プッサンの街
プッサンの街はテムジンの東300キロほどの距離の場所にあり、馬なら5~6時間ほどで着くそうだ。
夜道だということを考慮に入れても、7時間もあれば余裕で着く距離らしい。
馬は夜でも走ることができるらしく問題ないとのことだった。
あれ、ソラは?
「ソラ、夜に走っても大丈夫?」
僕の問いにソラは大きく頷く。
流石、チート犬だ。
僕とバラックさんは3時間ほど仮眠を取った後、出発することになった。
今出発しても、明け方前に到着してしまうからだ。
バラックさんによると「休める時に休んでおくのは冒険者として当然のことだ。」そうだ。
◇
時刻は丁度深夜ぐらいだろうか?
ギルドの仮眠室で休んでいた僕はバラックさんに起こされる。
「行くぞ」
どうやら時間の様だ。
僕が眠い眼を擦っているとバラックさんが肩を叩いてくる。
「まだまだだな。冒険者なら3時間も寝れば体調を整えれるようにならないとな」
「が、がんばります」
こうして、深夜の決死行が始まった。
バラックさんはギルド一の馬に乗り、僕は巨大化したソラに乗る。
巨大化したソラの毛はとてもフカフカしていた。
乗り心地も問題なかった。
ソラが気を使ってくれたのか、全く振動を感じなかった。
しかも、かなりのスピードで走っているはずなのに全く風圧を感じない。
ソラ、すごいな。
そう思っていると、遥か後ろの方からバラックさんの声が聞こえる。
「リーン。ちょっと待てー」
振り向くとバラックさんは豆粒のように小さくなっていた。
「ソラ、ストップ」
僕は慌ててソラを止める。
ソラは「どうしたの?」といった感じで僕を見ている。
しばらくすると、バラックさんが追い付いてくる。
「早すぎだ。なんでそんなに早いんだ?」
何でと言われても困るのだが、おそらくソラのスキルのせいだろう。
身体強化(神)
どのくらいのレベルのスキルかは知らないが、(神)だからかなりのレベルのスキルだろう。
「ソラ、悪いけどバラックさんにスピードを合わせてやってもいいかな?」
僕がソラに頼むと、ソラは小さく頷いた。
バラックさんがばつの悪そうな顔をしているがそんなのは気にしていられない。
再び、プッサンに向けて出発する。
今度はバラックさんが先頭を行き、ソラが後をついていくことになる。
◇
3時間ほどたったところで、バラックさんの馬に疲れが見えてきた。
「バラックさん、一度休憩しませんか?馬が疲れてきてますよ。」
「・・・そうだな。予定より少し早いペースできてるし、30分ほど休むか」
僕は魔法鞄に入っていた薪を取り出し火を起こす。
バラックさんは馬に水や塩を与えている。
ソラも水を飲んで僕の横でゆっくり休んでいる。
いや、違うな。
胃袋から取り出したオークを一匹食べ始めた。
オーク?
いつのまに狩ったんだ?
うん、きっとそうだ。
美味しそうに食べてるし追及はしないどこう。
30分後、出発することになった。
馬はまだ少し疲れているかんじだが、これ以上の休憩は遅れにつながる、というバラックさんの判断だった。
ソラは元気いっぱいだった。
再び走ること1時間、僕たちはオークの集団と遭遇した。
オーク3体とオークソルジャー1体だ。
「流石ですね。悪い予感、当たりましたね。」
「全然、嬉しくないがな。どうする。俺一人だとオーク一匹で精いっぱいだぞ。」
そういうとバラックさんはソラの方をちらりとみる。
ソラに期待しているようだ。
そうだよね。
はあ、やっぱり僕には期待しないよね。
「ソラ、どうかな。倒せるかな?」
ソラは「ワン」と一言吠えると巨大化したまま、オークソルジャーに飛びかかる。
オークソルジャーはソラの動きに反応できずに強烈なタックルを受けて倒れる。
そしてそのまま、首筋を噛まれて絶命する。
続いて近くにいたオークに飛びかかり右前足振るう。
オークをソラの爪が引き裂く。
・・・爪が引き裂く?
