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僕、チート能力がないんですが  作者: 佐神大地
異世界に転生しました
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東門での戦い



オークキングは中央区を区切る塀の手前までくると、大きな雄叫びを上げた。

凄まじい雄叫びだった。

オークキングの傍にある家が揺れている。

周りの兵士や冒険者がガクガクと震えだす。

バラックさんですら、よろめいていた。

僕はその衝撃に耐えきれず、尻もちをつく。


怖い。

ものすごく怖い。

今すぐにでも逃げ出したい。

何で僕はこんな怪物と戦っているんだろう?


「おい、リーン。しっかりしろ」


バラックさんが僕の肩を持って大きく揺する。

はっと我に返るとすでにオークの軍団の攻勢が始まっていた。

冒険者や兵士たちが弓や魔法で必死に応戦しているが、今にも塀を突破されそうだ。


「いいか。絶対に塀を突破させるな。街の奴らに手を出させるんじゃないぞ。」

「家族の為にも、絶対にここは死守だ」


兵士たちの必死な叫び声が聞こえる。

ここはすでに戦場なのだ。

覚悟はしていたが、ここまでひどいものだとは思っていなかった。

手足が再び震えだした。


「リーン。お前は奥に行っていろ。お前が下がっても、文句を言うやつはいない。」


バラックさんはそういうと腰の剣を抜き塀の方に向かう。

僕はバラックさんに掛ける言葉が見つからなかった。

頭の中にあるのは『恐怖』だけだった。


「くーん」


頬に生暖かい感触が伝わる。

見るとソラが心配そうに僕を舐めていた。

どうやら心配して元気づけてくれているようだ。


「そっか。僕にはお前がついてくれているんだよね。もう大丈夫だよ」


ソラを見ていると、なんだか勇気が湧いてきた。

チート能力を持っているソラが横にいてくれるのに僕の身が危険なはずがない。

僕は勇気を振り絞って立ち上がると周囲を注意深く観察した。


オーク軍団の主力は西門から攻めてきている。

それを迎え撃つ僕たちの戦力も次第に西側に集中していった。

これ、別動隊が東から攻めてきたらまずいんじゃないだろうか?

そんなことを思っていると東の方から戦いの音が聞こえてきた。

やっぱり別動隊がいたようだ。


「ソラ、行こう。」


僕はソラを連れて東の戦場に向かった。





東に配置された兵は少なかった。

これはオークの群れがこの街の西側の森の中に生息していることが確認されていたからだ。

まさか大きく迂回して東側に別働隊を派遣してくるとは思っていなかったからだ。

東のオークの群れは20匹ほどだった。


「ソラ、思ったより少ないね。これなら何とかなりそうだね。」


ソラは「わん」と元気よく答えると、まるで散歩にでも行くのかのように僕の隣を楽しそうについてくる。

僕の感覚は完全に麻痺していた。

どう考えてオーク20匹の群れに突っ込む少年など考えられないものだった。

東側に追いやられていた市民がオークの群れが現れたことで慌てて逃げだしてきている。


「坊や、早く逃げるわよ。」

「何やってんだ。死にたいのか」


逃げようとする市民に注意をされたが、僕が逃げるわけにはいかない。

僕とソラでここも死守しないといけないからだ。

・・・・・・主にソラがだが。


20匹のオークの中にひときわ大きなオークが1匹混じっている。


「ソラ、あのオーク、オークジェネラルだよね。大丈夫?」

「わん」


問題ないよ、と言わんがばかりに元気にソラが一声なくとオークに向かって突撃していった。

流石ソラだ。

瞬く間にオークをなぎ倒していく。

・・・・・・僕のすることがないな。

僕は一人では絶対にオークには敵わない。

などと考えるていると、「わん」とソラが呼ぶ声が聞こえた。

そちらを見ると、ピクピクとしているオークが一匹横たわっていた。

ソラは次のオークに向かっている。

・・・僕に止めを刺せってこと?

