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僕、チート能力がないんですが  作者: 佐神大地
異世界に転生しました
33/67

その後



ライカーさんに確認したところ、ソラは連れて行ってもよいとのことだった。

いや、どちらかと言うとソラは必ず連れて行くように、といった感じのニュアンスだった。

僕はソラを抱きかかえると用意されていた馬車に乗り込み領主の館に向かうことになった。

ソラはお腹が空いてきたのか、「僕にご飯はまだ?」とちょっかいを掛けてくる。


「ソラ、もう少し待っててね。領主の館についたらご馳走があるらしいから」


僕がそう言うとソラは尻尾をパタパタ振って喜ぶ。

うん、かわいい。

ライカーさんは僕たちの言動をジッと眺めている。

・・・なんだろう?

その後、馬車は何事もなく領主の館に着くのだった。





領主の館に着くとアルベルトが慌ててやってきた。


「おい、リーン。どういうことなんだ?お前、一体何をしたんだ?」


かなり慌てているが、何かあったのだろうか?

アルベルトは僕の胸倉を掴むと体を揺すって返答を催促する。

僕は激しく体を揺すすられて、気持ち悪くなる。


「ア、アルベルト。止めて」


僕は必死に言葉を発するが興奮したアルベルトには届いていないようだ。

このままでは吐くかもしれない。


「アルベルト様、落ち着いてください。このままではリーン様がまいってしまいますよ。」


突然、アルベルトの後ろから現れたセバスさんがアルベルトの頭を叩いて止めてくれる。

アルベルトは頭を抱えて座り込むと、痛みに耐えている。


「セバス、もっと優しく止めてくれよ。」

「アルベルト様。私が止めないと大変なことになっていたかもしれませんよ」


セバスさんはソラを警戒しながら見ている。。

ソラはアルベルトを威嚇するように小さく唸っていた。

それを見たアルベルトが青ざめる。

慌てて僕とソラから離れると両手を上げて、無害であることをアピールする。


「スマン、セバス。助かった。」

「アルベルト様、謝る相手が違うのではないですか?」


セバスさんは冷めた顔でそう言うと、アルベルトは僕の方に向き直ると申し訳なさそうな顔で謝ってきた。

僕が許すとソラは何事もなかったかのように警戒態勢を解く。


「王子もお待ちかねと思いますので、皆さま、そろそろ食堂の方に行きましょうか。その件に付きましては、食後に王子からお話があると思いますのでその時にお願いします。」


突然、背後からライカーさんが話しかけてきた。

何やら面倒なことが起こるのではないかと疑いつつも、僕は王子の待つ食堂に向かうのだった。





食堂には王子とモーガン様がすでに席についていた。

席は5つ用意されていて、お誕生日席、いやこの場合は上座というのかな、に王子が座っていた。

そして、その右斜め前の席にモーガン様が座っている。

アルベルトは当然のようにモーガン様の隣の席に着く。

残る席は二つ。

王子の左斜め前の席、すなわちモーガン様の正面の席と、その一つ隣の席だ。

確か、上座に近い席のほうが地位が高い人が座るんだよね。

僕が一番末席に座ろうとすると、セバスさんがそれを制し、モーガン様の正面の席に案内してくれた。

そして、末席にはライカーさんが座る。

セバスさんは何事もなかったかのように扉近くの壁際で控えている。

そして、ソラは・・・・・・僕たちが座ったテーブルとは別の馬車にソラ専用の席?が用意されていた。


「リーン。わざわざ来てくれてありがとうなんだな。ちょっと頼みたいことがあるんだが、まずは食事を楽しんでくれなんだな」


王子がそう言うと、食事の準備が行われる。

どこからともなく現れた給仕たちがフォークやナイフを並べていく。

これはもしかして、おフランス料理のフルコースでしょうか!?

前世では高級レストランに食べに行った記憶はない。

もちろん、マナーなど全く分からない。

給仕が王子のグラスにワイン?を注いでいる。

モーガン様のグラスにも注がれる。

そして僕の所にやってくる。


「リーン様。お飲み物は何になさいましょうか?」

「え、あ、う・・・」


僕は緊張して何とも言えない返事をしてしまう。

すると、セバスさんが後ろからそっと現れ、給仕さんに耳打ちをする。


「こちらはライム水となります。」


給仕の人はそういうと、アルベルトの席の方に歩いていく。


助かった。


セバスさんはいつの間にか元の位置まで戻っている。

僕と目が合うと一瞬にっこり微笑むがすぐにいつもの真面目な表情に戻る。

全員に飲み物がいきわたると王子が乾杯の音頭をとった。

その後、何やら料理が出てきていたのだが、はっきり言って、全く記憶にない。

気がついたら、食事が終わっていた。





食事が終わった後、そのまま食堂で話し合いとなった。

モーガン様とアルベルトは何とも気まずそうな表情だ。

ライカーさんは全く変わらない表情だ。


「それじゃあ、本題に入るんだな。リーン、僕の配下にならないか?」

「え、いやです。」


僕は即座に断る。

王子の配下なんて絶対に面倒に決まっている。

モーガン様とアルベルトの顔色が真っ青になっている。

あっ!

