ソラなしの戦闘は怖い
「よし、それじゃあ今からお前たち4人でパーティーを組んでモンスターと戦ってもらう。時間がおしているから1時間でリーダーと役割を決めてくれ。」
バラックさんはぶっきらぼうにそう言うと椅子に座って本を読みだした。
えっと、この4人で決めるんだよね。
僕たちは互いに顔を見渡す。
「リーダーはアルベルトさんでいいんじゃないですか。領主の息子ですよね。」
「俺が!いやだよ。いつも兵士を指揮してるからたまには指揮されてみたいんだよ。リブロスこそどうだい?」
「俺の頭で人を指揮できると思うのかよ。」
「じゃあ、セブンは・・・無理だから、リーンで決定だね。」
パーティーのリーダーはアルベルトとリブロスの話し合いでなぜか僕に決定してしまった。
「えっ。僕!?」
「リーン。頑張ってね。セブンもリーンでいいでしょう?」
セブンは黙って頷く。
これで4人中3人が僕をリーダーに推したことになった。
これ、断れないよね。
「それじゃあ、僕がリーダーをするね。それじゃあ、パーティーの役割を決めるから、いつもの戦闘スタイルを教えてもらっていいかな?」
「俺はいつも兵士が戦ってくれるから見ているだけだね。一応、親父に剣と斧の使い方は習ったけど、ほとんど使ったことがないね。」
「俺はこいつでいっつもガチンコ勝負だな。」
リブロスはそういうと、腰の剣を僕たちに見せる。
「セブンは?」
「ダガー」
セブンはポツリと呟く。
相変わらずポツリとしか喋らない。
「で、リーン。お前は?」
「僕は基本的にはソラにすべて任せてる。」
そういって、足元で寝ているソラを指さす。
ソラは一声「わん」と鳴くとまた、スヤスヤと眠る。
「その剣はは使わないのか?」
「この刀?いやー、買ってみたんだけど、僕、武器の扱いに慣れてなくて・・・。」
「お前、本当に冒険者か?」
リブロスには呆れられてしまう。
だって、今まで戦いとは無関係の世界にいたんだから仕方ないじゃん。
その後、いろいろ話し合ったのだが、これと言って決まらなかった。
何しろ、全員が近接武器だったため、工夫の使用がなかったのだ。
結局、リブロスとアルベルトが前衛、僕とセブンが遊撃、後衛はなし、ということになった。
後は、実際にみんながどのように戦闘をするのかを見ながらパーティーでの戦い方を考えることになった。
◇
「いいか、東の平原はウルフとホーンラビットが出現する。まあ、お前らなら大丈夫だと思うが、油断はするなよ」
「はい」
「おう」
「はーい」
「(コクリ)」
バラックさんの注意に皆、頷くが、その顔は自信に満ち溢れている。
どうやら、全員戦闘経験はあるようだ。
となると、この中で一番怪しいのは僕かな。
なにしろ、僕は一人ではホーンラビットすら倒せない。
まずはアルベルトが戦うことになった。
アルベルトは「行ってくる」と言うと、巨大な斧を片手で持つとホーンラビットに向かって近づいていく。
あの細腕のどこにそんな力があるのかと思うが、重量武器を軽々と持ち上げている。
さすが、あの領主の息子だ。
アルベルトの接近に気づいたホーンラビットが突進してくる。
アルベルトはその突進をヒョイッと避けると、渾身の一撃を叩きこむ。
うん。ホーンラビットは見事に肉塊とかした。
あれでは素材買取はしてくれないだろう。
「アルベルト。モンスター退治としては問題ないが、冒険者としては失格だな。それだと素材買取をしてもらえないぞ」
すかさずバラックさんの指導が入る。
アルベルトは「シマッタ」という表情でホーンラビットの肉塊を見ている。
そして、ソラも物欲しそうに肉塊を見ていた。
次はリブロスの番となった。
血の匂いを嗅ぎつけたウルフが2匹、こちらに向かって走って来た。
「よっしゃー。俺の番だ。」
リブロスはそういうと剣の抜いてウルフに向かって正面から突撃していった。
数分の死闘ののち、いくつかの擦り傷は負ったものの、見事リブロスは勝利を勝ち取った。
「もうちょっと、スマートに戦えないの?」
