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高安女子高生物語  作者: 大橋むつお
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6:〔我が家の事情&初稽古〕

高安女子高生物語・6

〔我が家の事情&初稽古〕  



 信じられへんけど、我が家には定期収入が無い。


 お父さんもお母さんも、もとは学校の先生やったけど、二人とも早期退職してしもた。

 お父さんは、あたしが中学上がるときに。

 お母さんは……多分小学校の三年のときに。


 なにから話したらええんやろ……。


 お父さんは、高校の先生やった。けどいわゆるドサマワリいうやつで、要は困難校専門の先生。

 校内暴力やら喫煙は当たり前で、強盗傷害やらシャブやってるような子ぉまでおった。当然勉強はでけへん。240人入学して、卒業すんのは100人もおらへん。たいていの子ぉが一年のうちに辞めていきよる。せやから学校で一番しんどい仕事は一年生の担任。運が良うても、クラスの1/3は辞めていく。人数で12人から18人くらい。それを無事に退学させんのが担任の仕事。それも学校に恨みを残すような辞めさせかたはあかん。


「ありがとうございました。お世話になりました」


 と、学校には感謝の気持ちを残させて辞めさせる。専門用語では『進路変更』というらしい。辞めるまでに、電話やら家庭訪問やら何十編もやる。お父さんは『営業』や言うて割り切ってたけど、ほんま日曜も、よう出かけてた。


 そんな最中にお婆ちゃんが認知症になっておかしなりはじめた。放っとけんようになって、お父さんは、初めて担任を断った。子供心にも「当たり前や」思た。

 せやけど、えげつない学校で、お父さんをムリクリ担任にしよった。最後は職員会議で「佐藤先生を担任にする動議」に掛けられ賛成多数で担任に。お父さんは四月一日から落第で落ちてきた生徒の家庭訪問に行ってた。土曜は祖父ちゃん婆ちゃんの面倒見にいって、日曜の半分は家庭訪問やらの仕事して、月に二回くらいは早朝に祖父ちゃんから電話で呼び出される。

「救急車ぐらい、自分で呼べよ!」

 そうグチりながらも、茨木の実家まで行って世話してた。ほんで五月に婆ちゃんが認知症のまま骨折で入院してしもた。介護休暇とって世話してたけど、復職したらクラスはムチャクチャ。

 こんなんが、二年続いて、お父さんは鬱病になってしもた。

 で、二年休職したけど治らへんで辞めざるをえんかった。


 お母さんも似てる。お祖父ちゃん(お母さんのオトン)が腎臓障害から、ほとんど失明した上に、心臓疾患と脳内出血で長期入院。お婆ちゃんは脚が不自由で、世話はお母さんと伯母ちゃんでやってた。

 そこへ、いきなり六年生の担任やれと校長のオバハンに言われた。お母さんの学校は情に厚い人がおって「佐藤先生の代わりにボクがやります」いう人まで現れた。

「校長としていっぺん判断したことやから、変えられません!」

 意固地な女校長で、お母さんも頭にきてしもて、三月の末に辞表を出しよった。

 お母さんは、それから講師登録して講師でしばらく続けてたけど、あたしが高校いく直前に、それも辞めてしもた。


 子供心にも、どないなんねんやろ思うたけど……どないかなってるみたい。


 お父さんもお母さんも、万一のために、わりと貯金してたみたい。それと個人年金でなんとかなってるみたい。

 ついでに、あたしが生まれたんは、お父さんが43歳、お母さんが41歳のとき。二人とも歳よりは若う見える。

「あたしのことが生き甲斐になってんねんで」

 と言うけど、どうも夫婦そろて生来の楽天家みたい……言いながら、お父さんの鬱病はまだ完治せえへん。月一回の通院と眠剤が欠かされへん。


 で、家の事情を長々と説明したんは……もう分かってると思うけど。


 今日から学校で稽古が始まるから。やっぱり一人芝居の主役はしんどいねん!!




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