異世界にも日本刀があった
「エルルさん、おはようございます。」
「リーン君、おはよう。今日はどうしたの。仕事?」
「いえ、ちょっと相談したい事がありまして。」
「相談?」
僕は武器屋での出来事を話す。
「えっと、つまり昨日は武器防具無しでキラータイガーと戦ったと・・・」
「はい」
エルルさんは頭を抱え込んでいる。
「リーン君。ちょっと聞きたいんだけど、今までに何か指導を受けたことがある?」
「指導ですか?」
「そうよ。戦闘訓練とか、野外探索訓練とか、野営訓練とかよ。」
キャンプをしたことはあるが、訓練じゃないよね。
「ないです」
「ご両親からは何も教わってないの?」
「両親・・・?」
両親の事を思い出そうとすると、頭の中に白いモヤがかかったかのようになり、顔すら思い出せない。
兄弟姉妹がいたのかも定かではない。
転生時になぜか神様にその辺の記憶は封印されているからだ。
エルルさんは僕が返答に窮したのを見て勘違いをしたようだ。
「・・・!?リーン君、ごめんぬ。」
「えっ?いや、あの。」
「ごめんなさいね。気が利かなくて。・・・ちょっと待っててね。ギルド長と掛け合ってみる。」
エルルさんはそう言うとギルド長室に走っていく。
エルルさんは絶対何か勘違いをしている気がする。
たぶん、僕の親が僕を虐待していたか、早くに亡くなったとかだろう。
単に神様のせいで前世の記憶が思い出せなかっただけなのだが・・・。
しかし、転生したことを隠していくには、何かこの世界での僕の設定を作っておかないといけないな。
今度考えておこう。
「リーン君、決まったわよ。」
エルルさんが疲れた表情で帰ってきた。
リカルドさんと何やら激闘があったようだ。
「何が決まったんですか?」
「次回の初心者講習の開催日よ」
「初心者講習?」
「ええ、新人冒険者のための講習会よ。参加費が1000ゴールド掛かるけど、冒険者に必要な最低限の知識を2泊3日のスペシャルメニューで教わることができるわ。本当はもっと先にする予定だったんだけど、3日後にしてもらったわ。」
「ありがとうございます。でも、いいんですか?」
「大丈夫。ギルド長を説き伏せてきたから。」
エルルさんはそう言って親指を立てる。
・・・いや、それでいいのか?
「3日後の朝、ギルドに来てね。たぶん4~5人は参加すると思うから。」
「わかりました。それで何も準備はしなくていいんですか?」
「いつも使う武器と防具だけでいいわよ。」
「えっ?その武器を何にすればいいか聞きたくて来たんですけど・・・。」
「・・・。ご、ごめんなさい。すっかり忘れてた。どうしよう。」
エルルさんは慌てふためいている。
仕舞には「何でもいいから買っといて」とまで言っていた。
「おう、困ってるようだな。どうしたんだ?」
突然、後ろから声を掛けられた。
後ろには見覚えのある冒険者が立っていた。
確か一昨日、助けに来てくれた冒険者の一人だ。
名前は・・・何だっけ?
「名乗って無かったな。バラックだ。・・・一昨日はすまなかった。調子に乗り過ぎた。」
バラックさんはそういうと頭を下げて謝ってきた。
「バラックさん。もう、気にしていませんから頭を上げてください。」
「すまん。まさかあんな金額になるとは思っていなかったんだ。金額を知った時、一気に酔いが冷めて青ざめちまった。そんで、すまねえ、逃げちまった。」
「いいですよ。払えない金額ではなかったんで。」
「そう言ってもらえると助かる。金を払えと言われても、そんなに持ち合わせはないんだ。」
バラックさんはそういうとすまなそうな顔をする。
確かにちょっと頭に来たが、さっきまではすっかり忘れていた。
「そ、そうだ。それじゃあ、僕にどんな武器が合うか一緒に考えてくれませんか?」
「武器?お前、武器もなしで依頼を受けていたのか!命知らずだな。」
「今まで、こういう経験がなかったんで。戦闘はすべてソラに任せる予定だったんですけど、やっぱり武器と防具くらい買ったほうがいいかな、と思いまして・・・」
僕は武器屋で言われたことを再びバラックさんに伝えた。
「それなら、ギルドの訓練場にある武器を一通り試してみたらどうだ?俺も付き合ってやるよ。」
「あっ!それはいい考えですね。」
復活したエルルさんが賛同し、訓練室の鍵を持ってくる。
「でも、いいんですか?今日の仕事をしなくても?」
「ああ、こいつには借りがあるからな。借りはすぐ返すのが俺の流儀だ。」
エルルさんの問いにバラックさんは男らしく答えた。
◇
ギルドの訓練室にはいろいろな武器が置いてあった。
「で、リーン。直感でいいから一つ選んでみな。」
バラックさんに言われて、武器を見ていく。
斧やこん棒などの腕力の入りそうな武器は向いていない気がする。
弓矢、投擲武器は練習が必要だろう。
となると、定番の剣か槍だろうか。
「見てるだけじゃなくて、手に取ってみな。」
バラックさんのアドバイスで槍を手に持ってみる。
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鉄の槍
オーソドックスな鉄製の槍
身長より長いけど使いこなせるの?
