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僕、チート能力がないんですが  作者: 佐神大地
異世界に転生しました
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防衛線始まる



オークたちは無人の東門を破ると街の中になだれ込んだ。

そしてすぐに略奪をしようと街中に散っていく。

その数、およそ30匹と言ったところだろうか?

彼らは街を破壊しながら何かをさがしているようだ。

時折、中央区にも近づいてくるが、兵士や冒険者が弓や魔法で攻撃すると、悠々と離れていく。

どうやら、まずは無抵抗なところから蹂躙するらしい。

オークの数は30匹ほどで、そのうち6~8匹ほどがオークソルジャーだろうと思われる。

そして門を入ってすぐのところにオークジェネラルと思われる個体が立っている。


「凄い光景だな。街の人が残っていたら大惨事だな。」


バラックさんが破壊されていく街を見ながら、驚きの声を上げる。

しばらくすると、北門、南門もオークの軍勢に破られる。

北と南からも30匹近くのオークが攻めてきた。

城門にはオークジェネラルが陣取っている。

唯一西門だけが、オークの軍勢に攻められていなかった。

それでもすでに100匹近いオークの軍勢が街に入り込んでいることになる。


「リンセンさん。どう思います。あいつら、なんで西門に兵を回さないんですかね?」

「・・・おそらく、西門の先に本隊がいるのでは?」


バラックさんの疑問にリンセンさんが淡々と答える。

本隊、すなわちオークキングの率いる部隊だ。

なるほど、確かに理にかなっている。

軍を4つに分け、オークキングと3体のオークジェネラルが指揮する。

そして、西門をわざと攻めずにおいて、逃げてきたところを本隊が叩く。

いやらしい戦略だ。

圧倒的な戦力差がないと難しい作戦だが、効果的でもある。

もっとも、僕たちは援軍を待って完全籠城する予定なので、この作戦は逆に有難い。

少なくともしばらくの間はオークキングの軍と戦わなくていいからだ。


「いいか。儂等の目的はテムジンから援軍が来るまで持ちこたえることだ。テムジンの領主とギルドマスターは元Sランクの冒険者だ。龍殺しの彼らなら、オークの軍勢など物の数ではない。2時間ほど前にすでに知らせを送っている。おそらく1日もすれば援軍は来るはずだ。それまで持ちこたえろ。」


リンセンさんは味方を鼓舞するために声を張り上げるが、これだけのオークを前に1日も持ちこたえることができるのだろうか?

