異世界の食べ物は美味しかった
「エルブラント商会!?あっ、そうだ。この前、ラックさんにはとてもお世話になったのでお礼を言っておいてください。」
「お名前をお伺いしてもよろしいですか?」
「あっ、僕、リーンと言います。よろしくお願いします。」
僕はお辞儀をすると防具屋を後にした。
それにしても、とってもいいものが手に入って良かった。
鑑定ができなかったら買おうとは思わなかったかもしれない。
なんかラックさんを騙したような気分になるが、これ位、別にいいよね。
その後、普段着の服や雑貨などをいくつか買うと、僕は宿に戻ることにした。
◇
宿に帰るとソラはベッドでぐっすり寝ていた。
僕に気づくとパッと起き上がり、嬉しそうに飛びついてきた。
「ソラ、ご飯はちょっと待ってね。」
僕がそういうと残念そうな顔をして再び寝てしまう。
どうやらとってもお腹が空いているのだろう。
晩御飯まではもう少し時間があるので、その間に昨日もらった魔法道具をチェックすることにした。
お詫びの品としてもらったのは二つだ。
魔法のランプと魔法の水筒だ。
--------------------
魔法のランプ
魔力でランプに火が灯り、周囲を照らす。
--------------------
この魔法道具は微妙なものだ。
普通のランプでもいいような気がするんだが・・・。
--------------------
魔法の水筒
中から無制限に水が出てくる
--------------------
これは結構便利そうなアイテムだ。
長旅には必需品のような気がする。
長旅をする機会があればだが・・・。
二つともそれなりに高価なアイテムなようだ。
魔法鞄を含めて3つも魔法道具を貰ったのは結構破格だったのではないだろうか。
しかも、話を聞く限りは領主の息子は悪くないような気がした。(本当か銅貨は分からないが・・・)
とりあえず、魔法鞄には日常品を中心に入れて、ソラの胃袋の中にはモンスターの素材屋などを中心に保管していくことにした。
そうしないと、ソラがいないときにお金が使えないもんね。
「よし、そろそろご飯を食べに行こうか」
その言葉を聞くと、ソラは勢いよく起き上がり、嬉しそうに僕の周りを飛び跳ね始めた。
これはソラのゴハンのダンスだ。
お腹が空いたことをアピールするためのジェスチャーだ。
「そっか、そんなにお腹が空いてたんだね。」
僕はソラの頭を優しく撫でるとお向かいの酒場に向かうことにした。
◇
酒場は昨日ほどではないが繁盛していた。
こうしてマジマジた見ると、この酒場は結構広い。
昨日はこの酒場に一杯の人が集まっていた。
僕は昨日、どれだけの人数に奢ったのだろう。
そんなことを考えながら空いた席につくと、僕が来たのに気づいた女将さんが慌ててやってきた。
その表情は少し曇っていた。
「リーン君、いらっしゃい。良かった、来てくれないかと思ってたわ」
どうやら女将さんは冒険者を止めれなかったことを少し気に病んでいるようだ。
そう思うなら止めてくれたらいいのに、と思わなくもないが、僕はそれほどお金に執着がないためそれほど気にしてはいなかった。
「別に気にしなくていいですよ。」
「そうかい、ありがとう。」
「そうだ、しばらくお向かいの宿屋に泊まるんでこれからもよろしくお願いします。」
「そうなのかい。わざわざご丁寧にありがとう。それで、今日は何にするの?」
「今日のおすすめ一つと、ソラ用のお肉一つおねがいします。」
「わかったわ。すぐに用意するわ」
そう言った女将さんの顔はちょっと晴れやかになっていた。
しばらくすると、女将さんが注文した料理を持ってきた。
「お待たせ。ソラ君には巨大オークのステーキね。そしてリーン君にはオークのシチューとパンね。後、このジュースはサービスよ。」
美味しそうなシチューが僕の前に置かれる。
ソラの前にも巨大なステーキが置かれている。
ソラは涎を垂らしながら、食べるのを我慢している。
「美味しそうだね。いただきます。ソラも食べていいよ。よし。」
僕はソラに食べる許可を出すとソラは巨大ステーキにがっつく。
瞬く間にステーキがなくなっていく。
とても美味しそうだ。
僕は目の前の料理に目をやる。
見た感じはビーフシチューだ。
もっとも、肉は牛ではなくオークだそうだが・・・。
オークって豚の人型のモンスターだよね。
僕はおそるおそるお肉を口に運ぶ。
・
・
・
・
・
!
オークのお肉は思ったよりも数倍美味しかった。
味は豚肉に近いが、豚肉よりも脂が乗っていてコクがあった。
かといって、しつこい味ではなく、いくら食べても飽きると言うことはなかった。
その辺のブランド豚よりも断然おいしかった。
シチュー自体の味もとても美味しかった。
味はやはりビーフシチューと同じであった。
トマトのうまみと酸味が程よいバランスでハーモニーを醸し出していた。
昨日の宴会の時も思ったが、この酒場の料理は本当に美味しい。
よく、異世界物のラノベで主人公が異世界の食事革命を起こしているが、この味を前にしたら、少なくとも僕には無理だろう。
だいたい、僕は料理がほとんどできない。
得意料理は目玉焼きだったレベルだ。
当然、料理のレシピなんて僕の記憶にはない。
あっという間に料理の皿は空になった。
当然、ソラも食べ終わっており、僕の足下で食後の睡眠を貪むさぼっている。
「どうだった?」
女将さんが食べ終わったお皿を片付けにやって来た。
「ご馳走様でした。とてもおいしかったでしす。」
「そうかい。旦那にも伝えとくよ。」
「旦那さん?」
「料理は旦那のドランが作ってるのよ」
ドランさんか。
あれ?そう言えば、僕、女将さんの名前を知らないな。
今更、名前を聞くのも聞きづらい。
「どうしたんだい?」
「えっと、女将さんの名前はなんて言うんですか?」
「そう言えば自己紹介がまだだったね。タニアよ。ちなみにこの酒場の名前はタニアの酒場よ。」
女将さんは笑いながら名前を教えてくれた。




