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1章 ダイハ編(1)


あたしの家の周りは、うっそうとした森におおわれている。

ダイハに行くには、いや、他の町に行くには、この森を通らなければならないようだ。

≪地図≫アプリでも、しばらく森が続く。


静かな森の奥から

カーン、コーン、カーン、コーン

という音が響いてきた。

しばらくすると、ドスーンと腹の底に響く音が聞こえた。

――木を切っているのかな?

さらに進んで行く。


おとぎ話に出てきそうな小人たちが、斧を振り上げて木を切り倒していた。

「あ、かわいい!」

あたしの声が聞こえたのか、小人たちがこちらを見る。

いや、見るというより、睨んでいる。

――やば! 怒ってる?

「みなさんのことじゃなくて、ほら、この花がかわいいって……」


小人たちが、斧を振り上げて、こちらへ向かって来る。

「きゃーっ! ちょっと待って! なんで?」

あたしは走り出した。

小人たちは、殺気だってる。

――なんでこの世界の人は、こんなに喧嘩早いの?


そんなことを考えながら走っていると、木の根に引っ掛かって、勢いよくこけてしまった。

「いったーい! もうっ、なんなのよ?」

擦りむいた膝をさすっている間に、小人たちに取り囲まれた。

「おまえはアルキルの手先か?」

「変な格好をしてるから、間違いない!」

「アルキル許さないぞ!」

――かなり興奮してるな。どうしよう。

「おいっ! なんとか言え!」

「アルキルの仲間だろ?」


「ちょっと待ってください。あたしの名前は、ミキ。怪しい者ではありません。」

「そんなこと、信じられるか!」

「なんで逃げたんだ?」

「その変な格好はなんだ?」

小人たちは、あちこちからまくし立てる。

「あーもー、そんなに一気に聞かれても答えられるわけないじゃない!」

「なんだとー! やるのか?」

「ちょっと待ってって! じゃあ、こうしましょう。あなたたちが、一つ質問する。それに、あたしが答える。そして、あたしが質問するから、あなたたちが答えて!」


小人たちは、お互いに顔を見合わせる。

「おまえは誰だ?」

「あたしは、ミキ。この森の向こうに住んでいるの。あなたたちは、何をしていたの?」

「木を切ってたんだ!」

「農地を広げないといけないから!」

「アルキルが町をむちゃくちゃにするから!」

「おまえもアルキルの仲間だろ!」

また、あちこちからわめきだした。

「ちょっと待って! なんで一人ずつ待てないの! お互いに譲り合う気持ちがないとダメでしょ! 質問は一つずつ!」

小人たちは、ビクッとなって、また顔をみあわせた。


「おまえは、何をしていたんだ?」

「あたしは、ダイハの町に人探しに向かっていたの。次は、あたしの質問。アルキルって誰?」

「なんで、俺たちの町に来るんだよ!」

「悪魔だ!」

「誰を探してるんだ!」

「死神だ!」

「しらばっくれるのか!」

「いい加減にしないと、怒るわよ? 質問に答えてくれる?」


小人の一人が、一歩前に出てきた。

「半年くらい前に突然現れて、俺たちが作った食料を要求してきた。」

「長老が断ったんだけど、アルキルは長老を殺したんだ。」

――一人ひとりが喋らないと気が済まないのね……

「アルキルは町に呪いをかけて、食料を渡さないと、一人ずつ殺すって……」

「町の力自慢たちが、アルキルと戦ったけど、すぐにやられて……」

「みんな寝たきりになったんだ……ううっ」

小人たちは、泣き出した。


「だから、農地を広げないといけなかったのね。」

「アルキルが来てからというもの、町の畑や田んぼは、収穫量が減ってしまって……」

「子どもたちの中にも、寝たきりになってしまうのがでてきたんだ……うわーん」

今度は一斉に声を上げて泣いた。

「泣かないで! 他に質問はある? もし、なければ、あたしをダイハに連れていって? 何か力になれるかもしれないし。」

「本当か?」

「どうするんだ?」

「おまえに何ができるんだ!」


あたしは氷の剣を出して、小人たちの斧をなぎ払った。

「やっぱりアルキルの仲間だ!」

「変な魔法を使うぞ!」

「俺たちどーすればいいんだーっ」

また泣きだした。

「力になるって言ってるのに、あなたたちが信じてくれないからでしょ! だいたい、男どもが揃いも揃ってメソメソするな!」

