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高安女子高生物語  作者: 大橋むつお
77/112

78:〔三者懇談〕

高安女子高生物語・78

 〔三者懇談〕        



「思慮深そうやけど、ちょっとオッチョコチョイですなあ」


 ガンダムの第一声がこれやった。


 お母さんはニコニコ聞いてる。


 で、その横で、お父さんが友好的なポーカーフェイス。


 うちは、ただただ恥ずかしいてドキドキ。三者懇談に両親が揃てくるとこなんかあれへん。これが恥ずかしい理由。

 ガンダムは元生指部長やった。他の先生よりも生徒を見る目が確かで厳しい。これがドキドキの理由。


 うちの親は二人とも元教師やさかい、懇談の手のうちなんかよう知ってる。


 お父さんは、いま学園ものを書いてるんで、その勉強のため言うて付いてきた。ようは暇なだけやねんけど、娘のうちは迷惑なだけ。うちの前が安室君(学級委員長)、後が秀才の新島君。当たり前やけど付いてきてるのはお母さん。控えめやけど、両親が揃て来てるのに興味津々いう顔してた。



「どんなところで、そうお感じになるんですか?」



 優しく、でも鋭く切り込んでくる。普通の親やったら、黙ってニコニコ聞き流すとこや。こういう抽象的な観察に、どれだけ具体的な裏付けを持ってるかで、教師の力が分かる。

「卒業式の時、式場に入りたがらん教師が何人か居てたんですけど、そういう教師に世間話を装っていじめとったようです」

 お父さんが、大きな声で笑た。お母さんはちょこっとうちを睨んだ。

「それから、一年の三学期にクラスの子が交通事故で亡くなったんですけど、ご家庭の事情で家族葬にされました。それを明日香は調べ上げて、火葬場の前でずっと待ってて、寒さのためにひっくりかえって、火葬場の事務所でお世話になりました」

「なんで、先生、そんなん知ってるのん!?」

「オレも、火葬場まで行ってたんや。まあ、明日香には言わんほうがええ思て、今まで知らんふりしてた」

「さすが先生ですね。あのことは、この子の頼みで内緒にしてたんですけど」

「明日香の優れたとこです。多少無茶なとこありますけど、大事にしてやりたいと思てます。そういうとこ見込んで転校生の世話なんか頼んだんですけど、転校生の子もしっかりしてて、まあ、結果的には、ええ当て馬になった思てます」


 うちのオッチョコチョイは他にもあるけど、先生は黙ってくれてた。観察力の鋭さと、その鋭さに、ちょっと温もりを感じた。


「しかし、成績は別もんですなあ……国・数・英が、かなり低いです。この期末と二学期にがんばっとかんと、三年で特別推薦で進学しよと思たら厳しいですね」

「明日香、がんばらなあかんで」

「分かってるて」

「ただ、国語の答案なんか見てますと、なんちゅうか、分かってるくせに、わざと違う答え書いて成績落としてるようなとこがあります」

「それについては心配してません。明日香は、自分の感性で喋ったり、文章書いたりする子です。要は自己主張する場所を間違うてるだけですんで、今度の期末は失敗しないと、親バカですが思ってます」

「そうですな。おたまじゃくしは、いつかカエルになるもんですからね」


 え、うちは成ってもカエルかよ?


「あとは、本人の進路希望ですな。明日香、おまえぐらいやぞ、進学希望に漠然と文系進学としか書いてないのは。なんか具体的に行きたい学部とかないんか?」

「どないやのん、明日香?」

 大人三人の視線がいっぺんに集まった。もううちも二年や、オチャラケた執行猶予言うわけにはいかへん……。

「演劇科のある大学にいきたいです!」

「え?」

 大人三人がびっくりしてた。そらそやろ……。


 口走った本人が、一番びっくりしたんやから……。


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