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クルマ好きの営業の女の子が、なぜか世界平和の救世主となった話。  作者: ルザン氏
序章 異次元の世界に召喚されちゃった!
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序章 異次元の世界に召喚されちゃった!

「今日も1台お買い上げいただきました~♪」

あたしは、ミキ。

就職氷河期の中、念願の自動車ディーラーに就職した新人営業ウーマンだ。

愛車に乗って、営業先のお客様の自宅から会社に戻っている。


幼いころから、ミニカーやプラモデルにハマっていて、同級生とは全く話が合わなかった。

アイドルより、ドラマより、ネットでクルマのサイトを見ている方が幸せだった。

授業中も、窓から見えるクルマを眺めてばかりいた。


入社して半年。最初の1ヶ月は研修やデスクワークばかりで疲れたけど、だんだんと営業のコツがつかめてきて、1週間に3台も売れるようになってきた。

大好きなクルマに囲まれて、しかも給料ももらえて、今、最高に幸せだ。


突然、右側から大きなクラクションが鳴った。ふと信号を上げ

「ヤバ!赤だ……」

次の瞬間、大型トラックに追突され、愛車もろとも吹き飛ばされた。





「……よ。」


「……れし者よ。」

なんか聞こえる。

「うぅ……」

頭が割れそうに痛い。

ゆっくりと目を開けると、明るい光が飛び込んできた。

まるで、プロジェクターの光を直視しているような眩しさだ。

「何? ココ、どこ?」

さらに光が増し、あたしは腕で顔を覆った。

「よく来た。選ばれし者よ。」


光の方から声がする。

「あんた誰? ココはどこなの?」

――てか、あたし、トラックにぶつかって……どうなったの?

「選ばれし者、汝の名はミキ。間違いないか?」

「え? 何? そうよ、あたしはミキよ! あんた誰よ? いるんなら、顔ぐらい見せなさいよ? ココどこなの? あたしはどうなったの? ねぇっ、教えなさいよ!」

「……。」

「何とか言ってよ!」


光が差す所に人影が見えた。

その影が近づいてくる。

「! アハハハハハっ!」

小太りで、黒縁メガネ、うっすい髪の毛を無理やりてっぺんに乗せたような、見事なバーコードハゲ。

しかもボタンがはち切れそうなスーツを着ている。

あたしは、腹を抱えて爆笑してしまった。

「……。」

脂でテカった頭頂部が、なおさらまぶしい。

「ハハハ、ヒィヒィ……オジサン誰よ?」

「わしは、創造神キュノーである。」

「ソーゾーシンキュノー? 意味わかんないから、分かりやすく言ってよ!」

「汝の世界では、神と呼ばれておる。」

「ぶふーっ!」

あたしはたまらず吹き出してしまった。

「アッハハハっ……カミ? 髪ないじゃん?」

「……。失礼なヤツじゃ。」

キュノーは黙ってしまった。


「あ、怒った?」

「……。」

「スミマセン。ちょっと意外だったから。」

「……人選を失敗したかのぅ」

「あの、あたし、事故って、何がなんだかわからないんです。教えてくれませんか。」

「よく聞くがよい。お前は、知恵と勇気がある者として、私が召喚したのじゃ。」

「ショーカン?」

「わしは、キュノー。お前たちの世界でいう神様で、この世界、モブルを作った。そして、この世界を平和に導く者、つまり知恵と勇気がある者を呼び出したのじゃ。」

「何を言ってるの? 私は、日本に住む、どこにでもいるフツーの人間よ? モブルなんて聞いたこともないし、どこの国なの? そもそも、あんた本当に神様? 電車でよく見かける窓際サラリーマンにしかみえないんだけど。」