小人たちは、驚いて顔を見合わせ、シュンとした。


小人たちと一緒にダイハに向かう。

「アルキルってヤツは、まだ町の中にいるの?」

「長老の屋敷に住み着いたんだ。」

「長老の屋敷がだんだん黒くなってる。」

「長老がかわいがってた、お孫さんのリーザ様も寝たきりになっちゃった。」


「そっか。子どもたちまで……」

「リーザ様は、町の診療所に入院してる。」

「でも、診療所もいっぱい。」

「呪いを解かないと、ダメなんだ。」


「呪いって、どんな呪い?」

「最初は、吐き気、腹痛。」

「次に、動けなくなる。」

「最後は、おかしくなって死んでしまう。」

――ん? どこかで聞いた? あれ? なんかで読んだ?


「さあ、ここがダイハの町だ!」

町の大きさはかなり広いようだが、人影がまばらだ。

道行く小人たちも、生気が感じられない。

「あなたたちは、どんな生活をしていたの?」

「俺たちは、いろんなモノをつくりだすことが仕事さ!」

「加工したり、工作したり、掛け合わせて新しいモノをつくったり……」

「へぇー、すごいね!」

小人たちは、ちょっとドヤ顔を見せたが、すぐに暗い表情になった。


小人の一人が、

「ミキ、ちょっと診療所に行ってみるか?」

「えぇ、連れて行ってくれる?」

というと、他の小人たちは、めいめい自宅へ戻って行った。

「俺は、デルタ。よろしく。」

「よろしくね! でも、あなたの身体は大丈夫なの?」

「あぁ、ちょっと膝が痛かったりするが、アトレと比べれば、大したことはない。」

「アトレ?」

「あぁ、妹だ。1ヶ月前から入院してる。」

「そっか。それはツラいね。でも、ツラいからって、八つ当たりなんかしたら、妹さん悲しむんじゃない?」

「森の中ではすまなかった。ミキの言う通り、妹は入院中でも俺や仲間のことを心配するような、優しいやつなんだ……」

デルタの目に涙が浮かぶ。

「クソっ! アルキルさえいなければ!」

「そうやって、怒りをコントロールできないのはダメ! かわいい妹さんに心配かけるだけだから。」

デルタはぐっと拳を握る。


町に一つしかないという診療所に着くと、建物の外にまで苦しそうな人々で溢れている。

待合室にも廊下にも、小人たちが寝そべったり、壁に寄りかかったりしている。

デルタは病室のドアをノックして、

「アトレ、起きてるか?」

「うん。今日はだいぶ調子がいいみたい。……あれ? その人は?」

「あぁ、森で会ったミキさんだ。」

「初めましてアトレちゃん。」

あたしが右手を差し出すと、血色の良くない、か細い手を差し出して、握手をしてくれた。

――とても手が冷たい。思ってたよりも、状態は良くないんだ……。


「兄さん、お水をとって。」

デルタがコップに入った水を差しだしたとき、あたしは違和感を覚えた。

「ちょっと、待って! その水、なんか変じゃない?」

「えっ?」

デルタはコップをまじまじと見る。

「ちょっと貸して! においは……。」

あたしは鼻を近づけてみたが、変わったにおいはしない。

「少し飲んでみてもいい?」

デルタが答える。

「あぁ、水は汲みに行けばいいし。」

あたしは口の中に水を含んだ。

――オエッ! なにこれ!

「オ@%&#!*?」

吐き出したいが、コップに戻すわけにはいかない。

トイレはどこか? と尋ねたつもりだったが、デルタは驚き、おろおろする。


「ミキさん、おトイレは病室を出て、左側にあるわ!」

アトレが代わりに答えてくれた。

「あr*¥!!」

あたしはトイレに飛びこみ、水を吐き出した。

――やっぱり、この水、何かおかしい。超硬水のミネラルウォーターの硬さより、さらにひどい「重さ」を感じる。

ポケットからスマホを取り出し、アプリを探してみる。


-------------

《能力》

《装備》

《情報》

《地図》

 ・

 ・

 ・

-------------


――《情報》かな?

タップしてみると、


-------------

ダイハ診療所(現在休診中)


・医師1名

・看護師3名(不在)

・祈祷師1名(不在)


・病床15(現在満床)

 ・

 ・

 ・

-------------


――現在地の情報ね。違うのよ……この水の成分を調べたいの。

ピロン♪

“《分析》を使ってみよ!”