「アルベルトさんには言われたくないです」
アルベルトのツッコミにリブロスはジト目で返す。
確かに、斧で相手を叩き潰すアルベルトにスマートな戦い方、とか言われたくないよな。
そして、セブンの番になった。
セブンは慎重にモンスターを探していく。
しばらくすると、草むらで眠っているホーンラビットを1匹発見する。
セブンは音も無く近づくと、首筋に一気にダガーを振り下ろした。
一撃でホーンラビットを倒すと何事もなかったかのように戻ってきた。
「まるで暗殺者だな」
リブロスは呆然としながら、セブンの戦い方をそう例えた。
最後に僕の番が来た。
「リーン、がんばれよ」
リブロスから声援が飛ぶ。
僕は魔法鞄から解体用ナイフを取り出すと、ソラにお願いする。
「ソラ、いつも通りお願いね」
足下で寝ていたソラは起き上がると「ワン」と一鳴きすると走っていく。
数分後、ソラが尻尾を振りながら、ご機嫌そうに帰ってきた。
その口にはホーンラビットの死体が咥えられていた。
ソラは僕の足下にホーンラビットを置くと頭を突き出す。
「お利口だね。よしよし」
僕がソラの頭を撫でると、ソラは嬉しそうに体を摺り寄せてくる。
そして、次の獲物を捕まえにいく。
僕はその間に解体だ。
他の4人は呆然とそれを眺めていた。
しばらくすると、今度はウルフを咥えて帰ってきた。
ソラは僕の足下に置くと撫でてくれと頭を突き出してくる。
僕はソラの頭を撫でると・・・。
「ちょっと待て待て。どーなってるんだ、一体?なんでそんなにすぐにモンスターを狩ってこれるんだ?」
リブロスがソラと僕のやり取りにツッコンでくる。
「いや、そんなことを言われても、ねえ。」
僕はソラの顔を見ながら首を傾げる。
ソラはチート犬なので、これ位当然なのだが、ソラの実力を知らないリブロス達にすると不自然に見えるようだ。
「よし。みんな、それぞれの戦い方が分かったな。今度は4人で戦ってみてくれ。ただし、ソラはお休みな。そいつが戦闘に参加すると、訓練にならない。」
バラックさんの言葉にアルベルト達は「うんうん」と頷いている。
えっ。ソラ抜き。
「バラックさん、困ります。僕はどうすればいいんですか?」
「このままって訳にもいかないだろう。一度、やってみろ。せっかく周りにこんだけ仲間がいるんだ。いい練習の場だと思え。」
「わ、わかりました。ソラ、悪いけど、ここで待ってて」
ソラは「ワン」と吠えるとその場で寝てしまう。
僕は仕方なしに刀を抜いて構えるが、「ソラが戦わない」と思うと心細く不安に感じ、刀を持つ手がガタガタ震えてくる。
「おいおい、大丈夫か?」
アルベルトが呆れ顔で僕を見ている。
「ウルフの群れ」
突然、セブンの声が聞こえた。
見ると5匹のウルフがこちらに走って来ている。
そして、リブロスがウルフの群れに向かって突撃していた。
「おい、勝手に飛び出すな」
アルベルトが慌てて武器を持って駆けていく。
リブロスを助けるという意味では正しい行動なのだが、おかげで僕の周りに人がいなくなった。
ピンチだ。
5匹のウルフの内、2匹がリブロスとアルベルトをすり抜けてこちらに突っ込んできた。
「スマン。2匹逃した。そっちでどうにかしてくれ。」
アルベルトの声が聞こえる。
いやいやいやいや、僕にどうしろと?
「まかせて」
背後から突然声が聞こえた。
セブンの声だ。
振り向くとそこに彼女はいなかった。
どこに?
慌ててウルフの方を見ると、ウルフの背後からダガーを振るうセブンを発見する。
ダガーは寸分たがわず、ウルフの首筋を掻っ切る。
「後一匹」
セブンがもう一匹に狙いを定めるが、ウルフは僕の目の前まで迫って来ていた。
ウルフが僕に飛びかかってくる。
僕は恐怖のあまり、目をつぶって、刀を持った手を前に突き出していた。
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ウルフは?
恐る恐る目を見開いてみると、ウルフは真っ二つになっていた。