「お前は、本当に失礼じゃなあ? わしには姿などない。お前がわかりやすいように、仮の姿をみせておるのじゃ。」

「なら、もう少しイケメンなほうがいい!」

「あーもーうるさい。話が先に進まぬ!」再び強烈な光が、キュノーを包んだ。


バーコードハゲのオッサンが消え、青白く輝く水晶玉のようなものが現れた。

「お前たちの世界とは全く異なる次元の世界じゃ。見てみるが良い、この世界を。」

あたしは、水晶玉をのぞき込んだ。

多くの人が戦っている。人間のような姿もあれば、全身毛むくじゃらで動物のような人の形をした姿も見える。

別のところでは、ローブを羽織った人が、相手に火の玉を投げつけている。

「これが、この世界じゃ。」

「なんでみんな喧嘩してるの? 仲良くすればいいのに……」

「そうなんじゃ。平和な世界を創造したつもりじゃったが、このように領土を巡って争うようになったんじゃ。」

「あんた神様でしょ? なんとかできないの?」

「わしは、創造神でしかない。ゼロからイチを創りだすことはできるが、ゼロにすることはできないのじゃ。」

「じゃあ、ド○えもんみたいに便利な道具をつくればいいじゃん。トウキョーのように土地が足りないなら、土地を広げてやればいいだけじゃないの?」

「ド○えもん? なんじゃそれは? わしもこの世界の住人が便利になるようにと、鉱物資源や魔法を使える能力を与えてきた。ところが……」

再び水晶玉が光った。

そこに映し出されたモノは、剣や盾など戦闘用の道具であったり、殺傷のために炎や氷を投げつける姿だった。

「あーね。あたしたちの世界でも、同じようなことが起きてたね……」

あたしは、ため息をついた。


「ちょっと待って! このモブルかモブキャラかわかんない世界に呼ばれたのが、なんであたしなの?」

「わしは、知恵と勇気がある者を召喚したのに、おまえが出てきたんじゃ。」

「なに、そのハズレみたいな言い方。勝手にあたしの人生を奪っといて、何言ってんのよ?」

今度は、プロジェクターのように水晶玉から映像が飛び出してきた。

「あ、あたしだ……」

そこに映し出されたのは、交差点で信号無視をする直前の様子だった。

大きなクラクションが鳴り響いた直後、私の車はみごとに宙に浮き上がり……クルマごと消えた。

慌てて降りてきたトラックの運転手や他のドライバーたちは、みな唖然としている。

「……あの時点で、私の人生は……」

「そうじゃ。わしは、なにもおまえの人生を奪ったわけではない。おまえは生まれ変わり、このモブルで救世主となるのじゃ。」

「生まれ変わり? また赤ちゃんからやり直し?」

「そうではない。おまえはその姿のまま、おまえの持つ知恵と勇気をもって、モブルで生きる。ただし、わしの能力の一部を与えよう。」


あたしは、いつもの営業用のスーツとパンプスのままだった。

「このスーツ姿のまま? ずっと?」

「……それは動きづらいじゃろう……おまえのバッグの中にある、黒い、何というか知らんが……出してみよ。」

あたしは横にあったバッグからイモビライザーキーとスマホを取り出した。当然、スマホは圏外。電池もヤバい。

愛車もないのに何に使うんだろうか? ふと《開》スイッチを押した。

「きゃっ!」

キーの先端から紅い炎に包まれた剣が出てきた。

「なにこれ? どうやって火を消すの?」

「もう一度同じことをすれば良い。」

《開》を押す。

――消えた。

もう一度押す。再び剣が出てくる。押してまた消す。

好奇心から《閉》を押してみた。

今度は氷の剣が出てきた。

「すごい! なにこれ?」

「それがきっとおまえの命を守ってくれるはずじゃ。ほれ、そこに落としたその四角いのをもってみい。」

あたしは、スマホを拾い上げた。スマホが光り出す。

「そいつには、永遠の命を与えた。おまえがこれからモブルで生きていくうえで、きっと役に立つじゃろう。」

たしかにフル充電になっている。

画面には変わったアプリのアイコンが並んでいる。


-------------

《能力》

《装備》

《情報》

《地図》

 ・

 ・

 ・

-------------


「ほれ、今着ているモノを変えるには、その《装備》を押すがよい。」

言われたとおりにタップしてみる。


《装備》-----

 営業用スーツ

 パンプス

 肌色の下着

 ストッキング

 安いピアス

-------------


あたしは恥ずかしくなり、叫んだ。

「なんで安いピアスとか、下着の情報まで出るの! あんた、ストーカーなの? 変態オヤジ!」

「あーもーうるさいのお。自分で装備を変更できるから、変えてみるのじゃ。」


《装備》-----

 戦士の鎧

 戦士の盾

 戦士の剣

-------------


「うわっ! 重! もっと動きづらい!」


《装備》-----

 魔術師の服

 魔術師の杖

-------------


「なんか、これ、やだ。……露出狂みたい。」

肌着もなにも着けずにローブが一枚あるだけだった。


《装備》-----

 ジャージ上

 ジャージ下

 革の靴

 肌色の下着

-------------


「ださ。中学校の体操服じゃない、これ。でも、まぁ、いいや。これにしよ。」

あたしはバッグから髪留めのゴムを取り出し、後頭部でキュッと結んだ。

  

