素材の代金は山分け?
「大丈夫か」
バラックさんが慌てて近寄ってくる。
アルベルトとリブロスもウルフを倒し終わってこちらに駆け寄ってくる。
セブンもすでに側にきてくれている。
「リーン、大丈夫か?」
僕は自分の体を確認するが、小さなかすり傷だけで、大きな怪我はないようだ。
打ち身などもなさそうだ。
「大丈夫です。ご心配おかげしてすみません」
「まあ、無事でよかったな。」
「ほんとだよ」
アルベルトとリブロスは俺の身を心配してくれている。
一方、バラックさんは
「いやー、思った以上に戦えなかったな。あそこで目を瞑るとは思わなかったぞ。」
と軽口を叩いてくる。
「バラックさん。僕は死ぬかと思ったんですよ。そんな言い方ないでしょう」
「いや、冒険者は基本、自己責任だぞ。ここでお前が死んでも俺たちは何とも思わない」
「いや、少なくとも悲しんでくださいよ。」
「まあ、それは冗談だ。それにいくら『戦うな』って命令していても本当にお前に命の危険があったら、あいつは駆けつけるぞ。」
そう言って、バラックさんはソラを指さす。
ソラは『呼んだ?』とばかりに首を上げて尻尾を振りながらこちらを見ている。
そうだ、僕にはあんな頼もしい相棒がいるんだった。
「それにしてもリーン。お前、もう少し、戦闘の訓練をした方がいいな。お前、ソラのお陰で金にはこまっていないだろう?一度、冒険者を雇って戦闘訓練の指導を受けたほうがいいぞ」
「そんなこともできるんですか?」
「ああ、主に貴族が子供の指導のためにするんだが、平民でも稀にそういう依頼を出すものはいる。まあ、冒険者でそんな依頼を出したやつの話を聞いたことはないがな。プライドの問題もあるしな。」
そう言うと、バラックさんは馬鹿笑いをする。
言われてみると確かにそうかもしれないが、僕は後で、指導の依頼を出そうと心に決めておいた。
プライドよりも命の方が大事だ。
「それじゃあ、急いでウルフの解体を済ませようか。これが一応、次の課題だ。できない奴はいるか?」
バラックさんはそういうと俺の方を向く。
いやいやいやいや、僕はできるよ。
ちょっとやり方が古いって言われたけど。
「・・・・・・よし。全員出来るみたいだな。それじゃあ、他のモンスターが寄ってくる前にどんどん解体していこうか。」
こうして次の課題、解体の講習が始まった。
他の3人もどんどん解体していく。
意外なのがアルベルトの解体技術がすごかったことだ。
兵士に任せているからできない、というかと思ったら、すごく上手だった。
「ああ、昔、冒険者がやっているの見たら覚えたんだ」
「見たら覚えた?」
「これ位、見たらできるだろ?」
「・・・・・・」
そういうと、アルベルトは解体をどんどん進めていく。
見ただけで覚えたレベルではない。
本当に見ただけで覚えれたのなら、アルベルトは天才なのだろう。
こんなところにもチートがいやがった。
リブロスもセブンの解体技術はアルベルトほどではないが、僕より十分上手だった。
どんどん解体を進めて行っている。
一方、僕は経験の差と技術の差が如実に表れていた。
明らかに他の三人と比べて遅かった。
僕の解体をまじまじと観察していたバラックさんが
「リーン。お前の解体の仕方、ちょっと変だな?変な癖っていうか、やり方が古いのか?」
「・・・エルルさんにも言われました。」
「この中で一番上手いのはアルベルトか。教えてやってくれ。」
「はーい」
僕はアルベルトに解体の仕方を教わることになったのだが・・・
「いや、そこはこっちからズバッとやった方がいいよ。」
「え?」
「だからここはスーという感じで、ここからズバッとするの」
「・・・・・・」
アルベルトは教えるのが下手だった。
天才は教えるのが苦手というが、まさにその通りだった。
「私が教える」
気がつくと隣に来ていたセブンがアルベルトと後退した。
「ここはこう」
セブンの教え方は実際にやってみて教えるやり方だった。
言葉はほとんど発しないが、的確に改善すべきところを教えてくれた。
5匹目を解体した時には一人で難なく解体できるようになっていた。
「あれ?そういえば数が多くない?」
この講習ではウルフは9匹(うち1匹はアルベルトの一撃で肉塊になっている)しか倒していない。
後はホーンラビットが2匹。
しかし、ここには解体されたホーンラビットが3匹分、ウルフが13匹分並んでいる。
「わん」
後ろからソラの鳴き声が聞こえて振り向くとそこには見慣れないモンスターを咥えたソラがいた。
もしかして、僕の練習のためにモンスターを狩って来てくれていたのかな。
「ソラ、ありがとう。」
僕はそういってソラの頭を撫でると嬉しそうに甘えてくる。
ところで、ソラが咥えているこのモンスターはなんだろう?
