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高安女子高生物語  作者: 大橋むつお
67/112

67:〔今日はうちで、お勉強会〕

高安女子高生物語・67

〔今日はうちで、お勉強会〕       



 テストも、あと二日。


 で、今日は、うちの家でお勉強会。みんなも経験あると思うねんけど、こういう勉強会は、勉学的には、あんまり意味がない。けっきょくワイワイ喋って、それでお終い。


 せやけど、うちは、この「ワイワイ喋ってお終い」が必要やと思う。


 美枝のためにも、ゆかりを入れたうちら三人のためにも。たしかに一昨日はカラオケ行って、プリクラ撮って、友だちらしいにはできた。

 現状維持としては……互いに仲良そうにしてる仮面友だちとしては。

 せやけど、いざという時に一歩踏み出せる友だちであるためには、今、オチャラケではない三人の時間が必要やと思た。


「アホな明日香のために、頼むわ!」


 そない電話して、明日香のためならしゃあないなあ……そない思て電話したら、二人とも、あっさりOK。

「それ、ぜったいええわ。やろ、やろ!」これはゆかりの弁。

 ゆかりは美枝に言うだけのことは言うてる。けど、そのために付き合いが表面的になってしもてるのを気にしてる。カラオケやってても分かった。二人の仲の良さは不自然なくらいやった。あれは友だち慣れした見せかけの友だち。二人ともそれ誤魔化してるのんがもどかしい。

 そこを、新参者のうちがアホ役買って出て勉強会いうのは、我ながらええアイデア。


 正直いうと、例の正成のオッサンの入れ知恵やけどね。


「うわー、ええ部屋やんか!?」

 ゆかりが声をあげた。

「こんなオモチャ箱みたいな部屋好き!」

 美枝も賛同。


 今日は、一階のお父さんの部屋を借りた。三階のうちの部屋は両親の寝室と襖一枚で隣り合わせ。当然襖締めならあかんけど、この季節、三階は冷房が必要。それに、なにより部屋の片づけせんとあかん。で、お父さんに頼んだら二つ返事でOK。お父さんは久々に八尾まで出て映画でも観るらしい。


 とりあえず、二人が持ってきたお土産の回転焼きを食べた。

「ここ、お父さんの部屋?」

「うん。それぞれの部屋で住み分けてんねん」

「ふうん……まあ、勉強には適してるね。窓ないし、玄関ホール挟んでるから外の音も聞こえてけえへんし」

「ここは、元ガレージやってん。うちが赤ちゃんのころにジジババ引き取ること考えて二世帯住宅にしてん。お父さんは、ずっと二階のリビングで仕事してたけど、ジジババ亡くなってからは、お父さんの仕事場」

 今日は、真ん中の座卓の上のもん、みんな部屋の隅に片づけてもろてた。


「やあ、ええもん置いたあるやんか!」

 ゆかりが置き床に置いたある『こち亀』の亀有公園前派出所のプラモに気ぃついた。

「これ、お父さんが作らはったん?」

「あ、うち、子どもの頃『こち亀』好きやったから、せやけど、うち中学いくころには興味なくなったさかい、未完成のまま置いたあるねん」

「うわ、入り口動く。パトチャリまで置いたある。きれいに色塗ったあるねえ」

「あ、これヘンロンのラジコン戦車。お兄ちゃんも一個もってるわ」

 うちは、当たり前すぎて気ぃつかへんかった。おとうさんのガラクタ収集癖は昔から、隣の部屋はお父さんの物置。その部屋通らんと二階へは上がられへんから、二人は、まだ見てへん。それを言うと美枝が目ぇ輝かせて「見せて!」言うた。


「うわー、まるでハウルの部屋みたい!」

「ハウル?」

「ジブリの『ハウルの動く城』やんか。あのハウルの部屋みたい」


 うちは、いっつも、この部屋はスルーしてるから、改めて見るとゴミの中にもいろいろある。百ほどあるプラモの中には、実物大の標本の人間の首。それもスケルトン。これが何でか南北戦争の南軍の帽子被ってる。

 美枝が発見した棚の上には、1/16の戦車がずらり、あと航空母艦やら戦艦大和やらニッサンの自動車、飛行機、その他エトセトラ。で、周りの本箱には1000冊ほどの本がズラリ。うちが小学校のとき借りて読んでた『ブラックジャック』と『サザエさん』は全巻並んでた。

「すごい、これ、ホンマモンの鉄砲ちゃうのん!?」

「うん、本物らしいよ。無可動実銃いうらしいねんけど、キショクワルイよって、隅のほうに置たある……それは宮本武蔵の刀のレプリカ……その黒い箱はヨロイが入ってる。あ、足許気ぃつけてね。工具とかホッタラカシやから怪我するよ」

「ふうん、スゴイスゴイ!」

 二人で、同じ言葉を連発してた。

「まあ、ちょっとは勉強しよ」

 きりないんで、うちは切り上げを宣告。元の部屋に戻ると、また発見された。


「いやあ、なに、このリアルに可愛らしいのんわ?」


 それは仏壇の横で小さく体育座りしていて、うちは気ぃつかへんかった。

「あたし、知ってる。1/6のコレクタードールや。これ、ボディがシームレスで、33カ所も間接あって人間みたいにポーズとれるんよ」

 物知りのゆかりが、目を輝かせて言った。


 その子は制服らしき物を着て、知的で、心なし寂しげだけど。見ようによっては和ませてくれる……せやけど、うちは恥ずかしかった。仮にも妻子持ちのオッサンがこんなもんを!?


「アハハ、ガールズ&パンツアーや!」


 美枝が玄関ホールで声をあげた。

「この段ボール、1/6の戦車模型のキットや。お父さん、これに、その子乗せるつもりなんちゃう?」

 ああ、もう顔から火が出そう……。

「いや、うちのお父さんは本書きで、その……ラノベとか書いてるよってに、その資料いうか、雰囲気作りに……」


「明日香……お父さんの作品て読んだことあるのん?」

「え?」



 美枝の指摘は、スナイパーの狙撃にあった間抜けな女性情報諜報員のようやった。


 あたしは、生まれてこの方、お父さんの本を読んだことがない。極たまに、作品を書くために、うちらの世代の生活のことなんか聞いてくる。分かってる範囲で答えるけど、たいがい「分からへん」「そんなん人によってちゃう」とか顔も見んと邪魔くさそうに返事するだけ。


「ここは、ハウルの部屋やで……」

「隣の部屋は、もっと……」


 もう、たいがい死んでるのに、まだ撃ってこられるのはまいった。


「よかったら、これ読んだってくれる。お父さんの本」

 あたしは、クローゼットから、お父さんの本を取り出した。

「うわー、こんなにあるん!」

「あ、印税代わりに出版社から送ってきた本。お父さん印税とれるほど売れてないし。まあオッサンの生き甲斐。あんたらみたいな現役の高校生に読んでもろたら、お父さんも喜ぶ」


「ありがとう」と、ゆかり。


「せやけど、まずは娘のあんたが読んだげなら……」


 で、午前中は、お父さんの本の読書会になった。

「お父さんて、三つ下の妹さんがいてはってんね……」

 短編集を読んでいたゆかりが言った。

「この子三カ月で堕ろされてんねんね……」

 美枝がトドメを刺す。


 うちは初耳やった……いや、言うてたのかもしれへんけど、うちはええかげんに聞いてただけかもしれへん。


 痛かったけど、有意義な勉強会やった……。


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