迷子の商人
チート能力を貰ったソラと出会えたため、身の安全は確保できた。
あれだけの能力を持っていたら、少々の敵に遅れを取ることはないだろう。
残る問題はこの森から出ることだ。
「そうだ。探知(極)で人を探せる?」
ソラは一声わんと小さく鳴く。
まるで「できる」と言っているかのようだ。
突然、ソラが耳をピクッと動かす。
何かを見つけたようだ。
ソラは勢いよく駆けていく。
元々すばしっこい上に、チート能力で身体強化されている
僕が追いて行くのは不可能に近い。
時々ソラが後ろを振り返って待ってくれなければ、ソラを見失っていただろう。
「ぜーはー、ぜーはー。ソラ、まだ着かないの?」
すでに30分ほど移動している。
未だに人には出会わあい。
ゴブリンには5度ほどであっているんだが・・・。
「ソラ、本当にこっちであってんの?」
ソラは自信満々に頷く。
「後、どのくらいなの?近いの?」
僕の質問にソラは少し考えてから頷いた。
良かった。近いみたいだ。
それからさらに10分後、ゴブリンとの遭遇を1回遭遇したのちにやっと人と遭遇することができた。
全然近くなかった。
◇
この世界で初めて会った人はゴブリン2匹に襲われていた。
30過ぎのおっさんだった。
恰幅の良い体格で一応、腰に剣を装備しているのだが、手に持ちもせず、ゴブリン達から逃げ回っている。
僕に気づいたおっさんは僕に向かって全力疾走で走って来た。
「ひぃー。助けてくれー」
そういうと、僕の後ろに隠れてしまう。
子供の後ろに隠れるおっさんって一体・・・。
ゴブリン達はニタニタ笑いながら迫ってくる。
何度目の光景だろうか。
さすがにもう慣れた。
ソラが何も言わずに2匹を処理する。
おっさんはその光景を唖然として見ていた。
「いやー、少年。助かったよ。」
おっさんはガシガシ俺の肩を叩いてくる。
痛い。
俺が顔をしかめると、ソラがそれに気づいたのかおっさんに威嚇をする。
おっさんは慌てて俺とソラから離れると自己紹介を始める。
「自分、ラックっていうんや。商人や。少年は?」
「僕はリーンです。この子はソラです。」
「ふーん。リーン君とソラ君か。よろしくな。それにしても少年、テイマーなんやな。」
「テイマー?違いますけど。」
俺のステータスには職業はなしとなっている。
テイマーじゃないな。
「テイマーじゃない?でも、ソラ君は従魔なんやないんか?」
「はい、ソラは従魔ですけど?」
「なら、自分テイマーやないか」
「いえ、違いますって」
なんか話がかみ合わなかった。
よく話を聞くと、テイマーのテイムってスキルを使わないとモンスターを従魔にすることはできないそうだ。
だからラックさんは従魔がいるからテイマーだと思ったらしい。
でも、僕の職業欄はなしだし、テイムってスキルもないんだよな。
「まあ、いっか。それで少年、こんなところで何をしてるんや?」
「えっと・・・街を探しています」
流石にここに転生してきましたとは言いずらかった。
この世界が転生者に寛容かどうかは分からないからだ。
「そっか、迷子か。自分と一緒やな。」
「迷子じゃない・・・自分と一緒?」
「ああ、自分も迷子でな。この森をかれこれ1週間ほど彷徨っとるんや」
せっかく会えた人も絶賛迷子中だった。
「まあ、ここで出会ったのも何かの縁や。いっしょに街を探そうか」
こうして僕はラックさんと行動を共にすることにした。
◇
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名前 ラック
種族 人
年齢 35
職業 商人
スキル
称号・その他
商神の加護
迷子の達人
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こっそり鑑定さんでラックさんを調べた結果がこれだ。
本人の言う通り、ラックさんは商人のようだ。
気になるのは称号・その他の欄にある二つだ。
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商神の加護
商売のチャンスに恵まれやすくなる
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迷子の達人
今までに100回以上迷子になったものに与えられる称号
迷子中に良いことがよく起こる
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100回以上の迷子って・・・。
ラックさんは思っていた以上に変わった人の様だ。
ただ、ラックさんとの出会いはとても幸運だった。
街まではまだかなりの距離があるらしく、一日で行ける距離ではないそうだ。
食料などを一切持っていなかったので、ラックさんに会わなければ飢え死にするところだった。
また、ラックさんには異世界についていろいろと教わることができた。
その一つが魔石についてだ。
いきなりラックさんがゴブリンの死体をあさりだした時にはびっくりした。
魔石は売るとお金になるそうだ。
ゲームやラノベといっしょだ。
ただ、結構グロかったので、できれば自分でするのは御免こうむりたい。
今回はラックさんがやってくれたが、次回からは自分でしないといけないのだろうか?
◇
街についたのはそれから1週間後だった。
ラックさんが地図を逆さに見ているに気づかなかったら、もう少し時間が掛かっただろう。
その間に、ゴブリン、ウルフ、ホーンラビットなどのモンスターと遭遇したが、ソラの敵ではなかった。
僕とラックさんはもちろん一切戦っていない。
魔石は始めはラックさんが採っていたが、途中からお願いして取り方を教えてもらい、僕が採ることにした
いつまでも頼るわけにはいかない。
モンスターの一部は素材になるらしくウルフ、ホーンラビットは解体の仕方も学んだ。
ラックさんはよく旅をするらしく、この手の知識は豊富だったようだ。
最も、ゴブリンに逃げまどっていたラックさんがどれだけモンスターを退治してきたかはわからないが・・・。
他にも街に着いたら冒険者になることを勧められた。
この世界にも冒険者という職はあるようだ。
「いやー、リーン君のおかげでいつもより早く街に着くことができたわ。助かったわ。」
ラックさんはそういってとても感謝してくれた。
身分証を持っていない僕とソラが街に入るための税金もラックさんが払ってくれた。
「心配せんでいいて、護衛料や。その代わり、なんか買うときはうちの店で買ってな。後、これも君のもんや」
そういって、ラックさんは道中に倒したモンスターの魔石と素材が入ったカバンと解体に使ったナイフを渡してきた。
「あの・・・」
「いいから、貰っとき。子供が遠慮なんかしたらいかん。」
ここまでしてもらっていいのかとも思ったが、今回はラックさんのご厚意に甘えることにした。
「ありがとうございます」
「いいて。ほな、またな、少年」
僕は頭を下げてお礼を言うと、ラックさんは笑いながら去っていった。
僕はラックさんと別れると冒険者ギルドに向かった。