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高安女子高生物語  作者: 大橋むつお
81/112

82:〔とりあえずはやね……〕

高安女子高生物語・82

 〔とりあえずはやね……〕        



 今日から水泳の授業が始まるいうこと!


 ビックリマークが付いてんのは、うちが忘れてて、昨日の終礼でガンダムが念押ししたんで思い出したから。



 進路もそやったけど、うちは、どうもその時その時少女。先のこと考えて計画たてたり行動すんのは苦手。毎日毎日を精一杯生きてるんで、先のことを考える余裕がない。とうのは言い訳で、ただ計画性が無いと、ガンダムもお母さんは言う。お父さんは、そういうとこ含めて、うちの面白さやと言うてくれる。そやけどお母さんは「あんたも一緒やから、自己弁護の変化球に過ぎひん」と手厳しい。


 で、昨夜は一騒ぎやった。


 水着なんかはすぐに見つかったんやけど、アンダーショーツが見つからへん。

「もう、去年の最後の水泳が終わった後、ちゃんとしとけへんからでしょ!」

 一時は、アンダーヘアーの処理まで考えたけど、正成のオッサンに笑われそうなんが癪の種。

 けっきょく二十分ほど探しまくって、Tシャツやらカットソーが入ってる衣装ケースの中から出てきた。で、後片付けが大変やった。父親譲りの始末の悪さて、お母さんが言うと、お父さんが抗議。

「おれは、どこになにがあるか、分かってる」

 で、いらんとこで夫婦喧嘩になりかけ。確かにお父さんは雑然としてるようで、モノを無くしたとは、あんまり言わへん。しかし、お母さんは「後始末が悪い」というくくり方なんで、お父さんの機能性のある雑然さは認めへん。なんで、この二人が夫婦になったか、よう分からへん。せやけど、その結果うちがおるわけで、この不条理はそのまま受け入れることにする。

 

 着替えでびっくりした。


 女子同士でも着替える時は、できるだけ人に肌が見えへんように着替える。


 ところが、ブラジルからの転校生新垣麻友は日ごろの清楚さからは想像もつかへん着替え方。更衣室へいくと着てるもんみんな脱いで素っ裸になってから、おもむろに水着を出し、それから鏡を見て、自分の体を点検しながら水着に着替える。

「みんなの方が変よ」

 と、麻友は言う。見かけは大和撫子やけど、この子の中身はラテン系やいうことがよう分かった。で、悔しいことに、プロポーションも肌の色艶も断然ええ。

「背中に羽根飾りとか付けてリオのカーニバルなんか出たら、似合うやろね」

「うん、今年の御堂筋パレードには出るから、観に来てよ」

 と、アッケラカ~ン。美枝が義理のお兄ちゃんと結婚したいいうのにもびっくりやけど、麻友のぶっ飛び方も、なかなかのもんや。


 うちらが、ノロノロ着替えてるうちに、麻友はストレッチすまして、さっさとプールへ。ノソノソ着替えたころには派手にプールに飛び込む音が聞こえた。

「すごい……」

 麻友は、プールの半分ぐらいまで潜水で泳いで、見事なクロール。ターンしてバタフライ。そこにガンダムが来た。

「誰や、許可もなしに先に泳いでるやつは!」

「あ、はい、あたしです!」

 水からジャンプして手ぇ上げて、まるで水着のCM、にっこり笑うたとこは歯磨きのCM。


 ちょっと説明。


 ほんまは、うちらの体育は、宇賀先生が担当やねんけど、運動会の怪我がまだ治らへんので、今週いっぱいはガンダムが代行。うちらは平気やけど、中には嫌がってる子もいてる。この嫌がり方も二通りで、先生とはいえ水着姿を男の前で晒すのに抵抗がある子と、ガンダムのマッチョな体が耐えられへんいう子。


 今日は水泳の初日やったんで、水に慣れることがテーマで、入念にストレッチやったあと、足からゆっくりと水につかって、上半身に十分水かけて心臓を慣らす。ほんで25メートル、プールを歩いたあと、ゆっくりと平泳ぎやったとこで時間切れ。


 この授業では収穫があった。


 麻友のラテンぶりに帰国子女の南ラファが好感持ってお友達になった。ラファは小学校のころに日本に来たんで、日本のやり方になじんでるけど、自分の感性に近い子を見つけられてうれしいみたい。

 ラファは副委員長もやってて、お仲間も多い。うちらだけと違うて、友達が増えたらええと思うた。


 見上げた空は梅雨の中休み。積乱雲がムクムク。なかなかのプール開きではありました。


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