「で、何から始めたらいいの? きゃあ!」

突然目の前が暗くなり、どこかにドサッと投げ出された。

「ここ、どこ?」

窓枠からほのかに光が入ってきている。その光の先にはベッドとサイドテーブルがある。

あたしは、モバイルライトを灯して、あたりを見回した。

――部屋の中? 誰の家?

ピロン♪

“そこがおまえの新しい家じゃ”

ピロン♪

“世界を平和に導いてくれ”

ピロン♪

“よろしく頼んだぞ!”

「なんで神様がラ○ン送ってきてんのよ!」

ピロン♪

“これは、わしとおまえしか使えない設定じゃ(笑)”

「(笑)じゃないわよ。そんなグループ設定、イヤだぁ……」



――暖炉がある。

薪はあるが、ライターやマッチなどがない。

部屋も暗いし、あかりをとりたいのに。

ピロン♪

“炎の剣があるじゃろ?”

「いや、なんか違う。無駄遣い感が半端ないんですけど……」

仕方なく、キーの≪開≫を押した。

紅の炎を纏った剣を薪に近づける。

ボッ、という音ともに火が着いた。

真冬の寒さではないが、日暮れ後のひんやりとした空気が少しずつ暖められていく。


マントルピースの上に燭台がある。

暖炉の中から細い枝をとりだし、ろうそくに火を灯す。

ずいぶん明るくなり、部屋の様子が見えてきた。

けっこうな広さで、窓際にベッド。中央に広いリビングテーブル。たぶん、玄関ドアと、別の部屋に行くためのドアが2つ見える。

「ふあああ」

部屋も温もり、眠気を催してきた。今日はいろんなことがありすぎた。

ゆっくり休んで、明日また、考えよう……

あたしはベッドへと潜りこんだ。




明るい朝の光がミキの顔を照らす。

「うわっ! 遅刻! いま何時? え? あれ?」

――そうか、昨日モブルって世界に来たんだった。

あたしはジャージ姿のまま、ベッドから起き上がった。

天窓からも光が差し、全体が見渡せた。

暖炉の横にあるドアを開けると、トイレがある。

――マジ?お風呂はないの?洗面所は?この世界の人はお風呂に入らないのかしら?

もう一つのドアを開けると、台所のようだ。

――やっぱり冷蔵庫も電子レンジもない。そうか。電気がない世界なんだ。大丈夫かなぁ。

あたしは、ポケットにあったスマホをみた。満充電の状態。

――昨日、変な神様が何かしてたな。

ピロン♪

びっくりして、スマホを落としそうになった。

“変な神様ではない。キュノーじゃ。”

「人の心を勝手に見ないで! それよりも、この家なんとかならないの? お風呂も洗面所もないし……」

ピロン♪

“わかった、わかった。他にはないか?”

「せめて、元の世界であたしの部屋のようにしてよね!」

ピロン♪

“面倒なことばかり……”

ピロン♪

“おまえが帰って来るまでに整えてやるから、≪地図≫を見て、ダイハの町へ行け。”

ピロン♪

“おまえと共に力を合わせてくれる仲間がいるはずじゃ”

「神様って意外とフリック速いのね?」

ピロン♪

“フリックとはなんじゃ? わしは、ソレに念を送っているだけじゃが……”

「あーそーなんだー。すごいね神様だもんね。(棒)」

ピロン♪

“やっと神だとわかったか。”

「うん、わかったから、リフォームとお引っ越し、お願いね!」

ピロン♪

“人づかいが荒いのぉ……”

「神様でしょ!」

ピロン♪

“……”


あたしは、スマホで≪地図≫を開いてみた。

現在地は、森のなかにいるようだ。

ダイハという町は、森を抜けた東側にある。

「よし、行ってみよう。」

あたしは家を出て、ダイハに向かって出発した。


週に1度、更新する予定です。

次回は「ダイハ編」。

2月10日に更新します。


続きを読みたい! と感じてくださったら、評価やコメントなどをよろしくお願いいたします。

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