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僕、チート能力がないんですが  作者: 佐神大地
異世界でマイホーム
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樹の精霊ドライアド



「ちょっと待って。ソラは魔獣じゃないよ」


僕は慌てて抗議する。

何だかソラを悪く言われているような気がして腹が立ってきたからだ。

少女の方も強く言い返されて、少しイラッときたようだ。


「どう見ても魔獣でしょう。それ以外に何だって言うの」

「ソラは普通の犬だよ。」

「何処が普通の犬なの。魔力が体から漏れ出している時点で魔獣でしょう。だいたい何なの、その馬鹿でかい魔力は」


・・・魔力!?

ソラから魔力が漏れ出している?

僕は呆気にとられてソラを見る。

ソラは僕たちの言い争いを無視して陽の当たる草地で気持ち良さそうに眠っていた。

僕が如何に目を凝らして見てもソラから魔力が漏れ出しているのは見えない。


「なによ、鳩が豆鉄砲をくらったような顔をしてるの。」

「いや、あの、その」


僕はなんと言ったら良いのかわからなくなっていた。

いきなりテンションの下がった僕に少女は面食らっていた。


「何なのよ、一体。動物が魔力を持っている時点で魔獣か何かでしょう。」


少女のトーンがかなり落ちてきた。どうやら少女の方も落ち着いてきたようだ。

ただし、僕とソラへの警戒心は全く解けていない。絶えず、僕やソラの挙動を気にしている感じがある。


「ねえ、ソラから魔力があふれ出てるって本当なの?」

「へっ?」


僕の質問に少女は唖然とするのだった。





「つまり、あなたとソラは転生してこの世界に来たってことね。」


少女は僕たちをマジマジと凝視する。

・・・何だろう。全身を見透かされている気がする。


「ねえ、ソラは分かるけど、リーンは本当に転生してきたの?普通、転生者にはものすごい能力が与えられるはずなんだけど、あなたは持ってないわよね。」

「はい、神様は転生前にくれるって言っていたんだけど、こっちの世界に来て調べてみたら、なかったんだ。」

「かわいそうに。騙されたみたいね。まあ、その分、ソラは強力な能力をたくさんもらっているみたいだけどね」


少女は笑いながら僕の肩を叩く。

それにしても、この少女、一体何者だろうか。

鑑定スキルを使っているわけではなさそうだが、えらく、僕やソラの能力を当ててくる。

いや、当てるというのは違うか。すべてを見透かしている感じではない。

どちらかというと、何となく感じ取っているといったところだろうか?


「ああ、私のことが気になるみたいね。私は木の精霊ドライアドのウィーネよ。鑑定スキルをもっているなら確認してもいいわよ。」

「僕が鑑定スキルを持っていることを知ってるの?」

「いいえ、ただ、これまでにあった転生者のほとんどが持っていたから、あなたも持ってるんだと思っただけよ」


そういうと、ウィーネはにっこり笑い、すぐに鑑定するように催促する。


--------------------

名前 ウィーネ

種族 ドライアド

年齢 1258


スキル 

樹木魔法

観察



称号・その他

森の守護者

植物マスター

--------------------


「1258歳!?」


僕は驚いて声を上げる。

ウィーネは僕の反応を見てゲラゲラと笑い出した。


「うん。鑑定のスキルはちゃんと持ってるみたいだね。それにしても、転生者はいつも私の年齢に驚くわね。。」

「だって、1258歳だよ」

「・・・私はドライアド、樹の上位精霊なの。樹の精霊は少なくとも樹齢300年以上に成長した神木と呼ばれる樹から進化して樹の下位精霊になるの。そこから長い年月をかけて上位精霊であるドライアドに変化するの。つまり、種族がドライアドなら年齢は数百歳を超えているのは当たり前なの。」