僕はソラから受け取るとそのモンスターを観察する。
全長50センチくらいの小型の狐だ。銀色の毛で尻尾が2本に分かれている。
「バラックさん。このモンスターなんですが、知っています?」
振り向いてバラックさんに尋ねると、全員が驚きの表情で固まっていた。
「みんな、どうしたの?」
「お前、・・・それ」
「知らないのか」
「・・・・・・」
「すごい。シルバーフォックス、しかも2尾だ。滅多にない高級品だぞぞ。親父が知ったら欲しがるだろうけど、この前キラータイガーにお金使ってたもんな。ちょっと手が出ないか」
アルベルトがサラッとすごいことを言っている気がする。
領主が買えない値段のモンスター!?
「まったく、そいつには驚かされてばっかりだな。シルバーフォックスはランクDのモンスターだ。ただ、数が少ないのと素早く、幻術系の魔法を使って逃げるため、討伐レベルで言うとランクCともいわれてるんだ。しかも、そいつは尾が二つに分かれていやがる。通常のシルバーフォックスよりつよいはずだ。」
「尾が分かれたほうが強いんですか?」
「ああ、遥か東方に9尾のシルバーフォックスってのがいるらしい。そいつはランクSの冒険者5人のパーティーを返り討ちにしたって話がある。」
「す、すごいんですね」
「マスターがそいつをランクAというのもわかる気がするぜ。大事にしてやれよ」
「はい」
「で、そいつはどうする。本当なら講習中に獲得した素材はパーティーで分けるのが基本なんだが・・・」
バラックさんはそう言うとアルベルト達の方を見る。
「俺はいいぞ。金には困ってないし。」
「俺もいいかな。やっぱりモンスターは自分で戦わないとな」
「私も・・・いらない」
「ほお、アルベルトはともかくリブロスとセブンは本当にいいのか?売れは最低でも2000000ゴールドは固いぞ。」
バラックさんが意地悪そうに呟く。
それを聞いた瞬間、二人の、いや、リブロスの顔色が変わる。
「と、いうことは一人当たり400000ゴールド!?」
「違う、500000ゴールドだ。ちゃんと計算しろ」
バラックさんがツッコむがリブロスはすでに目がG状態になって踊っていて聞いていない。
セブンも表情こそは変わっていないが、その仕草がちょっと興奮している。
「リーン。これはみんなで分けないといけないみたいだな。残念だったな。」
アルベルトが二人の反応を笑いながら、僕をからかってくる。
「別に僕は構いませんよ。」
「なんだよ、つまらないな。それにしても、お前、本当に金への執着がないな。良かったな、二人とも。山分けにしてくれるってよ」
アルベルトがリブロスとセブンに向かって叫ぶと、リブロスが猛ダッシュでこちらに走ってくる。
「本当か、リーン。嘘じゃなよな。後でジョークでした、とか言っても無効だからな。」
リブロスは俺の両肩をがっしり掴むと、確認してくる。
肩が・・・痛い。
リブロスが踊りながら離れて行ったあと、セブンも恥ずかしそうに頬を赤めながらやってきた。
「・・・ありがと」
そっと一言小声で伝えてくると、走っていく。
相変わらず無表情だったが、ちょっと喜んでいた気がする。
ソラに感謝だ。
そう思って、ソラの方を向くと、ソラは疲れていたのか、欠伸をして眠たそうな眼でこちらを見ていた。




