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僕、チート能力がないんですが  作者: 佐神大地
異世界に転生しました
29/67

特別補講に泣いたのは



「リーン。面倒なことになった。」


事情聴取が終わってしばらくするとアルベルトが神妙な面持ちでやってきた。

何かあったのだろうか。


「何かあったの?」

「ああ、かなりまずいことになった。お前に2つ伝えないといけないことがあるんだが、悪いニュースと辛いニュース、どちらから知りたい?」


・・・悪いニュースと辛いニュース!?何、その罰ゲームみたいな選択肢は。


「それじゃあ、悪いニュースからお願い」

「わかった。まあ、それほど大したことじゃないんだが、もうすぐ来る国王の使者とお前が会わないといけなくなった。」

「・・・なんで!?」

「何でって、お前がオークジェネラルを3体とも討伐していたからに決まっているだろう。親父はリカルドさんと二人でオークキングと数体のオークを討伐。一方、お前は一人でオークジェネラル3体と40体近くのオークとオークソルジャーを討伐している。その結果、戦功の第一位が親父たちからお前に変わったんだ。それを国王の使者に伝えたら、間違いなく「直接褒美を」って流れになるだろう。」

「その戦果のほとんどはソラだよ。」

「従魔の戦果はそのまま主の戦果になるんだよ。従魔登録の際に聞いていなかったのか?」

「そ、そんなあ。そうだ、オークジェネラルもモーガン様たちが倒したってことにすればどうかな?」

「無理だな。すでにお前は街中の噂だ。そんなウソをついてもすぐばれる。」

「・・・じゃあ、僕はすぐにテムジンに帰るよ。」

「それも無理だ。国王にもお前の情報は伝わっている。というか、諦めろ。どう頑張っても会わないって選択肢はないんだ。まあ、お前が反逆者になって国外逃亡するなら可能だぞ」


アルベルトはニタニタ笑いながら言う。

反逆者ってそれは嫌だよ。

諦めるしかないのか。


「・・・それでもう一つの辛いニュースって何?」

「ああ、俺からしたらこっちの方が大問題だ。」


そう言うとアルベルトが唾をゴクリと飲み込む。

嘘でしょう。今の異常にバッドニュースなの!?


「・・・実はな。俺の補講が明日に決まったんだ。」

「えっ?」


アルベルトは深刻そうな表情だが、それ、僕には全く関係ないよね。

などと考えていると、続きがあった。


「セバスがどうやらお前に興味があるらしいんだ。それで一緒に補講を受けないか聞いてきてくれって言われたんだ。俺の個人的な意見としては、参加しないしないほうがいいと思うんだが、セバスが是非にと言っているんだ。」


アルベルトはそう言うと目を瞑って震えだす。

セバスさん。アルベルトにどれだけトラウマを与えたんだろうか?

どうやら、僕が参加しないとアルベルトが困ったことになりそうだ。

僕もセバスさんは気になっていた。

特にあの動きなどは是非教わりたいものだ。

特別補講というのもちょっと気になる。


「アルベルト、僕も参加するよ」

「・・・!マジか。助かる。」


僕がそういうと、アルベルトはたいそう驚いて感謝してくれた。





翌日、領主の館の一室で特別補講を受けていた。

セバスは昨日と同じ執事服に身を包んでいるが、昨日と違って手袋だけが少し厚手の物に代わっていた。


「それではアルベルト様の特別補講を始めます。リーン様、お付き合いくださりありがとうございます」


セバスさんはそう言うと深く一礼する。

次いでセバスさんはアルベルトに問題を配る。


「アルベルト様。前回と同レベルの問題です。バラック様の話によると、リーン様は5分程で解かれてしまわれたとか・・・。それなら、アルベルト様も30分もあれば余裕ですね。合格ラインは前回と同じ9問です。それでは始めてください。」


それを聞いたアルベルトが僕を睨みつける。

いやいや、僕に抗議の視線を送っても無駄だよ。

抗議するならセバスさんにしないと。


「アルベルト様、余裕ですね。すでに試験は始まってるんですよ」


セバスさんがそういうと、アルベルトは慌てて試験問題を解き始めた。

その姿を満足そうに眺めたセバスさんは僕をじっと見つめる。


「リーン様ですが、ちょっとランクの高い問題をご用意してみました。」


そう言って僕に問題を配る。

それを見て僕は唖然となる。

これがちょっとランクの高い問題?

