ソラ、大きくなる
「リーン。こいつは何処で倒したんだ。」
バラックさんが鬼気迫る表情で聞いてくる。
こんなバラックさんの表情は初めてだ。
「えっと。森で食材を採取していた時にソラが倒して持ってきたんです。」
「はあ、またこいつか。講習は中止だ。すぐに街に戻るぞ。片付けを始めろ。アルベルトは先に街に帰って、報告してくれ。」
「わかった」
アルベルトは返事をすると、すぐに街に向かって走り出した
「いいか。覚えておけ。こいつはオークの上位種のオークソルジャーだ。ゴブリン、コボルト、オークなどの上位種を発見したときはすぐにギルドに報告しろ。こいつらは数か多くなると、上位種が生まれてくるんだ。だから、急いで数を減らさないと危険なんだ。」
「危険?」
「上位種が増えると、種全体が強くなるんだ。そして、キング、ロードといった最上位種が生まれると人に戦争を仕掛けてくるんだ。」
「戦争!?」
そこで僕はやっとことの重大性を理解した。
先ほどセブンが驚いていたのもこのためなんだろう。
こうして、僕たちはアルベルト達がせっかく張ったテントをすぐに片付けると街に戻ることになった。
◇
僕たちがギルドに到着した時、すでに外は暗くなっていた。
いつもは冒険者たちは酒場に消えている時間だが、今日はほぼ全員がギルドに待機していた。
「帰って来たか。」
僕たちを見つけたギルドマスターのリカルドさんがやってくる。
そして、有無を言わさず僕たちをギルド長室に連れていかれる。
「スマンが坊主、オークソルジャーを確認させてくれ。」
僕はソラに言って、オークソルジャーを出してもらう。
リカルドさんはそのオークソルジャーをまじまじと観察するとポツリと呟く。
「まずいな。このオークソルジャー、若いな。」
「やっぱり、マスターもそう思うか」
二人して深刻な顔でなやんでいる。
「あの、若いと問題があるんですか?」
僕の質問にリカルドさんは大きく頷く。
「大ありだ。若いオークソルジャーが単独で歩き回っているってことはこいつは下っ端である可能性が高い。巣には年配の上位種がたくさんいるってことになるんだ。そうなってくると、オークの集団はかなり大きく、上位種が多いものになってるってことだ。」
「でも、マスター。それなら今までにも情報が上がって来ていたはずですよ。ここ最近、オークの異常増殖の話なんて聞いていないですよ。」
「確かにそうだが、バラック、お前たちが講習をしたのは東の平原だよな。」
「はい、そうですが。・・・・・・。あっ!?」
「そうだ、気がついたか。東の平原の向こうにある街はプッサンだ。」
「あそこなら、情報が共有されていない可能性がありますね。」
「ああ、あいつらは能力はないくせにえらくプライドだけは高いからな。自分の領内で不祥事が起こったら、絶対秘密にするはずだ。」
リカルドさんはそういうとため息をつく。
「おい、誰か。すぐにプッサンの冒険者ギルドに確認を取れ。後は、脳筋領主にこのことを伝えておけ。」
しばらくすると、受付嬢の一人がリカルドさんのところにやってきた。
「マスター。領主には伝えましたが、プッサンに行きたがる冒険者がいません。」
「あいつら・・・。仕方ない。強制依頼でも使え。」
リカルドさんがそう言うと、受付嬢は隣に立っているバラックさんの方を向くと敬礼する。
「と、言うことで、聞いていましたよね、バラックさん。マスター直々の強制依頼です。プッサンに行ってください。馬はこちらで用意します。」
バラックさんはこの世の終わりのような顔をしている。
そんなに行きたくないんだ。
「ちょっと待てって。俺一人だと危険すぎるだろ。オークの群れに遭遇したら、間違いなく死ぬだろ」
「大丈夫です。オークと会う確率は低いです。」
「何が大丈夫なんだ?全然説得力がないぞ。」
「バラックさん。悲観的に考えすぎです。」
「俺は運の悪さには自信があるんだ。絶対、オークと遭遇する自信がある。」
「そんなに威張らないでください。しかし、他にいい人選がいないんです。ここは諦めて死んでください」
「うぉい。ちょっと待て。死んでくれってどういうことだ。」
「・・・すみません。言い間違えました。命を散らす覚悟で逝ってください。」
バラックさんがジト目で受付嬢を見ている。
受付嬢はそれを華麗に受け流すとそのまま、部屋の外に出ていく。
「マスター。俺一人とか無理ですよ。」
バラックさんはリカルドさんに泣きついている。
リカルドさんも困った顔をしている。
「本来なら、もう一人ぐらい強いやつと二人で行かせるんだが、ここ最近、テムジン冒険者ギルドには高ランクの冒険者があまりやってこないんだ。将来、有望そうなのはいるがな。」
そう言って僕を見る。
僕、嫌ですよ。
そんな危険そうな依頼、絶対に受けませんよ。
強制依頼は確かランクCの冒険者からしか適応されないはずだ。
僕はまだランクFなので問題ない。
そんな僕の気持ちを無視してバラックさんが僕に聞いてくる。
「リーン。一緒にきてくれ。もしくはソラを貸してくれ。」
「僕はいやです。ソラは一人で行ってくれる?」
僕が尋ねると、ソラは大きく首を横に振る。
「いやみたいです。」
「そ、そこを何とか。」
バラックさんが更に嘆願してくる。
「リーン。お願いだから一緒に来てくれ。」
「無理ですって。だいたい、僕、馬に乗れないですよ。」
「えっ!?それは確かに無理だな。」
バラックさんが諦めかけた時、ソラが僕の前に来て「ワン」と吠えると巨大化した。
「「「えっ」」」
僕たち全員が固まる。
ソラの全長が2メートル近くまで大きくなった。
この大きさなら子供の僕ならきっと乗ることもできるだろう。
そんなことを考えていると、ソラが「褒めてー」とばかりに体を摺り寄せて頭を差し出してくる。
僕はソラの頭を撫でながらソラを鑑定さんで調べてみる。
--------------------
ソラ
種族 スコティッシュテリア
年齢2歳
職業 従魔
スキル
身体強化(神)
探知(極)
幸運
胃袋(大食い)
巨大化Lv1
ご主人様の剣
称号・その他
転生犬
リーンの従魔
犬神の眷属
忠犬
--------------------
知らないスキルが2つもあるぞ!?
巨大化Lv1とご主人様の剣か。
--------------------
巨大化Lv1
ソラの体が大きくなるぞ。
Lv1だと2メートルぐらいかな。
これでリーンくらいの大きさならソラに乗って移動できるね。
Lvが上がると・・・、これは秘密にしておこうか。
使用制限や制限時間はないから、安心して使ってね。
--------------------
その名の通りのスキルだった。
なら、ご主人様の剣ってどんなスキルだろう?
--------------------
ご主人様の剣
主人のピンチに自分の攻撃力を主人に渡すことができる。
渡すとしばらくの間、自分の攻撃力はゼロになるので注意してね。
--------------------
・・・・・・もしかして、ウルフを真っ二つにできたのって、この能力のおかげかな?
ソラ、さっきはありがとう。
後で、美味しいご飯をあげよう。
「どうやら、新しいスキルを覚えていたみたいです。」
僕がそういうと、リカルドさんは「またか」と小さく呟いた。
僕は巨大化Lv1のスキルを説明する。
「するとリーンもソラに乗っていっしょに行けるんだよな」
リカルドさんがすごい剣幕で僕に聞いてくる。
結局、僕は断り切れず、一緒にプッサンの街に行くことになった。




