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高安女子高生物語  作者: 大橋むつお
72/112

72:『夏も近づく百十一夜・2』

高安女子高生物語・72

『夏も近づく百十一夜・2』



 えらいこっちゃ、ブログが炎上してしもた!


 南風先生のプロットをクソミソに言うてしもたうちは、凹みながら家に帰った。帰り道は美枝とゆかりといっしょ。

「どないしたん、なんか食べたいもん食べ損のうたん?」

「ひょっとして、南風先生と、なんかあったん?……さっき職員室行ったら、先生怖い顔してパソコン叩いてた。前の校長のパワハラのときは敵愾心満々の怖さやったけど、今日の怖さは、なにか人に凹まされたときの顔や。あの先生が凹む言うたら、クラブのことぐらい。で、クラブのことで、凹ませられるのは佐藤明日香ぐらいのもんやからな」

 最初の牧歌的な推論は、ゆかり。あとの鋭いのんが美枝。自分のことは見えへんのに、人の観察は鋭い。ああ、シャクに障る!


 で、うちに帰っても、自己嫌悪と美枝へのいらつきはおさまらへん。馬場さんに描いてもろたうちの肖像画も、なんやうちを非難がましく見てる双子の片割れみたい。いらんこと言い正成のオッサンも、こんなときはうちの中で寝てけつかる!

 そやけど、こんなときでも食欲が落ちひん。晩ご飯はしっかり食べた。そやけど、なに食べたかは五分後には忘れてた。て、ボケてるわけやない。それだけ苛ついてるいうこと。


 うちのお風呂の順番は、お母さん→うち→お父さんの順番(オヤジが最後いうのは、よそもやろなあ)で、お母さんは台所の後始末してから入る。その間、うちは洗濯物入れるのが仕事やけど、今日はピーカンやった天気が、夕方にはぐずつきだした(うちの気分といっしょ)そんでお母さんが早々と取り込んだんで、することがない。自然にパソコンのウェブを開く。

 O高校のブログが目に止まる。O高校は最近更新が頻繁……やと思たら毎日更新してる。


 エライと思た。毎日コツコツいうのは、人間一番でけへんこっちゃ。そない思うと読み込んでしまう。で、感動は、そこまでで、南風先生と同じようにひっかかってしまう。


「知っていたら、情報があったら観に行ったのに」と思う公演もたくさんあるのです。これって本当にもったいないことだと思いませんか? やはりどれだけ観劇が好きな人でも、情報なしに公演を観に行くことは出来ません。


 一見正論風に見える三行が、まるで南風先生の言葉みたいで、ひっかかった。

 情報は、その気になって探したら、ネットではわりに分かる。要は、その気になって探してる人が少ないいうこと。で、たまさか観たひとは、おもんないんでリピーターにはなれへんいう、ごく当たり前の視点が抜けてる。

 高校演劇は面白いものです。だから情報さえあればみんな観にくる。なんちゅう南風先生式楽観主義! 大阪の高校演劇の観客が少ないのは「おもんないから」いう認識がない。

 情報があったらうまいこといくんやったら、こんなにゲーム業界が不振なわけがない。国会中継はもっと視聴率がとれるはずや。


「大阪の高校演劇に集客力がないのはヘタクソなこと。まともな審査をせんこと」


 簡潔明瞭なコメントを書いた。で、先を読む「稽古やってます」「楽しかったです」「頑張ります」を簡単な描写と写真でつないで埋めただけ。ほんで、この写真があかん。

 役というのは表現するんと違う。受け止めること=リアクションや。それが結果として表現になる。それが、役者がバラバラに表現してるのが写真だけでも分かる。中にはボサーっと立ってるだけで、舞台空間に目的を持って存在してない……これも筆ならぬキーの勢いで書いてしもた。


 で、その明くる日のうちの「無精ブログ(その名の通りめったに更新せえへん)」は炎上した。


――アホ。どれだけ自分が偉いと思てんねん!――

――かれらの前向きな取り組みを、どうして評価しないんですか!――

――去年コンクールで落ちたこと、いつまでネチコイねん!――

――サイトの良い雰囲気が台無し。反省しろ!――

――あなたのは、無用なあおり、誹謗です。ネットのルールをまもりましょう――

――サルにルールは通用せえへん!――

――アホ、サルに失礼じゃ!――

――一度精神鑑定うけろ――

――おまえこそ、大阪高校演劇の恥じゃ!――

――PRの大切さを理解していない(広告代理店勤務)――

――あなた一人のことでOGH高校は、また評判を落としますね、それ分かってる?――


 キリないんでこれくらいにしときます。コメントは全部匿名。中には「あなたの心の良心」いうのもあって、うちの中の正成のオッサンが大笑い。

「明日香の心の中には、わいしかおらんのにな。わいやったら明日香のケツのホクロの場所まで知ってるぞ」

「うるさい、オッサン!」

「まあ、聞けや。反応があるいうのは、明日香が働きかけてるからや。それに明日香はえらい」

「なんで?」

「明日香は、ちゃんと名乗ってコメント書いてる。言うてることも正論や」

「それて……」

「分かってるみたいやな。明日香に芝居の未練がなかったら、南風のネエチャンに、あそこまでは言わへんし、この高校のブログにコメント書いたりせえへんかったやろ」

「それは……」


 気ぃついたら、うちはお風呂で体洗うてた。くそ正成!


「おお、発見。明日香怒ると、ケツのほくろがピクンとしよる!」


 うちは、急いで、心のシャッターを閉めた……。

  


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