全然レベルが違うんですが。

図形問題やグラフの問題、確立、さらには統計問題などが追加されている。

確かに難しくなったが、まだ何とか解けるレベルだ。

最も速攻で解けるレベルの問題ではなくなったのだが・・・。





思った以上に時間が掛かった。

10問すべて解くのに30分も掛かってしまった。

前回の試験では拍子抜けしたが、この世界でも学問はそれなりに発達していることがわかった。

何しろ、前回より()()()()レベルの高い問題でこれなのだ。

セバスさんが答案を採点していく。

だんだんセバスさんの顔色が険しくなっていく。

自信があったのだが、ミスでもあったのだろうか。

セバスさんは丸付けをしていたペンを机の上に置く。

その手はプルプル震えている。

もしかして怒っていらっしゃいますか?

激おこですか?

鉄拳制裁ですか?

僕は怒られる前の子供のように下を向いて結果を待つ。





恐る恐る顔をあげて、セバスさんの顔を見ると驚いている!?


「・・・リーン様、全問正解です。」


セバスさんが絞り出すように声を出す。

良かった。

鉄拳は飛んできそうにない。

・・・ん?

それなら何で、手が震えていたんだ?


「終わった」


アルベルトも終わったようだ。

答案をセバスさんに渡す。

セバスさんは受け取るが呆けたままだ。


「・・・セバス、どうしたんだ?」


我に返ったセバスさんが慌ててアルベルトの答案をチェックする。


「アルベルト様も全問正解ですね。」

「おう、頑張ったからな。それよりこの問題、前回より難しくなかったか?」


アルベルトは返してもらった答案を見ながらセバスさんに詰め寄る。


「え、ええ。そうですね。少し難しくしておきました。商人ギルドの入試レベルです。」

「はあ、そんなレベルの問題、冒険者には必要ないだろう。」

「アルベルト様は貴族ですので、それよりも難しい問題が解けるようにならないといけません」

「た、確かにそうだが・・・。それはそうと、何かあったのか?随分顔色が悪いが」

「はあ、何かあったと言えばありました」


そういうと、セバスさんは僕の答案をアルベルトに見せる。

受け取ったアルベルトはそれを見てポカンとしている。


「リーン様の答案用紙です」

「・・・おい、セバス。この問題は何だ?」


アルベルトが怖い顔で詰め寄る。

ん?何か変だったのか?


「王宮の役人採用レベルの問題です。」

「えっ!?」


セバスさんの返事に僕は驚きの声を出す。

王宮の役人採用レベルってかなりレベルが高いんじゃないの?

そんな問題を僕が解けて大丈夫なの?


「セバス、確か王宮の役人の採用試験って1科目2時間じゃなかったか?」

「そのとおりでございます」


セバスさんは淡々と答えているが、それはまずいんじゃないですか?

12歳の子供が30分で解いてるんですよ。


「セバス、このことが国知られたら・・・」


アルベルトが心配そうに僕を見る。

セバスさんは小さく頷く。


「間違いなくリーン様の囲い込みが始まると思います。更にソラ様のこともありますので、かなりの規模の政変になる恐れもあります。」


えー、いやなんですが。

どうにかならないんですか?


僕はアルベルトの顔を見るがすでに諦めたような顔をしている。

セバスさんの方を向くと、小さく首を横に振っている。


「確かに、今回の補講の結果については隠すことは可能です。しかし、リーン様には申し訳ありませんが、ソラ様の件に関しては隠すのは無理です。そしてそこからリーン様について調べられるのは時間の問題かと・・・。」


セバスさんの言い分はもっともだった。

これで僕はドロドロとした政治の世界に飲み込まれて行ってしまうのだろうか。

うーん、いやだな。

これは最悪、国外に逃げるしかないのか。

面倒だなー。

僕がため息をついていると、セバスさんが優しく語り掛けてきた。


「リーン様。私、多少なりともコネなどがございますので、リーン様が納得いただけるような結果になるように働きかけてみようと思います」

「いいんですか?」

「はい。何しろリーン様はプッサンの英雄でございますので」

「その英雄ってのもやめてもらいたいんですが」

「わかりました。善処いたします。」

「いやー、良かったな。リーン。飯でも食いに行くか」


アルベルトはそういうと僕の手を取って部屋を急ぎ早に出ようとした。

何を急いでるんだろう?


「アルベルト様、お待ちください。」


セバスさんがアルベルトを引き留めた。


「何かな?」


アルベルトの顔から汗が流れ落ちる。


「アルベルト様。この補講の合格基準は30分以内に9問以上です。申し訳ありませんが、アルベルト様の回答時間が30分を超えていましたので不合格です。リーン様は問題なく合格ですので、お食事をごゆっくりお楽しみください。アルベルト様は後1時間ほどがんばりましょうか。」


セバスさんの言葉にアルベルトは真っ青になった。

僕は邪魔しては悪いと、そそくさと部屋を出る。

その後、1時間ほど室内からはアルベルトの悲鳴が聞こえてきたという。






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