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鑑定さんの嬉しくない鑑定結果が頭に響く。
今、鑑定は使ってないですけど・・・。
でも、鑑定さんの言う通りかもしれない。
槍だと武器に振り回される未来が見える。
剣で良さそうなものを探してみる。
ショートソード、ダガーなどの短い剣なら使えそうだが、大剣などはまず無理だ。
「ショートソードか。片手で使える凡庸性の高い剣だな。ただ、それだと盾を装備することになるけど大丈夫か?」
「盾ですか」
「ああ、片方の手が空くからな。両手でもつなら大剣の方がいいだろう。」
うーん。何かビビビッと来るものがない。
さらに探していくと見慣れた武器を見つけてしまった。
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日本刀
異世界からの転生者によって持ち込まれた技術により作られた剣
硬くしなやかで折れない剣といわれている
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僕は日本刀を見つけた瞬間、見入ってしまった。
その美しい刀身は僕の心を鷲掴みにした。
「へえ、珍しい武器に決めたな。」
「やっぱり珍しい武器なんですか。」
「ああ、よくは知らないが、『俺は前世の記憶がある』とか言っていた頭のおかしい鍛冶屋が開発した武器だろう。一部で熱烈なファンがいるらしいな。」
どうやら転生した人がこの世界で広めたようだ。
それにしても、やっぱり転生者は頭がおかしい、と認識される様だ。
「まあ、武器が決まって良かったな。」
「えっ!そんな簡単に決めていいんですか?」
「何言ってる。直感は結構重要だぜ。それに俺の見た限り、体格とかで問題はなさそうだしな。」
「でも、僕が使えるかどうかとかは?」
「リーン。お前、馬鹿か?お前、武器は初心者なんだろう。お前に使いこなせる武器なんかあるはずないだろう。それなら、直感で決めても何ら問題ないだろう」
言われてみるとそうだった。
確かに僕に使いこなせる武器なんかない。
なにしろ、今まで戦いとは無関係なところで生きてきたのだ。
「バラックさん。ありがとうございます。それじゃあ、これで失礼します。ちょっと武器屋に買いに行きますんで。」
「お、おい。買いに行くって・・・。おーい。」
僕は武器屋に向かって駆けだしていた。
◇
僕は再び武器屋に来ていた。
「ん?昨日の少年か。どの武器にするのか決めたのか?」
「はい。刀はありますか?」
「刀!?ずいぶんマニアックな武器にしたな。ちょっと変わった武器だが、いいのか?」
「はい、とても綺麗だったんで。」
武器屋の店員は首を傾げながら、刀を数本出してくる。
「この店にあるのはこの3本だな。どれも1本100000ゴールドってとこだな。」
僕は3本の刀を見比べてみる。
微妙に形が違うが、僕には違いがよくわからない。
こういう時は鑑定さんの仕事だ。
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日本刀A
転生者が伝えし、技術により作られた刀
まだまだ未熟。
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未熟だって!?
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日本刀B
見よう見まねで作られた刀
見た目は刀だが・・・
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これは刀じゃないよね。
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日本刀C
異世界から持ち込まれた朽ちかけた日本刀
特殊能力はない
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朽ちかけたって・・・、だめじゃん。
ということで、この店にある3本はすべてダメだった。
「あの、他はないんですか?」
「うーん。ないことはないんだが、オーナーがまだ鑑定中なんだよ。」
「オーナー?ラックさんのことですか?」
「ん?オーナーを知っているのか?」
「はい、先日森の中で会いまして」
「もしかして、君、リーン君かい?」
「はい、そうですけど」
「オーナーから聞いてるよ。命の恩人だって。そうだ、もっといい刀がほしいなら、オーナーの所に行ってみなよ。」
こうして僕はラックさんを訪ねることになった。