瀕死のオークの周りには他のオークはいない。

僕は意を決してオークに駆け寄ると刀を突きさす。

これって完全に寄生って行為だよね。

などと考えながらどんどん止めを刺していく。


他の冒険者の方と兵士の人が一生懸命オークを食い止め、市民を守る。

ソラがオークを蹴散らす。

僕が止めを刺す。


ここではこの役割分担が確立していた。

5匹目のオークに止めを刺した時、不意に僕の背後に殺気を感じた。

振り返るとそこには鬼の形相のオークジェネラルが立っていた。


やばい。

こんな奴と戦ったら、僕の実力なら間違いなくやられる。

ものすごい恐怖が僕を襲ってくる。

先ほどのオークキングの咆哮聞く前だったら、僕は間違いなく腰を抜かして漏らしていただろう。

確かに怖いのだが、オークキングほどの恐怖を感じない。

きっとそこがキングとジェネラルの実力の違いなのだろう。

ただ、僕の実力だと、どちらと戦っても負けるのは目に見えているのだが。


ソラは向こうの方で最後のオークを追いかけている。

オークが必死にソラから逃げている姿は滑稽だ。

他に動いているオークはいない。

僕のミッションはソラが最後のオークを倒してここに来るまでの間、自らの身を守ることだ。



そんなことできるのか?

目の前のオークジェネラルは3メートル近い巨体だ。

筋骨隆々で腕なんか僕と同じぐらいの太さの気がする。

そして巨大なこん棒を握り締めて迫ってくる。

その顔はとても残忍で歪んでいた。


僕は刀を持つ手が震えていた。

これは決して武者震いではない。

純粋に怖くて震えているのだ。

オークジェネラルは巨大なこん棒を僕に叩きつけてきた。


(潰される)


咄嗟に刀で受けようとと振り上げたところ、うまい具合に刃の腹の部分に当たってこん棒が逸れて地面に滑り落ちた。

地面は大穴を開け、衝撃波で吹っ飛ぶ。

僕はもちろん、華麗に着地などできず、尻もちをつく。

幸運なことに刀は僕の手に吸い付いていてしっかり僕の手に収まっている。

手に痺れなどもない。

オークジェネラルは不思議そうな顔をしていたが、すぐに残忍な笑みを浮かべると僕に近づき、再びこん棒を振り下ろす。

僕は咄嗟に刀を頭の上に構えると目を瞑ってお祈りしていた。


「誰か、助けて・・・」





?????


こん棒が振り下ろされたはずなのだが、一向に衝撃が襲ってこない。

目を開けてみてみると、オークジェネラルは先っぽのないこん棒を持って、呆然としていた。

こん棒は見事に持ち手の上の部分で切断されていた。

僕の刀が青白く光っている。

これはもしかして、この前知ったソラの新スキル!?


確かこんな感じだったはずだ。



--------------------

ご主人様の剣


主人のピンチに自分の攻撃力を主人に渡すことができる。

渡すとしばらくの間、自分の攻撃力はゼロになるので注意してね。

--------------------


ということは、ソラの手助けはしばらく当てにできないはずだ。

なら、僕がオークジェネラルを倒さないと。

オークジェネラルは訳が分からず切断されたこん棒を見ている。

僕は意を決して起き上がるとオークジェネラルに向かって駆けだす。

目の前まで近づくと刀を無我夢中で振りぬいた。





目の前にはオークジェネラルが悠然と立っている。

攻撃をしてこない。

????

突如、オークジェネラルの状態が横に滑り落ちていく。

僕の一撃はオークジェネラルを横一文字に切断していたのだ。

オークジェネラルは悲鳴を上げることなく息絶えていた。

周りからすごい歓声が聞こえる。

近くにいた兵士が駆け寄ってくる。

何か言っている気がする。

どうやら、ここは守り切ったようだ。

その瞬間、緊張の糸が切れた。

僕は不意に強烈な疲労に襲われて意識を失うことになった。






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