表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
3/3

電脳崩壊

私は包丁をお父さんの体に刺したまま二階に上がり、Iを使って電脳世界に没入した。

プライベートルームに入ると、いつも通りの自分の電脳空間が待っていた。


いつも通りの何も変哲も無い日々の日常がそこにはあった。

日常の中に非日常は存在しているのだ。

内在しているのだ。


それは当然のように一見思えることだけれど、かなり多くの人々は気づいていない事だと私は思う。

非日常は突如現れ、突然消える。

そんな泡みたいな存在なのかもしれない。


もう、私の居場所はここしかない。

ここにしか私は居場所を求めるしかない。


現実の世界はもう飽きた。

私はこの電子世界に救いを、オアシスを求めるしかない。


友人も家族もみんな消えてしまった。

私から、私の元から消えてしまった。


この世界にはもう、私の居場所はない。


だから、お願い。

止めて。

もう、私をこれ以上苦しませないで。

私の世界を壊さないで。


そう願う。

懇願する。


自分の体が、口が勝手に動く恐怖。

私はそんなこと全然思っていないのに。

からくり人形だ。操り人形だ。


神様、どうか、どうかわたしを助けて下さい。


―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――


目が覚めると、私はプライベートルームにいた。

「何で、私こんなところにいるの?」

なんでここにいるのかという経緯を記憶から辿る。


ああ。

そうか。

どういうわけかは分からないけれど、私は死んだんだ。

自殺をしたんだ。


現実世界に絶望をして、嫌になって抜け出したんだ。


自分の足を、腕を、手を動かしてみる。

思った通りに動いた。

動けた。

動いた。


歓喜が胸の奥から沸き上がる。


自分の体を思い通りに動かせる!!

よかったぁ。


でも、一体誰が私の体を動かしていたのか――――。


その時、裕也から電話が来た。


「なぁ、今日会えね?」

何よ。

このヤリチンめが。


でも、他にやることないし……。

電脳空間の中の話だし。

子どもが出来るわけでもない。


「ん。良いよ」


私が待ち合わせ場所に着いた時には、既に彼がいた。

「お待たせ。それじゃ、行こうか」


え?

いきなり?

まじで?

どんだけこの人私とヤりたいの?


まぁ、電脳世界の話だから良いっか。

いや、いや、いや、駄目。


それはだめ。

「い、いや。ごめん。私、ちょっと、用事を思い出しちゃった。また、今度でいい?」

「いや、だめだ。来い」

右手を強く引っ張られる。


「ちょっと、止めてよ!」

手を振り解いて、彼から逃げる。


「こらっ、待て!!」

このままじゃ、追いつかれちゃう。


街角へ逃げる。

人ごみの中を搔き分け、縫うようにして進む。


早く逃げなきゃ。

「おい。こらっ、待て!!」

このままじゃ捕まってしまう。


道外れに入る。

が、そこは行き止まりになっていた。


どうしよう。

このままじゃ私酷いことをされる。


「よぉ。やっと、追いついた」

 後ろを振り向くと、彼がいた。


このままでは捕まってしまう。

でも、逃げ場所が無い。


「この野郎。逃げやがって……」

鬼のような形相で迫ってくる。


来る。


恐怖が胸の奥から沸き上がって来る。

このままじゃやばい。

私――――。


ふと、横を見ると、鉄パイプが横たわっているのが見えた。


咄嗟に右手で鉄パイプを掴み、振り下ろす。

彼の頭部に当たり、鈍い音を立ててその場にうつ伏せになって倒れてしまった。


「はぁはぁはぁ……」

彼の頭にノイズが走る。


ジ……ジジジ…………。


やってしまった。

殺してしまったわけではないけれど、しばらくは動かない。


このまま。

早くこのまま逃げないと。


足を町中へ向ける。

やってしまった。

人を、人を――――。


暗闇の中、光を灯す街中を歩く。


もう、永遠にこの世界で私は生きていくしか無い。

どう生きていくのかは分からない。


もう、元の世界に戻る手段はないのだから。

これから自分がどこにいくのかさえも分からない。


永遠にこの電子の箱庭の中に閉じ込められた。

でも、もうそれでいいと私は思う。


これでいいんだ。

現実世界にいても仕方がないもの。


救いようがないもの。

そもそも、戻る必要なんてないんだ。














評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