「なんであんたは勝手に人の心を読むのよ! それよりも、リフォームは終わったの?」

ピロン♪

“まだじゃ。おまえの要望が重い……”

「早くしてよね! でも、アプリのことありがと!」

ピロン♪

“ツンデレじゃな(笑)”

「うるさいわね! 早く引っ越し終わらせてよ!」

《分析》をタップすると、写真撮影の画面が出てきた。

撮影ボタンを押す。「カシャ」という音ともに、画面上に成分分析が表示された。

「なるほど、そういうことか……。」


あたしは急いでアトレの病室に戻り、

「デルタ、アトレちゃんが動けなくなったのは、この水が原因よ!」

「え? どういうこと?」

「町のみんなも、同じような状態なんでしょ? この水はどこから汲んできてるの?」

「あ、ああ。町の真ん中にある井戸からくみ上げている。町中のみんながこの水を飲んでいるんだぞ! どうすればいいんだよ?」

「今、この町のリーダーは誰? 長老さんの代理の人とか?」

「うーん……。」

デルタが答えあぐねていると、アトレが、

「リーザちゃん!」

「じゃあ、その子に会わせて!」

「いや、でも……」

「この診療所に入院してるんでしょ? もういい、自分で探すから!」


診療所の二階に上がると、部屋の前で衛兵のような小人が二人、ヤリを構えていた。

「何者!」

「ここから先は関係者以外立入禁止だ!」

「落ち着いて。私はダイハの町やリーザちゃんを助けたいの。」

「怪しいヤツ!」

「やめろ!」

そこにデルタが走ってきた。

「おい、デルタ! こいつは誰だ?」

「あの、えーっと、森で拾ったんだ。」

「あたしはモノじゃないわ! ミキよ。ミキっていうの! 早く通して!」


騒ぎに気づいたのか、中からドアが開いた。

「あ、クオーレ様。今、怪しい者がおりますので、どうか部屋の中にいらしてください!」

クオーレと呼ばれた女性は、あたしの顔を見て、

「先ほど、リーザを助けると仰ってましたが、どういうことですか?」

「は、はじめまして。あたしはミキと申します。あの、みんなが苦しんでいる原因がわかったんです。」

衛兵がこちらにヤリを向ける。

「控えよ! この御方は長老ヴェスタ様のお嬢様で、リーザ様のお母上様であらせられるぞ。」

「あなたこそ控えなさい。トール!」

「は、失礼致しました。」

衛兵たちはヤリを収めた。

「ミキさん、中へどうぞ。」


病室の中では、唯一の医者らしき小人が、女の子の脈をとっていた。

「リーザちゃん? 大丈夫? あたしの声、聞こえる?」

リーザは、ゆっくりと目を開けて、ほほえんでくれた。

「リーザは、父からの能力を受け継ぎました。自分が、このような状態になることも、また、ダイハの町を救う勇者が現れることも……。貴女のことですね。ミキさん。」

「いや、勇者とか、そんなんじゃないんです。私は、ただ……。」

「えぇ、わかっています。父ヴェスタは、未来のことを予言できる能力を持っていました。魔物が現れることも、貴女が現れることも、私が幼い時から、父に言われてきましたから。」


「長老様は、ご自分の死も?」

「はい。運命は変えられないと申しておりました。ただ、いつも『私の死後、必ず勇者が現れる。おかしな着物を着ているが、その者は必ずダイハを守ってくれる。』と。」

――おかしな着物……そうよね、ジャージなんか見たことないわよね。

「それで、長老様の亡き後、リーザちゃんが?」

「そうなの。私には父の力は受け継ぐことができなかった。その代わり、リーザには受け継がれたの。だけど、今はその能力さえも十分には……。」

「そうですか……。町のみんなを助けるためには、たくさんの協力が必要なんです。それで、リーザちゃんに会いにきたんですが……。」

クオーレはうなずき、病室のドアを開け、廊下に立っていたデルタに何かを告げた。

「……かしこまりました。すぐに手配致します。」

そう言って診療所の階段をかけ降りて行った。



読んでくださって、ありがとうございました!

週に1度、更新する予定です。

次回は、2月17日に更新します。


続きを読みたい! と感じてくださったら、評価やコメントなどをよろしくお願いいたします。

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