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高安女子高生物語  作者: 大橋むつお
63/112

63:〔うろがけえへん〕

高安女子高生物語・63

〔うろがけえへん〕        



「うろがくる」とは、標準語で「うろたえる」という意味。


 せやから「うろがけえへん」とは「うろたえへん」という意味。

 で、なににうろたえへんかというと、試験前の土曜やいうのに、勉強する気もおこらへんし、うろもけえへん。


 うちは英数が欠点。国語が、かつかつの40点。むろん欠点の英数は追認考査で挽回……これは、だれにでもできる。なんせ、落ちたときのテストと答の両方が事前に配られ、その通りの問題が出る。これで落ちるやつは、よっぽどのアホか、学校にのっぴきならへん反発心のある見上げたやつ。で、そんな見上げたようなやつはおらへんので追認は受けたら、みんな通る。

 ようは「恐れ入りました、お代官様!」という恭順の意が示せるかどうか。


 うちは、お父さんの時代みたいに「造反有理」なんちゅうことは言いません。学校いうとこは、そんな帰属意識もなければ、反骨の気持ちもない。せやからチャンスくれるんやったら、惜しげもなく恭順の意を示して追試受けて、帳尻を合わせる。


 しかし、追試まで赤点のままやいうのはケタクソワルイ。「今年こそは、欠点とらへんぞ!」学期始めは一応決心。せやけど毎日タラタラつまらん授業受けてるうちに、そんな気持ちは、春の日差しの中で蒸発してしまう。

 とにかく、学校の授業はおもんない。学校の先生いうのはしゃべりが下手や。国語の教材に『富岳百景』があった。うちは、とうに文庫で読んでたから中味知ってたけど、先生が読むと、太宰治が生きてたら怒るやろなあいうくらい下手。もう文学の冒涜やいうてもええくらい。

 説明も下手というよりは、伝えよいう気が無い。


『富岳百景』の時代は昭和十三年の秋。舞台は甲州(山梨県)の御坂峠。これについて先生は何も語らへん。


 うちら山いうたら生駒山か、せいぜい金剛山。生駒山は、むつかしい言葉では傾動地塊という。大昔地べた同士が押し合いして、ポコンと浮き上がったんが生駒山。いわば地面の断面そのもの。せやからダラダラした頂上のない壁みたいな山。そこへいくと甲州の山は、それぞれ高々としてて人格を感じる。富士山なんかは、もう神さま。やっぱりそういう描写をしながら授業せんと『富岳百景』の世界には入っていかれへん。

 

 せめて高さ。

 

 3776メートルいうても大阪の子ぉはピンとけえへん。「生駒山の六倍の高さや!」言うて、窓の外の生駒山見せるだけでちゃうと思うんやけどなあ。「ほんで、その高さで一個の山や!」それで話の世界に入っていける。

 それに、あの話には人間の美しいとこしか出てけえへん。太宰が連泊してた天下茶屋は女将さんと娘さんしか出てけえへんけど、店の主人は戦争にとられて中国に行ってた。毎日中国では日本兵が三桁の単位で戦死してた時代。残された家族が心配ないわけない。せやけど、太宰は、あえて書いてへん。ラストの女郎さんらの遠足も、どこか牧歌的。そういう事情を知ってたら、あの作品から見えてくるもんは、もっと奥が深い。太宰の「単一表現」の苦しさと面白さの両方が分かる。


 以上は、テストの解答用紙の裏に書いた内容。おかげで40点。


 英語は、国語以上にどないしょうもない。なんで文法なんかやるかなあ。アメリカの子は文法なんか考えんと英語喋ってるのは当たり前やのに。それに先生らの英語の発音の悪いこと。

 うちは映画好きやから、よう見るけどメルリ・リープやらアン・ハサウェイなんか、ごっついいけてる。『プラダを着た悪魔』なんか最高にオシャレな映画やし、オシャレな英語が飛び交ってる。


 チャーチルが二日酔いで、議会に出たときオバチャンの議員さんに怒られた。そのとき返した言葉がふるってる。

{I am drunk today madam, and tomorrow I shall be sober but you will still be ugly}


 訳すと、こうなる。


「そうやマダム、私は酔っ払ってる。しかし朝には私は酔いは覚めてシラフになるけど、あんたは朝になっても不細工や」

 うちは、面白いから英語のまま覚えてる。


 で、こんなことばっかり言うて、ちょっとも勉強しません。はい。


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