ウィーネは胸を張って自慢げに説明するが僕はピンときていなかった。


「観察ってスキルが私にあったでしょう。それで君のことがなんとなくわかったの」

「ふーん。便利なスキルだね。」

「便利?どう考えても鑑定の方が便利でしょう。」

「そっか」


僕が笑うとウィーネも笑顔を返してきた。

その笑顔に僕は不覚にもドキッとしてしまった。

ウィーネの見た目は身長130ぐらいの小柄な女の子だ。

緑色の髪を肩の下あたりで揃えて切っている。

小さな妹と言った感じだが、時たま見える大人びた表情や仕草にはグッとくるものがある。


「何、私に惚れたの?100年早いわよ。」


僕の反応に気づいたのかウィーネがニタニタ笑いながらからかってくる。

僕は顔を真っ赤にして首をブンブン横に振って抵抗する他なかった。





「で、何を採取しに来たの?気に入ったから、今回は特別に分けてあげるわ。ここは私の管理する聖域だから人間が使う材料は大抵揃ってるから言ってみて」

「えっと・・・」


僕は依頼内容を伝える。

ウィーネはすべてを聞き終えると、スッと地面の中に潜っていった。

そしてしばらくすると、また地面からニョキっと姿を現した。


「アセロラ草1000本と万能茸500本と霊草200本ね。一応全部用意したけど・・・、リーン、持てるの?」

「うん、ソラのスキルがあるから大丈夫。」


ウィーネが持ってきた大量の依頼品をソラがぺろりと平らげると今度はウィーネが驚きの声を上げた。


「す、すごいのね。もしかして、ここを見つけたのはリーンじゃなくてソラ?」

「よくわかったね。」

「でしょうね。リーン、普通の人間はこの場所に来ることが出来ないのよ。もしかして、ソラって神様の加護を持ってるんじゃないの?」

「神様の加護?・・・あっ、そういえば、犬神の眷属って称号があったよ。」

「それでなのね。リーン、ソラは魔獣じゃなくて神獣よ。大事にしてあげてね」


なんだかウィーネからとんでもない言葉が出てきた。

神獣。何とも中二心をくすぐる単語だ。

聞いただけでもワクワクしてくる。

ウィーネには「何興奮してるのよ」と馬鹿にされたが、こればっかりはしかたがない。これは男の性だ。


「それでどうする。今日は泊っていく?」

「えっ?」

「もう夕方よ。あなた達人間には夜の森は危険でしょう?・・・まあ、ソラがいれば大丈夫かもしれないけど」


すでに空は赤みが掛かってきていた。夕方だ。いつの間にこんなに時間が経ったのだろうか?

ソラはすでに休憩モードに入っている。


「ウィーネ、それじゃあ、お言葉に甘えて、泊まらせてもらうよ。」

「そう、それじゃあ、夕飯の準備をするわね」


ウィーネは嬉しそうに笑うと機嫌よさそうに駆けて行った。





30分後、僕の目の前にはたくさんのご馳走が用意されていた。

どこから用意されたのか、肉料理、魚料理、サラダ、パン、スープそしてデザートまでもがあった。

その量はどう見ても二人分には見えなかった。ソラの分も含まれていると考えても多すぎる量だった。



「さあどうぞ、召し上がれ。遠慮しなくていいわよ。」


ウィーネはニコニコしながら僕が食べ始めるのを待っている。

僕が一番手前にあった肉料理に手を伸ばす。

お肉はおそらく鶏肉だとおもうのだが、一緒に使われている野菜の中には見たこともないものもいくつかあった。

僕は恐る恐る口に料理を運ぶ。



モグモグ


モグモグ


ごっくん


あっさりとした味付けで野菜の味がはっきりと感じられる一品だった。


「おいしい!?」


思わず口から言葉が零れ落ちる。

それを聞いたウィーネがとても可愛らしい笑顔になる。


「良かった。人間の食べる料理を作ったのって300年ぶりぐらいだから、美味しくできてて良かったわ。さあ、どんどん食べて。」

「ウィーネは食べないの?」

「私は樹の精霊だから、人間みたいに食べ物を食べる必要がないわよ。これ全部、リーンの為に作ったのよ。」

「僕一人!?」


ソラは向こうで美味しそうにお肉にかぶりついていた。援軍は望めそうにない。


「ウィーネ。有難いけど、僕一人じゃ食べきれないよ?」

「そうなの?前に会った冒険者は一人でこれくらい食べていたんだけど・・・。」

「この量を一人で!?」

「そうよ。ラインバッハっていったかしら。すごい冒険者だったわよ。確か、ランクSSとかいっていたかな。私がちょうどドライアドになったばかりの時に出会ってね、しばらくの間、一緒に冒険をしたの。」

「す、すごい人だね。(こんなに食べれるんだ)」

「ええ、彼、すごかったわよ。(なにしろランクSSだものね)」

「ところで、この料理どうしよう。僕だけじゃ食べきれないよ」

「じゃあ、私も食べるわ」

「食べれるの?」

「ええ、食べる必要がないだけで、食べることはできるわよ。もちろん、味とかもわかるわよ」


そう言うと、ウィーネは近くにあった料理を食べ始める。


「うん、おいしい。流石、私。」


ウィーネはどんどん料理を食べていく。

というか、食べるスピード早くないですか?

僕も慌てて料理に手を伸ばす。

うん、とっても美味しい。

こうしてウィーネとの楽しい夕食会は過ぎていくのだった。






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