オークの数が多すぎるのだ。

今はまだ誰もいない街を略奪しているが、いずれ全軍がこの中央区を攻めてくるだろう。

その時、ここを一日守り切るのは難しいだろう。


「バラックさん。今のうちにソラに頼んでオークの数は減らしておきませんか?」

「・・・!?ソラにこの中を突撃させるのか」

「はい、危険かもしれませんが、このまま全部のオークが中央区に殺到してきたら持たないと思います。」

「たしかにそうだが・・・。リンセンさん、どう思う。」

「確かに数を減らした方がいいが、そのソラ君が出て行っている間に周りを囲まれると戦力が分断されるからのう。」

「それじゃあ、最速で20匹程って命令で間引きましょうか。」

「・・・お願いできるかのう。」


リンセンさんの許可が下りたので僕はソラに頼むことにした。


「ソラ、いいかい。周りのオークを20匹ほど狩ってきてほしいんだ。周りが囲われると戻ってこれなくなるから、最短ルートでいけるところで倒してもらってきていいかな?」


僕がソラに尋ねると、ソラは一言「ワン」と言うと東門の方に向かった走り出していった。

そして、ソラは塀から飛び降りるとオークの群れに向かって突撃していった。


「おい、ソラは大丈夫か。ここの塀は低いと言っても5メートルはあるんだぞ」


バラックさんが心配して駆け寄ってきたが、僕が答える前に元気にオークの群れに突撃していくソラを見て、呆れた表情で眺めていた。




しばらくすると、ソラが帰ってきた。

意気揚々と尻尾を振りながら凱旋した。

僕はすばやく門を開けると、ソラを中央区の中に招き入れた。

流石のソラも少し疲れたようで、口で「ハアハア」と息をしていた。


「お水飲む?」


僕が尋ねるとソラは尻尾を大きく振って踊りだす。

僕は魔法鞄(マジックバック)から魔法の水筒を取り出すと、ソラに水をあげる。

ソラは美味しそうにに水を飲むと疲れたのか日陰に行って丸まって眠ってしまう。


「リーン。ソラが帰って来たって?」


知らせを受けたバラックさんが慌ててやってきた。


「はい、無事に帰ってきました。」

「無事か。よかったな。それで今、どこにいる?」


僕がソロの方を指さすと、バラックさんはぐっすり眠っているソラを見ると胸をなでおろす。


「すまなかったな。ソラを危険な目に合わせて。いくら強いと言ってもオークの群れの中に一匹で突撃させるのはちょっと気まずかったんだ。」

「いえ、僕から言い出したことですし、もし、できそうになかったらソラは断ると思いますよ。」

「・・・!?そうなのか」

「はい。結構頭のいい犬なので出来ないときは『できない』ってちゃんと言いますよ。」

「そうなのか。すごいな。昔、テイマーと仕事をしたことがあったんだが、そのテイマーはひどい奴でな。従魔に無理な命令を押し付けるような奴だったんだ。そいつによると、従魔はテイマーの命令には絶対に背けないって自慢気に言っていたんでな。」

「そうなんですか?でも、僕テイマーじゃないですし、それに・・・。」

「・・・あっ。別に俺はお前がソラに無理やり命令してると思ってるわけじゃないぞ。ただ、『お前がそうと認識してなくて、無茶なお願いをしている可能性があるかな?』と思ったから聞いたんだ」


僕の気持ちを察したのか、バラックさんが慌てて弁明する。

確かにバラックさんの言う通りだ。

僕がお願いするときにソラに負担にならないように気をつけないといけないな。





ソラが帰ってきてしばらくして、なぜかオークたちが街から撤退したのだった。

僕たちからすると有難いことなのだが、まだまだ脅威が去った訳ではない。

すぐさま、対策会議が開かれた。

出席者はバラックさん、リンセンさん、アルベルト、兵隊の隊長さん、そしてなぜか僕の5人だった。


「どう思う。なぜ、オークたちは一斉に撤退したと思う?」

「理由は分かりませんが、撤退する直前、街の西から凄まじい咆哮が聞こえた、という報告は上がってます。」

「まあ、理由はどうにせよ、こちらとしては助かったってのは間違いないな。親父たちが助けに来るまで、もう少し頑張らないといけないからな。」


アルベルトの言葉に全員が頷く。


「それで援軍はどのくらいで着くと思います?」

「そうだな。俺達が街を出た時にはすでに出発の準備を始めていた。パッと見ただけでもCランクの冒険者のパーティーが何組かはいた。その内の少なくとも2組は馬車を持っていたはずだ。他にもギルドや領主が馬を持ってるはずだから、それらを使ってくれたなら、先発部隊は知らせが届いてから5時間ほどでここに着くはずだ。残りは徒歩だと思うからその倍ってところかな。」

「テムジンに向かわせたピックは狼の獣人でして、短い時間なら獣化ができるユニークスキルの持ち主です。真っすぐ走って行けたなら、おそらく5時間、回り道をしたとしても7時間ほどでたどり着くはずです。」

「ということはトータル10~12時間ってところか。ピックが出発して4時間ほどだから後6~8時間ってところか。ちょっと厳しいかもしれんな。」


僕を除く全員がため息をつく。

あれ?後、6~8時間って厳しいのかな?

僕の様子にアルベルトがすぐに気づいたようだ。


「どうやら一人だけわかってない奴がいるな。リーン、いいか。何があったのかは分からないが、オークが引いたのは軍の編成を立て直すためだ。あそこまで街を蹂躙していて軍を立て直すってことは次に侵攻は街を一気に攻め滅ぼすってことだ。」


アルベルトの説明で僕は納得した。

ソラが20匹ほどオークを倒したが、それでもまだ70匹以上のオークがいる。

それにオークキングやオークジェネラルも残っている。

その戦力が一気に攻めてきたら、この戦力では守り切れないということだ。

結局いい案が出ないまま、時間だけが過ぎていった。

兵士の隊長さんからソラ無双という案も出たのだが、他の4人の反対で却下となった。

当の本人(ソラ)は未だに疲れているのか、僕の横でぐっすり眠っている。




「攻めてきたぞー」


突然、西の方から悲痛な叫び声が聞こえた。

オーク軍団を進行を再開したようだ。

今度は西門から全軍が攻めてきているようだ。

その先頭には巨大なオークがいるとの報告があった。

僕たちは慌てて前線まで見に行くとそこには怒り狂った風格のある巨大なオークが中央区に向かってゆっくり前進していた。


「オークキングだ。しかも、かなりでかい。もしかしたら、ユニーク個体かもしれない。」


バラックさんの口から出た言葉は僕たちを絶望させるのには十分だった。






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