南側に近づけないの。もちろん、高ランクの冒険者とかなら結界の中に入れるかもしれないけど、今のところ害が出てないから調査されていないだけってのが実情ね。どう、中で何か見なかった?」


・・・見ました。バリバリ見ました。というか聖域の主と仲が良くなって一晩泊めさせてもらいました。

額から汗が流れ落ちる。どう誤魔化そう。


「うーん、大量の薬草ですかね。」

「やっぱり、新しい群生地かな?それなら冒険者を募って探索したほうがいいよね。」


やばい、話がおかしくなった。

どうしよう・・・。


「あのー。止めた方がいいですよ。」

「どうして?」

「えっとー・・・。普通の人は行くのが無理だからです。」

「大丈夫、高ランクの人を呼ぶから。」

「でも、ソラでやっとでしたよ。」

「大丈夫よ。冒険者の身体能力も大したものよ。」

「・・・ソラの身体能力ならここから領主様の屋敷の屋根まで1分かからず跳んでいきますよ」

「・・・ほんとに!?そのレベルの動きが必要ならちょっとキツイかな。探せばいないことはないけど、費用をそこまで掛けて、薬草だけだったら私の首が飛ぶものね。ちょっと待っててね。すぐに依頼品受領の手続きをするから。」


エルルさんはふうッとため息を付くとものすごいスピードで処理をしていく。

しばらくすると、エルルさんが困ったような表情でこちらを見てくる。


「リーン君、ごめんね。流石にこの量だと確認するのに時間がかかるの。もしよかったら、依頼料は少しあとになってもいいかな?」

「はい、構いませんよ。」

「よかった。2~3日の内に終わらせるから待っててね。」

「わかりました。」


こうして、依頼を受けた時は無理ゲーだと思われた依頼もたった一日で完了することができた。






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