あれ、ソラに爪があったっけ?
肉球ならあったけど、魔物を切り裂くような爪はなかった気がするよな・・・。
今度、じっくり見せてもらおう。
でも、肉球を触ると嫌がるんだよな。
などと考えていると、いつの間にかソラがすべてのオークを倒していた。
バラックさんが呆然とその光景を見ている。
「ソラ、オークの死体、食べといて。」
僕がそうお願いすると、ソラは遠慮なく4つの死体を食べていく。
食べるといっても本当に食べるんじゃなくて、胃袋にスキルで収納しているだけだけどね。
「それじゃあ、出発しましょうか。・・・バラックさん、聞いています?」
僕は呆然としているバラックさんを呼び戻すと、プッサンの街に向けて再出発した。
◇
その後、何事もなく僕たちはプッサンの街についた。
あたりは薄明るくなってきていて、開門の時間まではもう少しだ。
僕たちは開門の時間までの間、休憩がてら食事をとることにした。
それにしても、あたりには人っ子一人居らず、不気味な感じだった。
「おかしいな。本来なら開門待ちの商人の一人でもいていいはずなんだが・・・」
バラックさんも何か感じ取ったようだった。
辺りを見渡して、不思議そうにしている。
「そうだ。プッサンってどんな街なんですか?」
「プッサンはな一応、商業の街だ。交通の要所に位置するため商人が多いんだ。ただ、ちょっと独特な奴らが多い。」
「独特なやつら?」
「ああ、異様にプライドの高い奴らが多いんだ。だから、自分の失敗を絶対に認めないんだ。そのため、周りの街からは嫌われている。知らなかったのか?」
「は、はい。僕、遠くから旅してきたんで。」
「そうか。それなら気をつけろよ。この街では嘗められたらどんどんたかられるからな。」
「どういうことですか?」
「そうだな。まず、この街の中では絶対に謝るな」
「謝るな?」
「ああ、例え自分が悪いと思っても、とりあえず相手を怒鳴って相手が悪いと非難しろ。」
「そんなことできませんよー」
「それなら中では俺の傍にいて、一切喋るな。お前は俺の従者ってことにする。それとソラはずっと巨大化させたままでいろ。その方が嘗められない。」
「わ、わかりました」
こうして時間は過ぎ、プッサンの街の門が開く時間となった。
「行くぞ。」
「はい」
僕はバラックさんに続いて、門に向かう。
門に近づくと中から出てきた兵士にいきなり武器を突き付けられた。
「止まれ。貴様ら何者だ。」
「俺たちは隣町テムジンの冒険者ギルドからの使者だ。この街の冒険者ギルドに用事があって来た。」
そう言ってバラックさんは懐からギルドマークの入ったエンブレムを取り出す。
これがギルドの公式の使者という証拠なのだろう。
「で、後ろの小僧とそのモンスターはなんだ。」
「こいつはリーン。俺の従者だ。そして、こいつはリーンの従魔、ソラだ。リーン、従魔の証の首輪を見せてやれ。」
僕は言われたとおりにソラを呼ぶと首輪を見せる。
兵士の一人が確認しようと近づこうとするが、ソラが兵士の方を見るとそそくさと後ずさる。
「お、おい、ちゃんと従魔を抑えておけ。」
「おいおい。どれだけ怯えてんだ。うちのギルドの受付嬢でも可愛がって撫でてるのにだらしないな」
兵士が難癖をつけてきたが、即座にバラックさんが言い返す。
兵士がさらに何か言い返そうとするが、バラックさんが威圧すると怯んでしまう。
流石バラックさんだ。
「おい、街に入りたいんだがいいか?」
「あ、はい。身分証の確認だけさせてください。」
兵士はすっかり委縮している。
ギルドカードを確認した兵士は快く(?)僕たちを街の中に案内してくれた。




