1章 ダイハ編(5)完
話を聞きつけ、森に隠れていた人々が町の広場に集まっていた。
テーブルには様々な料理が並べられ、みんな笑顔で歌っている。
――良かった。これで、ダイハの町は大丈夫。
ピロロリン♪
――キュノーからかな?
あたしはスマホを見た。
≪能力≫----------
主任レベル
体 力 C
精神力 C
魔法力 D
賢明さ A+
勇敢さ A
俊敏さ D
剣の技術 C
格闘技術 D
魔法技術 D
キレート、フリーズ、ホールド
特殊能力 S
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「レベルアップしてる! 魔法も使えるの?」
そこにラトバスが走ってきた。
「ミキ様! ミキ様のおかげで、あっと言う間に薬の合成が出来ました。今は、重篤な患者から点滴をはじめています。」
クオーレも現れ、
「ミキさん、いや、勇者様。なんとお礼を申し上げれば良いか、言葉もござ……。」
ふらつくクオーレ。
「クオーレさん!」
倒れそうになった彼女の身体を抱きかかえる。
――クオーレさんは心身ともに、疲労のピークに達していたんだ。
「ラトバスさん、クオーレさんを早く診療所へ!」
「はい、かしこまりました。おい、お前たちも手伝ってくれ!」
人々が集まり、クオーレさんを運び込む。
あたしも診療所に入り、リーザちゃんの様子を見に行った。
リーザは、点滴をしていない。
「リーザちゃん? なんで治療を受けてないの?」
「……ゆ、勇者様、ありがとうございました。……わ、私のことよりも、町の人々を優先するように、と母に伝え……」
目頭が熱くなる。
こんないたいけな子どもが、なんで犠牲にならないといけないの?
ピロン♪
“キレートは、毒素を取り除く魔法じゃ。”
「キュノー、ありがとう!」
あたしは早速リーザに向かって、
「キレート!」
と呪文を唱えた。
みるみる血色が良くなっていく。
「リーザちゃん? 大丈夫?」
今度ははっきりと目を開けた。
「勇者様、重ね重ね、ありがとうございます。身体が楽になりました。」
起きあがろうとするリーザ。
「まだ、寝てて。」
あたしはあわててリーザを寝かせる。
「母は?」
「クオーレさんは、今、休んでもらってる。二人ともよく頑張ったね!」
ボロボロとリーザが大粒の涙をこぼし、あたしに抱きついてきた。
「うえーん! ミキさぁぁん!」
リーザはようやく年相応に泣きじゃくった。
しばらくして、泣き疲れたのか、リーザはまた眠りについた。
病室を出ると、ラトバスやタフトも男泣きをしていた。
「ちょっと、あんたたちまで、なんで泣いてるの?」
「リーザ様は、ヴェスタ様がかわいがっておられ、お二人ともご自分の人生をかけて、ダイハの行く末を案じておられました。」
「リーザ様は、私にとっても孫のようなもの。あまりにも不憫でな。」
「そうよね。あの年で、全てを抱え込んでしまうのは、あまりにも酷よね。」
あたしたちは、深いため息をついた。
アトレの病室には、デルタと両親がいた。
アトレは点滴治療を受けていた。
「あぁ、ミキ様! おかげで娘のアトレもようやく起きあがれるまでになりました。」
父親が、あたしの前に膝をついてお礼を言う。それに続き、母親、デルタも膝をついた。
「いや、みなさん、顔をあげてください。立ってください。」
あたしは三人を立たせ、ラトバスに、
「アトレちゃんの点滴を外してくれますか?」
と言った。
三人は驚いた顔をしたが、ラトバスはすぐに点滴をしていた針をアトレの腕からぬいた。
「ありがとう、ラトバスさん。」
あたしはアトレに向かって、
「キレート!」
と唱えた。
「え? あれ? お父さん、お母さん、私、身体が軽くなったよ!」
――良かった。アトレにも効いたようだ。
両親は、アトレを抱きしめた。
「ミキ、いや勇者様、ありがとう。本当にありがとうございます。」
デルタがまた土下座をする。
「だから、そんなのは、やめてって言ってるでしょ! 困ってる人がいたら助けるのは当然のことでしょ! あたしは、当たり前のことをしただけで、勇者でも女神でもないの!」
「ミキさん、カッコいい!」
アトレが叫ぶ。
「私、ミキさんみたいな女性になる!」
「アトレちゃん、カッコいいのは、あたしじゃない。あなたのお兄さんだよ。あなたを助けるために、頑張ったんだから!」
デルタは顔を真っ赤にした。
あたしは、診療所にいたすべての子どもやお年寄りに「キレート」をかけた。
その度ごとに、家族から感謝された。
診療所を出て、共用井戸へ向かう。
その途中でも、町の人々から声をかけられた。
井戸の側では、大型蒸留器が稼働している。
――キュノー!
