表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
高安女子高生物語  作者: 大橋むつお
68/112

68:〔Let it go? Let it be?〕

高安女子高生物語・68

〔Let it go? Let it be?〕      



 試験の最終日は嬉しい!


 って、前にも言うたよね……学年末テストのときにも?

 で、二年になって最初のテストが終わった日も、やっぱり嬉しかった。


 出来はともかく。


 AMYエイミー三人娘は、試験の後エーベックス八尾まで『アナと雪の女王』を観にいくことにした。お父さんが友だちの映画評論家のオッチャンから招待券二枚もろてたから、一枚買うだけで三人が観られる!

 ビエラ玉造……ほら、前に紹介したでしょ。玉造駅にできた電車そっくりのモール。

 そこでラーメン食べて(ここのクーポン券はゆかりが持ってた) ニンニク入れたかったけど、映画館に行くんやから辛抱。ラーメン屋を出るとビエラに入ってる保育所から保母さんらに連れられた子供らが、お手々繋いで散歩に行くとこにでくわした。


 うちらよりカイラシイ? それはカイラシさの次元がちゃいます。


 美枝が、熱い眼差しで見てたんが気になったけど、うちもゆかりも何にも言わへん。言うだけのことは言うた。あとは美枝が決めること……できたら思いとどまってほしいけど……。


 映画館は思うたほど混んでなかったけど、三人並んで座れる余裕はなかった。インジャンして、ゆかりとうちが隣り同士、美枝は一人になった。


 さすがジブリが負けるだけのアニメではある。キレイなだけと違て、ちゃんとメッセージがある。


 LET IT GO!


 受け止め方は人それぞれやと思うけど、うちには「自信を持て!」いうように響いた。似たような言葉に RET IT BE!がある。うちには同じ意味に聞こえた。リピーターの人もいてるようで、歌のとこになったら口ずさんでる人もいてた。けど、邪魔にはなれへんかった。きっと同じ感動を共有してるからやと思う。


 エンドロールが流れて客席が明るなった。超えた席同士で顔をみあわせたらAMY三人娘は、それぞれの思いで目ぇ赤うしてた。


 ロビーに出たら、ショックなもん見てしもた。


 ちょうどうちらと入れ替わりに、関根先輩と美保先輩が入ってくるとこ。うちのLET IT GOは、たちまち萎んでしもた。

「明日香、メール入ってるんちゃうん」

 無意識にマナーモードを解除したスマホを見て美枝が言うた。お父さんからやった。


――いま焼き芋買うたとこや。よかったら三人で食べにおいで。タクシー代はもったる――


「三人とも、なかなかええ映画の見方してきたみたいやな」

 お父さんが、二つ目の焼き芋をまるかぶりしながら粉振ってきた。

「LET IT GOに感動しました」

 美枝が真っ先に言うた。

「ほう、どんな風に?」

「このままの自分でいいんだ……そんなふうに励まされました」

「このままでええいうのは、奥の深い言葉やね。そう、LET IT BEとどない意味がちゃうと思う?」

「え、いっしょちゃうのん?」

 うちは思うた通り返事した。

「僕は、ちゃうと思う」

「どんなふうにですか?」

「『LET IT BE』は、ただ優しいに『そのままでいい』やけど、『LET IT GO』やるだけのことはやって、言うだけのことは言うて、その後に出てくる『そのままでいい』 河内弁で言うたら『ほっとけや!』になる」

 美枝とゆかりが、コロコロと笑った。

「この部屋、一昨日と微妙に違いますね……」

 美枝が、部屋を見渡した。

「ああ、うちのオバハンがちょっと片づけよった」

「この人形……」

 ゆかりがガルパンの人形をシゲシゲと見た。

「一昨日までの表情が無い……」

「一昨日までは、なんだかムッとしてました。今は携帯を手に、ただ無表情に顔背けてるだけ」

「ほんまは、こないなるねん……」

 お父さんが、ちょっと顔の向きを変えた。


「あ、変わった!」


「どんなふうに?」

「なんだか携帯にイヤなメールが来て、ムッとして『ほっといて!』になりました」

「そう、これが『LET IT GO!』や」


「なるほど!」二人の声が揃った。


 うちには、その違いがよう分からへん。

「お母さんに、そない言うとうたるわ。勝手に片づけるなて」

「そら、言わんでええ。あいつには分からへん」


――だってさ――


 人形が、そう言ったような気がした……。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