もしかして、断ったらまずかったのかな?

これってもしかして不敬罪!?


「あははははっ。報告通りなんだな。それじゃあ、時々でもいいから手を貸してほしいんだな。」


アリオン王子は気にしていないようだ。

モーガン様とアルベルトが安堵の表情をする。


「時々ですか?」

「そうなんだな。僕はリーンが気に入ったんだな。」

「まあ、時々なら」

「これから宜しくなんだな、リーン。・・・よし。今日から其方は僕の友なんだな。」


アリオン王子はにこやかにほほ笑むとそう宣言した。

ん?友!?


「ちょっと待っ・・・」

「お待ちください、アリオン様。配下というならまだしも友というのはなりませぬ。」


僕の抗議を遮るようにライカーさんが声を上げる。

モーガン様たちも慌てふためいている。


「構わないんだな。僕が決めたことなんだな。それとも何か問題でもあるのかな?」

「もちろんあります。王子の身の安全の確保が私の役目です。安全上、認めるわけにはいけません」

「つまり、リーンが暗殺者であるといいたいんだな」

「・・・リーン様が暗殺者である可能性は低いと考えられます。しかし、リーン様の従魔、ソラ様に関しては別です」

「ちょっと待って。ソラが暗殺者ってこと」


僕としてはソラに容疑が向けられる方が納得がいかなかった。

あんなにかわいい犬なのに。


「いえ、ソラ様が王子を襲うとは考えてはおりません。しかし、常識外れの力を持っているのは間違いありません。何らかの予測不能な事態があった時に、その力が王子に向かうともかぎりません。」


うん。そういわれると、反論のしようがない。

完璧な反論だと思われたが、王子は全然動じていなかった。


「それについては心配いらないんだな。」

「なぜです」

「仮に、ソラが暴走したならどのみち僕は領主として討伐に行かねばならないんだな。それなら、どちらでも一緒なんだな。」


ん、領主?

王子なのに領主?


「ん?リーン。どうしたんだな?・・・ああ、言っていなかったんだな。僕は今日からこの街の領主になったんだな。だから、ライカーと一緒にこの街にやって来たんだな。ただ、部下があまりいないんで、こうして人材を確保しているんだな。」

「そ、そうなんですか」


ん?ということは、僕は人材として確保されたってことなのか!?


「心配しなくてもいいんだな。僕はリーンを人材とは思っていないんだな。本当に友達になりたいと思ってるんだな。」

「はあ」


なんだか心を読まれている気がするのは気のせいだろうか。

結局、ライカーさんは押し切られて、僕はアリオン王子の友達になることになった。





あれから1ヶ月が過ぎた。

アリオンはプッサンの街で頑張っているようだ。

そうそう、アリオンに「友達なんだから敬称はなし」と言われて、今は呼び捨てで呼ぶことになった。

そして僕はテムジンに戻って、冒険者稼業を満喫している。

えっ?プッサンに居なくていいのかだって?

いやだよ。あの街にいると英雄で王子のお友達だよ。

全然気が休まらない。

アリオンはプッサンに移住してくれと泣きついてきたが、こればっかりは譲れなかった。


バラックさんはプッサンの街で新ギルドマスターとして頑張っている。

余所者ということもあり、揉めるかもと心配されたが、その心配はいらなかったようだ。

バラックさんがオークとの戦いで活躍したのもあるが、フローラさんが常に横にいて、サポートをしているのも大きい様だ。

「もうすぐゴールインするのでは?」という噂まで立っている。

それにしても、バラックさん・・・独身だったんだ。




「ソラ、ギルドに行くよ」


僕は元気よく宿を出ると、ギルドに向かう。

ギルドは大盛況だ。

あのオークの事件後、テムジンの冒険者ギルドには新しい冒険者が増えた。

それも筋肉ムキムキの冒険者ばかりがだ。

リカルドさんがオークキングを討伐したとの情報が国中に伝わると、彼を慕う冒険者たちが大勢やってきたためだ。

「筋肉こそ正義」という言葉がギルドのいたるところで聞こえる。

ちょっと気味が悪いがこれは我慢するしかない。

何しろソラがいつの間にか倒していたオークジェネラル2体もリカルドさんが倒したことにしてもらっているからだ。


エルルさんが僕を見つけると手を振って呼び掛けてくる。


「リーン君、ソラ君、おはよう。今日もいつも通りの依頼?」

「はい、よろしくお願いします」

「二人なら大丈夫だと思うけど、気をつけて行ってきてね。」


こうして、僕はエルルさんに見送られて冒険に出かけるのだった。






これで第1章が終わります。

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