ピロン♪
“なんじゃ?”
――魔法は井戸にも使えるの?
ピロン♪
“たぶん、使えると思うが……。”
――たぶんって何よ?
あたしは井戸をのぞきこみ、
「キレート!」
と唱えた。
もちろん、反応はない。
釣瓶を引っ張りあげ、中に入っていた水を掬って飲んでみた。
「あ、美味しい!」
蒸留器の作業をしていた人々にも、水を飲ませた。
「女神様、ありがとうございます! もう、これで蒸留しなくても大丈夫ですね!」
「うん、もう、火を消しても大丈夫よ!」
それを聞いていた、町中の人々から歓声があがる。
あたしは、みんなからテーブルの上座に座らされ、手厚い歓待を受けた。
気がつくと、自分のベッドの上にいた。
かなり飲まされ、どうやって帰ってきたのかも覚えていない。
「頭痛い。久々の二日酔いだ。」
グガーピー、グガーピー……
床の上で、ハゲオヤジがぬいぐるみを抱えて、気持ちよさそうに寝ている。
「おーい、オジサン?」
自分の声が頭に響く。
――お酒も、アセトアルデヒドだから、魔法は効くのかな?
「キレート!」
――やっぱ、無理よね。
頭のズキズキとした痛みが引いていく。
――あ、すごい!
あらためて大きな声で、
「ねぼすけオヤジ、起きろ!」
キュノーは驚き、あわてて立ち上がった。
「なんじゃ? 相変わらず、ひどいやつじゃなぁ。」
「女の子の部屋で、寝ているオジサンの方がヤバいんですけど?」
「おまえが呼びつけたんじゃ。べろんべろんに酔っぱらって、何度も『キュノー出て来い!』と叫んでおったぞ? それでやむを得ず、ここに来たんじゃ。」
「え? そうなの?」
あたしは、ぼんやりと思い出してきた。
デルタたちに抱えられて帰ってきたあたしは、解決した祝杯をあげようと、キュノーを呼んだのだった。
「思い出したか? 酒を飲めだの、クロワッサンを食えだの、おまえは酒癖がわるいのぉ……。」
あたしは恥ずかしくなった。
――まさか、ダイハの町でも?
「いいや、ダイハではまだしっかりしておったぞ?」
「じゃあ、帰ってくる途中で、酔いが回ったのかな? あはは……。」
キュノーは水晶玉に変わる。
「見てみよ。」
ダイハの町は、道ゆく人々の表情が明るく、はじけていた。
クオーレさんとリーザちゃんも、町の人たちに挨拶している。
アトレちゃんも退院できたようで、お父さんから肩車をしてもらってる。
――良かった。みんな元気そう。
「ミキよ、おまえのおかげじゃ。わしからも礼を言う。ありがとう。」
「なによ、改まって……。まだ、魔王とやらがいるんでしょ? 魔王をやっつけるまで、頑張るわよ!」
二日後、デルタやクーを呼んで、荷車いっぱいの食料と、バスケットいっぱいのクロワッサンを持ってダイハに向かった。
クオーレとリーザは新しい家に住んでいた。
「ミキさん、折り入ってご相談があります。」
クオーレが頭を下げる。
「はい。なんですか?」
「リーザが、あなたと共に旅をしている姿が見えたと言うのです。」
「あたしと?」
リーザがうなずく。
「父の能力を受け継いだといっても、この子はまだまだ世間知らずです。足手まといになるかもしれませんが、どうかリーザをよろしくお願いいたします。」
「でも、リーザちゃんがいないと、この町は?」
「リーザが言うには、これからしばらくはダイハの町は安泰だと。」
リーザがニコッと笑う。
――キュノーが言ってた仲間って、リーザちゃんのことか。
「わかりました。責任持って、リーザちゃんをお預かりします。」
「ミキさん、よろしくお願いします。」
クオーレに続いて、リーザが、
「ミキさんと一緒に頑張ります。よろしくお願いします。メソメソする男たちには負けてられません!」
「ぷっ、あはははは! リーザちゃんも素質あるね! 一緒に頑張ろう!」
ダイハの町に笑い声が響いていた。
読んでくださって、ありがとうございました!
これにて「ダイハ編」は終わりです。
「2章 ウーディ編」も構想中です。
続きを読みたい!
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