ギルド長の憂鬱1
俺はギルド長室の自分の席で頭を抱えていた。
何で毎日毎日こんなに書類が溜まるんだ?
こんなことになると知っていたら、ギルドマスターになんかならなかったのに。
あの脳筋領主と冒険者をやっていたころが懐かしく思う。
チーム「力こそが正義」、俺が組んでいたパーティーだ。
俺と脳筋領主、ドワーフのジジイと、魔法馬鹿の4人でいろいろ伝説を作ったものだ。
海賊船の拿捕、ゴブリン軍団の殲滅、ドラゴン討伐、辺境の要塞の壊滅。
脳筋が領主になり、パーティーが解散するときにはランクSにまで上り詰めていた。
「はあ、あのころが懐かしいな。」
俺が愚痴をこぼしていると、お呼びがかかった。
受付でトラブルが発生したらしい。
冒険者登録をしに来た少年の従魔登録で揉めてるそうだ。
担当はエルルらしい。
全くあの素材フェチにも困ったもんだ。
この前も素材がどうのこうのといって、受付業務に支障がでていた。
おかげで他の冒険者からクレームが出て、大変だったのだ。
(登録なんざ、適当でいいんだよ。どうせ、登録内容なんざ実力が上がればほとんど関係なくなるんだ)
俺は心の中で愚痴を言いながら受付に急ぐ。
早く処理しないと、後で他の冒険者からのクレームが俺にきてしまう。
受付に着くとエルルと少年が何やら話している。
少年を一目見た瞬間、びっくりした。
(こいつ、本当に冒険者になるつもりか?どうみてもやっていけそうにないぞ。)
はっきりいて、才能のかけらも見いだせない身なりだった。
年齢も12,3といったところだろう。
冒険者になれるギリギリの年齢だ。
「おう、エルル。こいつか。テイマーじゃないのに従魔がいるって言ってるガキは。しかも、従魔は犬だって?」
少年が不思議そうな顔で見てくる。
少し怯えているか?
こんなんで本当に大丈夫か?
「ギルドマスターのリカルドだ」
「リーンです。よろしくお願いします」
丁寧に挨拶を返してくる。
この辺は他の野郎どもにも見習わせたいが、冒険者にとって一番重要なのは実力だ。
モンスターを倒せないとやっていくことはできない。
で、こいつの従魔(?)ってのはどれだ?
辺りを見渡すと、少年の足下に犬が一匹丸まって寝ていた。
こいつか?
いやいやいやいや、流石にこれはないだろう。
その辺の野良犬よりも弱そうだ。
一応、魔力も調べてみるか。
この程度の従魔なら魔力も量も・・・・・・!?
なんだ、このバケモノは。
俺が以前倒したドラゴンだってこんなに魔力を持っていなかったぞ。
「ふーん。確かに犬みたいななりだが、犬じゃねえな。・・・・・・見た感じランクAぐらいのモンスターと同程度の実力ってかんじだな。」
俺は冷静を装っていたが、内心は肝が冷えていた。
もしこの犬が街で暴れたなら、最悪この街は滅亡する。
この犬が本当に従魔なら注目すべきはこの少年だ。
この少年の言動一つに街の命運が掛かっているのだ。
ギルドマスターとして、この少年を見極めないといけない。
「それに比べて、こいつは弱そうだな。まあ、テイマーなら従魔が強けりゃ問題ないんだが、本人はテイマーじゃないと・・・」
俺は注意深く少年を観察する。
ぱっと見た感じ、礼儀正しい子供だ。
将来はわからないが、今現在で言うと全く問題なさそうだ。
「で、坊主。職業は何なんだ?」
「ステータスボードにはなしって書いてます」
「無職か。じゃあ、テイマーでいいんじゃないか。面倒くせー」
始めはビビっていて慎重になっていたが、だんだん馬鹿らしくなってきた。
従魔がいくら強くても少年自体はたいして強くない。
いや、弱いといったほうがいいだろう。
少年が道を踏み外してもいくらでも対処の使用がある。
そもそも、ギルドに所属するというのだ。
きっちり育てれば、将来ギルドを背負って立つほどの冒険者にもなるだろう。
そんなことを思っていると素材フェチが文句を言ってきた。
「マスター。それはダメです。資格がないのに勝手に名乗ったらテイマー協会の方から文句が来ます。」
「そ、そうか。それじゃあ、エルル。職は適当に決めて、登録しといてくれ。」
「い、いいんですか?」
「ああ、テイマーじゃなくても従魔を従えてるって例はないわけじゃない。非常にめずらしいがな。」
「わかりました。それでは登録しときますけど、何か問題が起きたら、マスターの責任にしますからね」
ホントに細かいやつだ。
まあ、エルルは素材フェチということを除けば、有能な奴だ。
(よし、こいつを専属にするか。)
俺はいろいろなことを考えながらギルド長室に戻る。
◇
ギルド長室に戻り書類と格闘していると、エルルが登録が終わったとやってきた。
「来い」と言った記憶はないが、エルルは報告すべきだと自分で判断したのだろう。
本当に優秀な奴だ。
「ギルド長。リーン君の登録は無事に終わりましたけど、これからあの子、どうするんですか?」
「ああ、そのことだが、お前に一任する。」
「はい?」
「お前が専属になって坊主を導いてやれ。」
「えー、いやですよ。私にメリットがないじゃないですか。」
「将来のエース候補だぞ。」
「そーかもしれないですけど、年の差、いくつあると思ってるんですか?あの子が結婚する年まで待っていたら、私はいくつになると思ってるんですか?」
エルルはプリプリ怒り出す。
結婚?こいつ、そんなこと考えて業務をしているのか?
・・・いや、受付嬢のほとんどがそうか。
大体優秀な奴は高ランクの冒険者とゴールインして辞めていきやがるからな。
「・・・メリットか。エルル、あいつの従魔の強さはランクA並のモンスター並みだぞ。坊主の専属になったら、あいつの納品する素材・・・」
「私、やります。」
急に目の色を変えたエルルは坊主の専属を了承した。
この素材フェチめ。
「わかっていると思うが、対応には気をつけろよ」
「わかってますって」
そうは答えているが、エルルの心はここに在らずといった感じだ。
大丈夫だろうか?




