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高安女子高生物語  作者: 大橋むつお
84/112

85:〔麻衣とあたしの意外な展開〕

高安女子高生物語・85

〔麻衣とあたしの意外な展開〕        



「あたし、テレビ局」


 麻衣が涼しい顔で言うた。


 まるで、ユニクロのバーゲンで、お目当てのバーゲン品掴んだみたいな気楽さやった。


 この土日は、みんなオープンキャンパスとかの下見に行った子が多いようで、朝から「どこいった?」いうような話題に花が咲いてた。しかし、所詮は二年の一学期。そんな切迫感はないけど、その分新しいテーマパークに行ってきたような無邪気な興奮があった。



 美枝とゆかりは同じ大学の経営学部。これは手堅いOL志向……と言うてええのか、適当に余白を持ちながら実質フリーハンドで二十代を生きていこという、手堅いともお気楽とも言える進路選択。

 そんな中で、うちと麻友だけが毛色が違う。むろんうちはMNBのオーディションに行ったなんて言わへん。成り行きで受けたオーディションやし、そのときは「負けるか!」いう気持ち満々やったけど、思い起こせば、その場の空気。行列があったら、とりあえず並んでみよという河内ギャル根性。並んで間に合うたら、とりあえず、それで満足。バーゲンなんかでは、このノリで、いらんもんを買うて後悔することが多い。

 それに特技でやった河内音頭はウケたけど、アイドルの特性からはズレてる。ファッションショーで、円周率を、とめどなく言いながら歩いたようなもんで、人はおかしがったり珍しがったりはするけど、ファッションの評価にならへんのといっしょ。それに、あれをやらしたんは、うちの中に住み着いてる楠正成。それもオッサンのイチビリや。とても人には言われへん。せやから人には「どこにも行ってへん」と答える。


 麻友もいっしょ。テレビ局いうのはオープンキャンパスはやってへん。説明会はあるやろけど、大学生オンリーや。


 例外は、他にもおった。ワールドカップをずっと見続けてた男子。もうサムライジャパンは負けたんやから、ええと思うねんけど、当人同士は真剣で、外国同士の試合でも熱が入って、とうとうケンカになった。

 高二にもなってガキっぽいと思うてたら、手が出始めた。委員長の安室くんが止めようと立ち上がりかけたとこに、麻友がすごい剣幕で二人の男子を罵りはじめた。どのくらいの剣幕かというと、日本語とちごてスペイン語で、身振りも完全なラテン系、最後は仕上げに二人をはり倒して教室を出ていった。


「どないしたん、麻友?」


 麻友は水飲み場で頭から水被ってた。アニメやったら猛烈な湯気のエフェクト入れるやろと思うぐらいに凄かった。誰かが職員室に言いに行ったんで、ガンダムが飛んできた。

「いったい、何があったんや!?」

「なんにもありません。ただ、サッカーのことぐらいでケンカしてる男子のバカさかげんが我慢できなかっただけです」

 水浸しになった麻友はブラウスまで水びちゃで、ブラジャーが透けて見える状態やった。南ラファがバスタオル持ってきて、やっと自分の姿に気ぃついたみたいで、女の子らしく顔を赤うしてた。


 麻友は、ただの隠れヤンチャクレとはちゃう。なにか心に傷を持ってると思うた。せやけど、軽々しい聞けるもんでもないと思た。


 麻衣の展開でびっくりして、その日の学校は終わったけど、家に帰ったらうちの番やった。


 MNBのオーディションに合格してしもた……!


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